労働安全衛生総合研究所

国連危険物輸送勧告(TDG)

 化学物質情報管理研究センターでは、GHSだけでなく国連危険物輸送勧告(United Nations Recommendations on the Transport of Dangerous Goods(TDG))に関する和訳や情報収集・調査研究も行っています。
このページでは、化学品の危険有害性とTDGの関連について解説します。

 化学物質は、私たちの生活の色々な場面で活用されており、今や社会に欠かせないものとなっています。 しかし、化学物質は私たちの生活の利便性を高めてくれる一方、危険性や有害性があるものもあります。それぞれの性質に応じて、適切な取り扱いをしなければなりません。

目次


◆TDGとは

 海路や陸路で日々大量に運ばれて私たちの生活を支える化学物質ですが、その中には、危険性や有害性をもつもの(危険物)が非常に多くあります。国境を超えて世界中を安全に行き来させるには、輸送方法や容器、危険有害性の情報伝達など、国際的なルールが不可欠です。
 そこで、国連経済社会理事会の中に危険物輸送専門家委員会が置かれ、国際ルールを定めることとなりました。1956年、そこで作成されたTDG文書の初版が出版され、その後も、技術の進歩と利用者のニーズの変化に対応するため、同委員会で改訂と更新が行われています。
 "TDG"は、United Nations Recommendations on the Transport of Dangerous Goods (国連危険物輸送に関する勧告)の省略名です。資料によっては"UNRTDG"と表記するものもあります。

TDGに関しては2種類の文書が発行されています。

なお、「モデル規則」及び「試験方法及び判定基準のマニュアル」の原文に関する著作権は、すべて国連に帰属するものであり、当サイトの翻訳は、国連及び翻訳物を出版する出版社の許諾を得て掲載するものです。

 モデル規則
  危険物の定義や危険物リスト、容器等についての文書。
  表紙がオレンジ色のため、「オレンジブック」とも呼ばれる。
  第Ⅰ巻と第Ⅱ巻の2分冊からなる。
  2年に1回更新。
  2023年7月時点の最新版は2021年に公表された第22版。

・和訳 国連モデル規則 危険物輸送に関する勧告 モデル規則改訂22版
(令和6年3月21日に和訳版第Ⅰ巻を一部更新)
第Ⅰ巻(PDF:4MB) 第Ⅱ巻(PDF:4MB)
・原文 UN Model Regulations Rev. 22 (2021) Rev. 22 (2021) | UNECE


 試験方法及び判定基準のマニュアル
  危険物を判断するための試験方法や判定基準についての文書。
  更新は不定期。
  最新版は2019年に公表された第7版。
  7版からTDG及びGHSの合同文書となった。

