労働安全衛生総合研究所

研究紹介(センターが取り組む研究に関連する研究論文の紹介 E: 睡眠)


  1. 短時間睡眠は虚血性心疾患のリスクを増加させる(Garde AH et al. Scand J Work Environ Health. 2013)
  2. 労働者の労働時間,睡眠時間,休日数と運動負荷試験中の血圧反応との関係(道下ら. 産業衛生学雑誌. 2016)
  3. 循環器疾患を発症した労働者の発症前の疲労状態(斉藤良夫. 労働科学. 1993)
  4. 睡眠時間と冠動脈性心疾患の関連性(Wang et al. Int J Cardiol. 2016)
  5. 睡眠をとっていない人の顔の特徴(Sundelin et al., Sleep 2013)
  6. わが国のホワイトカラー男性労働者における長時間労働と睡眠問題の関連(Nakashima et al. J Sleep Res. 2011)
  7. 交代勤務における短い勤務間隔と健康との関係—文献レビューより
  8. 休暇中より睡眠の質が悪い教師とそうでない教師の社会的職業特性の比較
  9. 睡眠時間と死亡率–週末の睡眠時間も含めた検討(Åkerstedt et al., J Sleep Res. In press)
  10. 11時間未満の勤務間インターバルと夜勤は労働災害の発生と関連する(Vedaa et al. International Archives of Occupational and Environmental Health. 2019)
  11. 平日と休日の睡眠時間と脳・心臓疾患の関連性:中国南部で行われた横断調査研究(Hu et al. Sleep Medicine. 2018)
  12. ソーシャルジェットラグは、有害な内分泌、行動、心血管リスク特性と関連するか?(Rutters F, et al. J Biol Rhythms. 2014)
  13. 睡眠の損失は個人,集団,社会のいずれのレベルでも他者への援助を抑制する

短時間睡眠は虚血性心疾患のリスクを増加させる

出典論文:

Garde AH et al. Sleep duration and ischemic heart disease and all-cause mortality: prospective cohort study on effects of tranquilizers/hypnotics and perceived stress. Scand J Work Environ Health. 2013 Nov;39(6):550-8 PMID: 23804297.

著者の所属機関:

デンマーク国立労働環境研究所等

内容:

本研究では40-59歳の男性労働者5249名を対象にして、30年間、追跡調査を行った。その結果、全対象者の死亡率は53.9%となり、虚血性心疾患の死亡率は全対象者の11.9%であった。睡眠時間が6時間未満の短時間睡眠者(276名)では、睡眠時間が6-7時間の者(3837名)と比較して、虚血性心疾患のリスクがおよそ1.5倍増加していた。しかし、全死因にその関連は見られなかった。仕事や余暇中の心理的プレッシャーは睡眠時間の短縮と虚血性心疾患死亡率の増加に影響が見られなかった。一方、精神安定剤・睡眠薬を服用していた者の中では、睡眠時間が6-7時間の者と比較して、短時間睡眠者は虚血性心疾患死亡リスクが2-3倍増加していた。なお、精神安定剤・睡眠薬を服用していなかった者に関しては、睡眠時間と虚血性心疾患死亡率の間の関連は認められなかった。

解説:

短時間睡眠と脳・心臓疾患の発症率の関係は多数報告されており、本論文もそのうちの一つである。さらに、本論文は、睡眠薬等を服用していても睡眠時間が短い者では虚血性心疾患のリスクが高いことを明らかにしている。睡眠は心身を休めるために重要であり、そのための時間を確保することが必要である。


労働者の労働時間,睡眠時間,休日数と運動負荷試験中の血圧反応との関係

出典論文:

道下ら. 労働者の労働時間,睡眠時間,休日数と運動負荷試験中の血圧反応との関係. 産業衛生学雑誌. 2016;58(1):11-20. doi: 10.1539/sangyoeisei.B15021. Epub 2015 Oct 23. PMID: 26497611.[Article in Japanese]

著者の所属機関:

産業医学大学等

内容:

