労働安全衛生総合研究所

職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会報告書の概要紹介
~ 化学物質への理解を高め自律的な管理を基本とする仕組みへ ~



(画像クリックで厚生労働省のページにリンクします)

動画による解説はこちら(YouTube JNIOSHチャンネル)



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◆化学物質の管理が大きく変わろうとしています

 労働者が職場で健康を損ねることなく安全に働くことができるように、労働安全衛生法でさまざまな規制が定められています。
 このうち、化学物質の規制が大きく変わろうとしています。
 ここではその見直しを提案した「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会—報告書」の概要を紹介します。
 この報告書は、政府、労働組合関係者、経営者団体関係者、学会等の専門家による2年間にわたる検討の結果が取りまとめられたものです。


◆自律管理型への転換の、背景と提言

 この検討会が開催された背景として、

  1. ① 日本の化学物質管理は「法令準拠型」すなわち限られた特定の物質や作業に対する規制を守ることで行われてきた
  2. ② 一方、工場等で日常的に使われている物質は数万に上り、その用途もさまざまである
  3. ③ 労働災害の多くは規制されていない物質により発生しており、この中にはがんのような重い健康障害も含まれる
  4. ④ 規模の小さい事業場での災害発生が多い
  5. ⑤ 物質の危険性・有害性情報を伝達する制度の対象が限定的

 などがあります。
 このような現状から日本でも欧米のような「自律管理型」の化学物質管理の必要性が言われるようになりました。
 「自律管理型」とは基本的な枠組みと達成すべき指標だけを示し、具体的な管理手法は事業者が選択・決定するという事を意味します。
 これを実現するために報告書では以下のことを提言しています。

  1. ① 化学物質の危険性・有害性に関する情報伝達を強化する
  2. ② 危険性有害性情報に基づいたリスクアセスメントの実施と対策を基本とする
  3. ③ 化学物質の自律的な管理のための実施体制を確立する
  4. ④ 小規模事業場支援を幅広く行う

◆現在の化学物質規制の仕組み(特化則等による個別具体的規制を中心とする規制)

 これが現在の化学物質規制のイメージです。

 一番上の8物質は有害性が極めて高く、製造・使用等が禁止される物質。  その下の123物質はがんなどの重い健康障害を防止するために、作業環境測定、健康診断、局所排気装置の設置などが義務づけられる物質です。
 この123物質も含んだ674物質には容器へのラベル表示・SDS/安全データシートの交付により危険性有害性情報が伝達され、この情報に基づくリスクアセスメントの実施が義務づけられます。
 一方、このような義務づけを嫌って、危険性・有害性の確認・評価を十分にせずに義務のかからない物質に代替し、対策不十分なまま使うようなこともあり、近年の調査では化学物質による労働災害の8割は、具体的な措置義務がかかっていない物質で起きています。


◆化学物質規制体系の見直し(自律的な管理を基軸とする規制への移行)

 「自律的管理」においては、危険性・有害性に関する情報が確実に伝達される必要があります。
 そこで国が危険性・有害性分類(GHS分類)を行い、危険性・有害性が確認された全ての物質を対象として、譲渡・提供時に、ラベル表示やSDS交付によって危険性・有害性の情報を伝達することを義務づけ、伝達された情報に基づいてリスクアセスメントを実施し、労働者が吸入する濃度が国が定める管理基準を超えないようにすることが義務づけられます。

 このような「自律的な管理」を5年後までに定着させることを目標としており、現行の特化則及び有機則等に含まれる対象物質も「自律的な管理」で管理できる環境が整ったら、これらの規則は廃止し、「自律的な管理」に一本化します。


◆見直し後の化学物質規制の仕組み(自律的な管理を基軸とする規制)

 「自律的な管理」に必要な危険性・有害性情報の伝達強化に伴って、対象物質(※)が大幅に拡大します。
 (※対象となる物質は、国によるGHSに基づく危険性・有害性の分類の結果、危険性・有害性の区分がある全ての物質です。
 GHS分類済みの物質の一覧はNITEの「政府によるGHS分類結果」のページで確認できます)
 そして、国が定めた管理基準を達成する手段は、例えば、

  1. ① 有害性の低い物質への変更
  2. ② 密閉化・換気装置設置等
  3. ③ 作業手順の改善等
  4. ④ 有効な呼吸用保護具の使用

 などの中から、有害性情報に基づくリスクアセスメントの結果を踏まえて事業者が選ぶことができます。

 赤枠オレンジ色の背景部分について説明します。
 国のGHS分類により危険性・有害性が確認された全ての物質は、ラベル表示・SDS交付及びリスクアセスメントが義務づけられますが、ばく露濃度の管理基準が設定されるのは一部の物質だけなので、ばく露濃度を国が定める管理基準以下とする義務がかかる物質と、ばく露濃度をなるべく低くする措置を講じる義務がかかる物質に分かれます。
 さらに、皮膚から吸収される物質や皮膚につくと薬傷などを引き起こす物質も管理の対象となります。


◆国によるGHS分類およびラベル表示等の義務化スケジュール

 これまでに約3100物質がGHS分類され公表されていますが、表の上段にあるように、国によるGHS分類は毎年50~100物質のペースで今後も続き、これらは順次ラベル表示・SDS交付が義務化されます。
 既に分類され、まだラベル表示・SDS交付の義務化がされていない物質は、表の中段のスケジュールで順次義務化される予定です。
 さらに下段には、ばく露濃度の管理基準が設定されるスケジュールを示しています。


◆化学物質の自律的な管理のための実施体制の確立

 この表は「自律的な管理」を実行する体制と必要な教育について示しています。
 化学物質を使う全ての事業場に化学物質管理者の選任が義務づけられ、その役割は

 など化学物質管理の全般にわたります。
 また、保護具着用管理責任者は、ばく露防止対策として保護具を使う化学物質取扱い事業場には選任義務があります。
 化学物質管理の教育は、職長や一般作業者にも拡大されます。
 また、小規模事業場からの相談に応じる専門家を確保育成し、中小企業向けの相談・支援体制の整備も順次具体化されていきます。

◆おわりに

 以上が「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会」の報告書の概要の紹介となります。
 さらなる詳細については厚生労働省がプレスリリースしている報告書をぜひご覧ください。
 そして化学物質による労働災害により苦しむ労働者をなくすために、化学物質への理解を高め自律的な管理を基本とする仕組みへと転換するにあたり、わたしたち化学物質情報管理研究センターは、皆様への情報発信を今後も行っていきます。
 よろしくお願いいたします。


◆参考資料(リンク先は厚生労働省)

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