◆GHSとTDGの対比

 GHS分類の物理化学的危険性は、TDGと深い関係があります。GHS分類者はTDGの原則も理解しておく必要があります。


GHS 分類 GHS区分 TDG(注:( )内の数字は副次危険)
爆発物 不安定爆発物 輸送禁止(国連番号なし)
区分1.1 区分1.1
区分1.2 区分1.2
区分1.3 区分1.3
区分1.4 区分1.4
区分1.5 区分1.5
区分1.6 区分1.6
可燃性ガス 可燃性ガス区分1 区分2.1又は2.3(2.1)
可燃性ガス区分2 非危険物(国連番号なし)
自然発火性ガス 輸送禁止。安定化して輸送可能にすれば区分2.1。
化学的に不安定なガスA
化学的に不安定なガスB
エアゾール 区分1 UN1950
TDG危険物リストで区分1~3の区別はできない。
区分2
区分3
酸化性ガス 区分1 区分2.2(5.1)又は2.3(5.1)
高圧ガス 圧縮ガス クラス2 圧縮ガス
液化ガス クラス2 液化ガス
深冷液化ガス クラス2 深冷液化ガス
溶解ガス クラス2 溶解ガス
引火性液体 区分1 クラス3 容器等級Ⅰ
区分2 クラス3 容器等級Ⅱ
区分3 クラス3 容器等級Ⅲ
区分4 非危険物(国連番号なし)
可燃性固体 区分1 区分4.1 容器等級Ⅱ
区分2 区分4.1 容器等級Ⅲ
自己反応性化学品 タイプA 輸送禁止(国連番号なし)
タイプB 区分4.1、UN3221, 3222, 3231, 3232
タイプC 区分4.1、UN3223, 3224, 3233, 3234
タイプD 区分4.1、UN3225, 3226, 3235, 3236
タイプE 区分4.1、UN3227, 3228, 3237, 3238
タイプF 区分4.1、UN3229, 3230, 3239, 3240
タイプG 非危険物(国連番号なし)
自然発火性液体 区分1 区分4.2 容器等級Ⅰ(液体)
自然発火性固体 区分1 区分4.2 容器等級Ⅰ(固体)
自己発熱性化学品 区分1 区分4.2 容器等級Ⅱ
区分2 区分4.2 容器等級Ⅲ
水反応可燃性化学品 区分1 区分4.3 容器等級Ⅰ又は4.2(4.3)
区分2 区分4.3 容器等級Ⅱ
区分3 区分4.3 容器等級Ⅲ
酸化性液体 区分1 区分5.1 容器等級Ⅰ(液体)
区分2 区分5.1 容器等級Ⅱ(液体)
区分3 区分5.1 容器等級Ⅲ(液体)
酸化性固体 区分1 区分5.1 容器等級Ⅰ(固体)
区分2 区分5.1 容器等級Ⅱ(固体)
区分3 区分5.1 容器等級Ⅲ(固体)
有機過酸化物 タイプA 輸送禁止(国連番号なし)
タイプB 区分5.2、UN3101, 3102, 3111, 3112
タイプC 区分5.2、UN3103, 3104, 3113, 3114
タイプD 区分5.2、UN3105, 3106, 3115, 3116
タイプE 区分5.2、UN3107, 3108, 3117, 3118
タイプF 区分5.2、UN3109, 3110, 3119, 3120
タイプG 非危険物(国連番号なし)
金属腐食性 区分1 クラス8
(TDG危険物リストでは皮膚腐食性との区別はできない)
鈍性化爆発物 区分1 液体鈍性化爆発物はクラス3
固体鈍性化爆発物は区分4.1 容器等級Ⅰ
輸送における鈍性化爆発物として国連番号の指定はあるが、危険物リストで区分1~4の区別はできない。
区分2
区分3
区分4

 GHS物理化学的危険性の試験方法や判定基準は、その多くがTDGと同じです。GHS文書の各章に、試験方法及び判定基準のマニュアル のどこを参照すべきか記載されています。

◆危険物リストの項目、読み方

 また、SDSでは、第14項で輸送上の注意点を記載することになっています。国連で定められた危険物に該当すれば「国連番号」「品名」「国連分類」「容器等級」等を記載しますが、それらを定義しているのがTDGモデル規則です。SDS作成者がTDGの原則を理解することは、間違いのないSDSを作成することにつながります


スライドダウンロード


◆TDGと労働災害防止

 このTDG文書は、陸上輸送、海上輸送、航空輸送の土台になっています。日本の船舶安全法及び航空法は、TDGの流れを汲む規定です。
 しかし、日本の陸上輸送についてはTDGと関連性がなく、個別の国内法規(道路法、消防法など)で対応することになっています。そのため、国際規制に則って船や飛行機で輸送されてきた化学品が、陸上輸送において危険有害性が適切に伝達されなかったり認識されなかったりして、薬傷などの人的被害につながった事例が複数報告されています。
このような化学品による労働災害を防ぐには、陸上輸送の関係者もTDGを通して化学品の危険有害性を理解することが有効です。
 まずは、TDGの標札又はGHSの絵表示の意味を知りましょう。
 そして、容器や箱に標札や絵表示があれば、ラベルの詳細内容をきちんと読み取ることを習慣づけましょう


絵表示の例

ADR:

European Agreement concerning the International Carriage of Dangerous Goods by Road
(欧州危険物国際道路輸送協定)

IMDG code:

International Maritime Dangerous Goods code
(国際海上危険物規程)

ICAO-TI:

International Civil Aviation Organization-Technical Instructions for the Safe Transport of Dangerous Goods by Air
(国際民間航空機関-危険物の航空安全輸送に係る技術指針)

IATA-DGR:

International Air Transport Association-Dangerous Goods Regulations
(国際航空運送協会-危険物規則)


★TDGの標札やGHSの絵表示の意味
GHS文書 (改訂9版) (和訳)(付属書1)をご参照ください。

◆関連リンク

研究グループ 研究活動の紹介

研究グループ

センター・調査研究センター