 本研究では、勤労者の職場環境や労働形態、労働時間、睡眠時間、休日数と運動負荷試験中の収縮期血圧の反応との関係について横断的に検討した。安静時血圧が正常であった労働者362名(男性79名、女性283名、平均年齢49.1±11.1歳)を対象とし、自転車エルゴメータを使用して多段階漸増運動負荷試験を実施した。各負荷終了1分前に血圧を測定し、運動負荷試験中の収縮期血圧の最大値が男性210mmHg以上、女性190mmHg以上を過剰血圧反応と定義した。また、職場の有害環境(粉じん、特定化学物質など)や労働形態、労働時間、睡眠時間、休日数、通勤時および仕事中の身体活動時間、余暇時の運動時間について自己式調査票により調査した。その結果、362名中94名(26.0%)に運動負荷試験中の過剰な収縮期血圧の上昇が認められた。有害環境や労働時間、睡眠時間、休日数、通勤時の身体活動時間別による過剰血圧反応発生率について検討したところ、過剰血圧反応発生と関連する要因は、労働時間が1日10時間以上、睡眠時間が1日6時間未満、休日数が週1日以下であった。労働時間、睡眠時間、休日数を3分割し、それぞれの組み合わせによる過剰血圧反応発生率について検討したところ、労働時間が長く、睡眠時間、休日数が少ないほど、過剰血圧反応発生率が高かった。

解説:

 労働時間が長く、睡眠時間や休日数が少ない勤労者は、将来の高血圧症や心血管疾病発症のリスクが高いことが報告されている。これらの労働者の日常生活や職場において、運動負荷時の血圧変動を把握し健康指導の情報として活用することは高血圧症や心血管疾病の新規発症、過労死の予防につながるではないかと考えられる。今後、労働時間、睡眠時間、休日数と運動負荷試験中の過剰血圧反応との直接的な因果関係についてさらに詳細に検討していく必要がある。


循環器疾患を発症した労働者の発症前の疲労状態(斉藤良夫. 労働科学. 1993)

出典論文:

斉藤良夫.循環器疾患を発症した労働者の発症前の疲労状態.労働科学 69巻,9号;387-400.

著者の所属機関:

中央大学文学部心理学研究室

内容:

 本研究は、循環器疾患の被災者遺族を対象にして、「過労死」発症前の疲労状態について明らかにするために、17名の被災者の妻あるいは母親に対して面接調査を実施したものである。面接は、1991年10月から約1年間の間に実施された。面接対象者1名につき2時間から3時間かけて、過労死の被災者における疾病の発症状況、労働状況、平日や休日の生活、勤務日の帰宅後や休日における疲労感の表出、休息や睡眠に関する行動などであった。これまでの先行研究では、過労死発症に関連する労働環境の要因(長時間労働や勤務形態など)を抽出することが主な目的であった。それに対して、本研究では、労働者個々人が、過労死発症に至るまでに、どのような訴えや生活上の変化があったのかについて焦点を当てている点に特徴がある。

 主な結果は次の通りであった。多くの発症者は虚血性心疾患や脳血管系の疾患に特有な心臓部の痛みや頭痛を訴えていた。それに加えて、過労死発症者に認められた過労や疲弊徴候としては、1)週末の休日での昼間の生活が睡眠中心になること、つまり、活動性の非常に低い過ごし方をしていたこと、2)新聞を玄関まで取りに行けなくなるといったように、活動力や気力の著しい低下によって、普段行ってきたことができなくなること、3)朝の起床時の寝起きの異常な悪さ、朝食後に家を出る時間まで寝室で横になること、または帰宅後の夕食や入浴もできないことなどの行動上に現れる著しい睡眠欲求、4)食欲減退や体重の減少がみられたこと、にまとめられた。さらに、過労死発症の労働負担要因によって、著しく、かつ長期間持続する緊張感、焦燥感、不安感、抑うつ感などの心理的負担感の表出や、夜眠れない、就寝しても深夜目覚めてしまうなどの睡眠障害の徴候が認められた。

解説:

 本研究は1991年に実施されたものではあるが、過労死研究の中でも重要な知見として位置づけられる論文である。従来の研究では、長時間労働やノルマの高い勤務などの過労死発症の環境要因(労働時間や勤務形態など)について検討する事例研究が多かった。しかし、本研究では、労働者個々人に注目して、彼らの疲労状態から労働・生活上での行動上の変化を抽出しようとしている点に特徴がある。また、本研究は、過労死特有の疲労徴候という視点で、家族の気づきを促し、家族の側からの過労死発症の予防策の可能性を呈している。そのような点からも、本研究は、現在の過労死研究につながる多くの示唆に富んだ知見であると考えられる。


睡眠時間と冠動脈性心疾患の関連性(Wang et al. Int J Cardiol. 2016)

出典論文:

Wang D, Li W, Cui X et al. Sleep duration and risk of coronary heart disease: A systematic review and meta-analysis of prospective cohort studies. Int J Cardiol. 2016; 219: 231-9. PMID: 27336192

著者の所属機関:

華中科技大学等

内容:

 本研究では、睡眠時間と冠動脈性心疾患リスクの関連性を検討するため、17の前向きコホート研究論文(参加者は合計517,440名、冠動脈性心疾患の事例報告は合計17,841件)の用量-反応メタ解析を行った。その結果、睡眠時間と冠動脈性心疾患の間にU字型の関連性が示され、1日7-8時間睡眠が最も疾患リスクが低かった。短時間睡眠と冠動脈性心疾患の間に有意な関連性が示され、7時間睡眠と比べて、睡眠時間が1時間減少すると、疾患リスクが11%増加する関連性が示された(相対危険度=1.11、95% CI =1.05-1.16)。長時間睡眠についても疾患リスクと有意な関連が示され、7時間睡眠と比べて、睡眠時間が1時間増加すると、疾患リスクが7%増加することが示された(相対危険度=1.07、95% CI =1.00-1.15)。

解説:

 睡眠時間と脳疾患の関連を検討した研究は複数あるが、本研究はそれらをシステマティックレビューとしてまとめ、かつ7時間を基準とした睡眠時間の変化による冠動脈性心疾患のリスク変化を報告した研究であり、ここには日本の論文が3本含まれている。1日24時間という限られた時間の中で、労働時間が長くなればその分睡眠を取る機会が減少する。その結果として、上記リスクが増加することが予想されるため、長時間労働は望ましくないといえる。


睡眠をとっていない人の顔の特徴(Sundelin et al., Sleep 2013)

出典論文:

Sundelin et al. Cues of fatigue: effects of sleep deprivation on facial appearance. Sleep 2013; 36(9):1355-1360.

著者の所属機関:

Department of Clinical Neuroscience, Karolinska Institute, Stockholm, Sweden(カロリンスカ研究所)

内容:

 睡眠をとっていない人の顔の特徴を調べるために、40名の観察者が、20枚の顔写真を疲労や顔の特徴(目、皮膚、口、悲しみ)の観点からVisual Analog Scaleによって評定した。10枚の顔写真は通常の睡眠の後に撮られたものであり、残りの10枚の顔写真は断眠(5時間の夜間睡眠とそれに引き続く31時間の覚醒状態)の後に撮られたものであった。断眠した人の顔写真は、通常の顔写真と比較して、疲労が高いと評定されるとともに、まぶたが垂れ下がっている、目が赤い、目がはれている、くまがある、血色が悪い、乾燥じわが多い、口角が垂れ下がっている、悲しく見えると評定された(p < 0.01)。また、これらの8つの特徴に加えて、目の生起のなさは、評定された疲労と有意に関連していた(p < 0.01)。発疹・湿疹、口元の引き締まりについての評定は断眠の影響は認められなかった。

解説:

 疲労はアンケートなどの自己報告法によって評価されることが多いが、それは本人の内省能力によって大きく左右されるものであり、簡便かつ客観的な評価法は見当たらないのが現状である。この研究の結果は基礎的なものであるが、顔の特徴によって、その人の疲労度を客観的に評価できる可能性を示している。最近の双子を対象とした疫学研究では、見た目に老けていると評価された人は死亡率が高かったことも報告されており、このような“見た目”は、疲労や過労死のリスクをアセスメントする際に有効であるかもしれない。


わが国のホワイトカラー男性労働者における長時間労働と睡眠問題の関連

出典論文:

Nakashima et al. Association between long working hours and sleep problems in white-collar workers. J Sleep Res. 2011 Mar; 20 (1): 110-6. PMID: 20561174

著者の所属機関:

金沢医科大学等

内容:

 ホワイトカラー男性常勤労働者1,510名(18-59歳)を対象に、長時間労働と睡眠問題の関連を検討した。睡眠問題をピッツバーグ睡眠質問票(PSQI、※1)で得点化した。月当たりの平均残業時間を過去6か月のタイムカードの記録から算出し、5群に分けた(26時間未満、26-40時間、40-50時間、50-63時間、63時間以上)。月平均残業時間が長くなるにつれて、睡眠時間は短く、睡眠効率は低く、日中機能不全は多くなった。睡眠障害の疑われる(PSQI得点-5.5点)労働者の割合は、月残業26時間未満の群と比較して26-40時間群で1.22倍(95%信頼区間:0.86-1.75)、40-50時間群で1.27倍(0.89-1.82)、50-63時間群で1.67倍(1.17-2.38)、63時間以上群で1.87倍(1.30-2.68)多かった。以上より、長時間労働は複数の睡眠問題と関連し、特に月残業時間が50時間以上になると関連は明確になることが明らかになった。
 ※1:PSQIは国内外問わず睡眠障害のスクリーニングのために臨床場面や研究で多く使用されている。PSQI日本語版は、18の質問項目からなり、7つの構成要素がある(睡眠の質、睡眠潜時、睡眠時間、睡眠効率、睡眠妨害、眠剤の使用、日中の機能不全)。そのため、総合的に睡眠問題を判定できる。PSQIの総合得点は0-21点の範囲で、睡眠障害のカットオフ値は5.5点となっている。

解説:

本研究以前も、残業が睡眠の量・質に悪影響を及ぼすという報告はあったが、それらは残業時間が主観的に評価されたものであり、また、PSQIのように総合的に睡眠問題を扱う指標は用いられていなかった。本研究は、これらの問題を解消し、残業時間が種々の睡眠問題に関連することを改めて明らかにした。特に短時間睡眠は心筋梗塞等と関連することが報告されており、注意が必要である。


交代勤務における短い勤務間隔と健康との関係—文献レビューより

出典論文:

Vedaa Ø, et al. Systematic review of the relationship between quick returns in rotating shift work and health-related outcomes. Ergonomics. 2016; 59(1): 1-14.

著者の所属機関:

ベルゲン大学、ノルウェー公衆衛生研究所(ノルウェー)

内容:

 本研究は、交代勤務におけるクイックリターンズ(quick returns:2つの連続する勤務の間隔が11時間未満のもの)と、その結果もたらされる健康や睡眠、ワークライフバランスへの影響との関係を21本の論文の系統的レビューによって調べた。クイックリターンズのタイプは夕勤-日勤、夜勤-夕勤、日勤-夜勤の3つの勤務の組み合わせに分けられ、勤務間隔の長さだけでなく、それぞれの配置される時刻によっても睡眠の長さや眠気が異なって現れた。例えば、勤務間隔時間が8~10時間の場合において、その配置される時刻が夜間となる夕勤-日勤では睡眠時間が5時間以上とられていたのに対して、反対に昼間となる日勤-夜勤では睡眠時間が2.5時間程度になった。また、眠気のリスクはクイックリターンズにおいて、それ以上長い条件と比して高かった。しかし、クイックリターンズにより、睡眠や眠気、疲労などの急性的な悪影響は示されたが、身体的また精神的健康やワークライフバランスなどのより慢性的な影響については結論が示されなかった。

解説:

 勤務間に配される休息期間の適切な長さについては、永らく交代勤務研究において議論されてきた。それは、常日勤と異なり交代勤務では長時間労働でなくとも勤務の組み合わせによって非常に短い勤務間隔となる場合があるからである。クイックリターンズは、EU労働時間指令にある24時間につき最低連続11時間の休息期間を求める内容を参照して定義されている。このクイックリターンズは逆循環の8時間3交代制においてみられるが、欧米でもっとも一般的なのは夕勤の後に日勤が配置される組み合わせであり、日本では看護労働において日勤の後に深夜勤務が配置される組み合わせが多く見られる。本研究の結果は、勤務間隔時間の長さとともに配置される時刻の効果を示しており、勤務間インターバル制度を導入する上での重要な視点を与えている。


休暇中より睡眠の質が悪い教師とそうでない教師の社会的職業特性の比較

出典論文:

Teacher's sleep quality: linked to social job characteristics? Industrial Health. 2018, 56, 53-61. PMID: 28804097

著者の所属機関:

ベルン大学(スイス)等

内容:

 仕事量は多いものの、教師という職業は社会的にもやりがいのある職業である。本研究では、スイスの教師を対象とし、「睡眠の質の悪化」(“休暇中よりも質の悪い睡眠”と定義)と、「時間に関連した職業ストレッサー」、「仕事に関する資源」、および「社会的職業特性」との関連について検討した。
 調査対象は、スイスの教師48名(男性28名、女性20名)であり、休暇(1-5週間)の1週間前(time1)と休暇の1週間後(time2)の計2回、調査への回答を求めた。休暇1週間前(time1)には、デモグラフィック変数と、過去1か月の仕事に関連した内容(「時間のコントロール」、「上司からのサポート」、「仕事での成功」、「仕事での失敗」、「感情的不協和」、「社会的排斥」等)、過去1週間の睡眠の質を尋ね、休暇1週間後(time2)には、休暇中の睡眠の質について尋ねた。
 結果から、平均値でみると、睡眠の質は休暇中の方が高かった。また、睡眠の質が悪化していた教師(18名)は、そうでない教師(30名)よりも、「仕事での失敗」、「社会的排斥」、「感情的不協和」が高かった(Ps < .05)。「時間に関連した職業ストレッサー」、「時間のコントロール」、「上司からのサポート」については、差は見られなかった。

解説:

 学校の教職員は、「過労死等防止のための対策に関する大綱」で過労死等の多発が指摘されている5つの業種・職種の中に含まれており、業務が多忙で精神的負担も大きい職業の1つである。本研究では、休暇前・休暇中の睡眠の質と社会的職業特性に着目し、睡眠の質が悪い教師は、「仕事の失敗」の経験が多いなどの特徴があることを明らかにしている。調査対象者や調査項目の点で問題点はあるものの、今後職業別の予防対策を検討していく上で、参考になる知見であると考えられる。


睡眠時間と死亡率–週末の睡眠時間も含めた検討(Akerstedt et al., J Sleep Res. In press)

出典論文:

Åkerstedt T, Ghilotti F, Grotta A, Zhao H, Adami HO, Trolle-Lagerros Y, Bellocco R. Sleep duration and mortality - Does weekend sleep matter? J Sleep Res. 2018 May 22:e12712. doi: 10.1111/jsr.12712. [Epub ahead of print] PMID: 29790200

著者の所属機関:

カロリンスカ研究所等

内容:

 先行研究において、平日の睡眠時間と死亡率の間にU字型の関連が示されている。本研究では、新たに平日と週末の睡眠時間と全死亡率との関連を検討している。38,015名(18歳以上)を対象とした13年間の追跡調査のデータから、コックス比例ハザード回帰モデルにより死亡のハザード比(HR)と95%信頼区間(95%CI)を算出した。なお、本論文では年齢層別(65歳未満、65歳以上)の分析が実施されているが、ここでは65歳未満の結果のみ記す。結果として、平日と週末の睡眠時間がそれぞれ6-7時間の基準群と比較して、両睡眠時間が5時間以下の群(HR 1.65; 95%CI 1.22-2.23)や8時間以上の群(HR 1.25; 95%CI 1.05-1.50)は死亡リスクが高かった。一方、平日の睡眠時間が短く、週末の睡眠時間が長い群の死亡リスクは基準群と比べて有意差はなかった。結論として、平日と週末の両方の睡眠時間が短い(もしくは長い)と死亡リスクが高いことが示された。

解説:

 本研究は、平日だけでなく、休日の睡眠時間の確保も重要であることを示唆した研究である。本研究の結果から、平日・週末ともに睡眠時間が短い場合は死亡リスクが高いが、平日の睡眠時間が短くても週末の睡眠時間が長い者はそうではないことが示された。この結果に対し、著者らは週末の長い睡眠は平日の短い睡眠を補っている可能性を示唆している。一方、他の先行研究から、平日と休日の睡眠時間の差が大きいと、肥満や心筋梗塞等のリスクが高いことも報告されている。よって、可能な限り、平日及び週末に十分な睡眠時間をとるほうがいいといえるだろう。


11時間未満の勤務間インターバルと夜勤は労働災害の発生と関連する(Vedaa et al. International Archives of Occupational and Environmental Health. 2019)

出典論文:

Vedaa et al. Short rest between shifts (quick returns) and night work is associated with work-related accidents. International Archives of Occupational and Environmental Health. 2019 [Epub ahead of print]

著者の所属機関:

ノルウェー科学技術大学等

内容:

目的:本研究は看護師を対象として、11時間未満の勤務間インターバル(※海外では11時間未満の勤務間インターバルをクイック・リターンと定義して研究がされている)と夜勤が自己報告に基づく労働災害、ニアミスあるいは仕事中の居眠りと関連があるかどうかについて検討することが目的であった。
方法:本研究は1,784名の看護師(回答率;60%、平均年齢±標準偏差;40.1±8.4歳、女性の割合;91%)を対象として横断調査を行った。負の二項回帰分析を用いてシフトへの曝露と8種類の労働災害(1.仕事中に不意に居眠り、2.車で出勤あるいは退勤の途中に居眠り、3.自分自身を傷つけてしまった事、4.もう少しで自分自身を傷つけてしまいそうになった事、5.患者あるいは他の人を自分のせいで傷つけてしまった事、6.もう少しで患者あるいは他の人を自分のせいで傷つけてしまいそうになった事、7.機器を自分のせいで壊してしまった事、8.もう少しで機器を自分のせいで壊してしまいそうになった事)の関連性について検討した。その際、年齢や性別などの背景要因と労働関連要因を調整して解析を行った。
結果:過去1年間のクイック・リターンの回数と8種類の労働災害の内、7つがポジティブな関連性にあった(つまり、クイック・リターンの回数が増えれば増える程、労働災害の数も増える関連性)。くわえて、過去1年間の夜勤回数と5つの労働災害でポジティブな関連性が観察された(つまり、夜勤回数が増えれば増える程、労働災害が増える関連性)。具体的には、クイック・リターンと自分自身を傷つけてしまう事 (incidence rate ratio [IRR] = 1.009; 95% CI = 1.005–1.013)、患者あるいは他者を傷つけてしまう事 (IRR = 1.006; 95% CI = 1.002–1.010)、機器を壊してしまう事 (IRR = 1.004; 95% CI = 1.001–1.007)と関連性が認められた。一方、夜勤回数は仕事中に不意に居眠りしてしまう事 (IRR = 1.015; 95% CI = 1.013–1.018)、出勤あるいは退勤時の運転中に居眠りしてしまう事 (IRR = 1.009; 95% CI = 1.006–1.011)、患者あるいは他者を傷つけてしまう事 (IRR = 1.005; 95% CI = 1.001–1.009)と関連性が確認された。
結論:クイック・リターンと夜勤はともに自己報告による労働災害、ニアミス、仕事中の居眠りと関連性があった。今後は、クイック・リターンと労働災害の因果関係の検討が必要である。

解説:

本研究は、看護師を対象として、過去1年間の11時間未満の勤務間インターバル(クイック・リターン)と夜勤の回数が労働災害等の発生とどのような関連性にあるのかについて自記式の質問紙により、横断調査デザインで検討したものである。主な知見としては、クイック・リターン回数は調査で尋ねた8つの労働災害の内、7種類の労働災害と有意な関連性が、夜勤回数は8つの内、5つの労働災害と有意な関連性が認められた。著者らは、この結果は、一見、クイック・リターンの方が夜勤よりも労働災害の発生に密接に結びついているという印象を与えるものだが、解釈には十分な注意が必要であると結論付けている。つまり、クイック・リターンの短期的な影響(睡眠や眠気、疲労)については、これまでの知見でも検討されているが、長期的な影響については、夜勤の影響に比べて、まだ不明な点が多い事を理由として上げている。くわえて、本研究は過去1年間のクイック・リターンと夜勤の回数を回答者に思い出させて尋ねているため、想起バイアスの影響があることは否めない。また、今後の課題としては、勤務先の勤怠記録を用いた客観的な労働時間データによるクイック・リターンおよび夜勤の回数の把握や、縦断調査での検討が本研究での知見を強化するためのカギになるだろう。いずれにしても、これまでは主に健康の側面で検討がなされてきた勤務間インターバルの研究が安全の側面にも焦点を当てた研究が広がってきたことは注目すべき動向であろう。


平日と休日の睡眠時間と脳・心臓疾患の関連性:中国南部で行われた横断調査研究(Hu et al. Sleep Medicine. 2018)

出典論文:

Hu et al. Sleep duration on workdays or nonworkdays and cardiac-cerebral vascular diseases in Southern China. Seep Medicine, 47, 36-43. 2018.

著者の所属機関:

南昌大学第二附属医院等

内容:

本研究の目的は、中国南部における平日・休日の睡眠時間と心筋梗塞・脳卒中の関連を検討することであった。2013年11月から2014年8月までの間に中国南部で15,364名(15?97歳以上)を対象に横断調査を実施した。調査票により睡眠時間(平日、休日)と既往歴(心筋梗塞、脳卒中)のデータを、診察により体重、身長、胴囲、血圧等を収集した。多変量ロジスティック回帰分析により、それらの関連を評価した。その結果、心筋梗塞のリスクは、6-8時間の睡眠時間を基準としたとき、平日と休日の睡眠が6時間未満で有意に高かった(オッズ比= 3.17、2.04)。性別、年齢別(65歳未満、以上)で分析した結果、男性及び65歳未満は全体と同様の結果となったが、女性では平日の睡眠時間が短い場合のみ心筋梗塞のリスクが有意に高く(オッズ比=2.66)、65歳以上では有意な関連は見られなかった。脳卒中のリスクは、6-8時間の睡眠を基準としたとき、休日の睡眠時間が6時間未満で有意に高かった(オッズ比=1.61)。性別、年齢別に分析した結果、65歳以上のみ休日の睡眠が短い場合は脳卒中のリスクが高かった(オッズ比=1.73)。また、高血圧がない6-8時間の睡眠時間を基準としたとき、平日の睡眠が6時間未満の場合は、高血圧の有無(オッズ比=8.75、2.92)に関わらず心筋梗塞のリスクが有意に高かったが、休日については、高血圧がある短時間睡眠のみで有意にリスクが高かった(オッズ比=5.29)。また、脳卒中については、高血圧がある短時間睡眠のみ、平日(オッズ比=6.35)、休日(オッズ比=7.50)ともにリスクが高かった。睡眠負債(平日と休日の睡眠時間の差分値)は、心筋梗塞リスクと有意に関連したが(オッズ比=1.40)、脳卒中とは関連しなかった。

解説:

本研究により、6~8時間睡眠と比較して、6時間未満の睡眠は、心筋梗塞と脳卒中のリスクと関連すること、これらの関連は高血圧者でより顕著であり、年齢および性別によって異なる傾向があることが示された。これまでも、睡眠時間と循環器疾患の関連はいくつか報告されてきたが、本研究は、平日と休日の睡眠時間、さらにその差分(睡眠負債)と脳・心臓疾患の関連性を、年代や性別、高血圧の有無で分類し、検討した点が長所として挙げられる。ただし、本研究は横断研究であり、因果関係までは言及できないため、今後同様の縦断研究が期待される。


ソーシャルジェットラグは、有害な内分泌、行動、心血管リスク特性と関連するか?(Rutters F, et al. J Biol Rhythms. 2014)

出典論文:

Rutters F, et al. Is social jetlag associated with an adverse endocrine, behavioral, and cardiovascular risk profile? J Biol Rhythms. 2014; 29(5): 377-383.

著者の所属機関:

アムステルダム自由大学医療センター、疫学と生物統計学部(オランダ)

内容:

 ソーシャルジェットラグは、就業日と休日の睡眠の中間点での時間の差として測定され、概日時計と社会時計の不一致を表す。これまでの研究では、ソーシャルジェットラグは体格指数(Body Mass Index, BMI)、糖化ヘモグロビンレベル(HbA1c)、心拍数、抑うつ症状、喫煙、精神的苦痛およびアルコール摂取と関連していることが示されている。この研究は、明らかに健康な145人の参加者グループ(大学の学生および職員のうち睡眠障害者や交代勤務者を除いた、男性67人、女性78人、18-55歳、BMI 18-35 kg / m2)において、ソーシャルジェットラグの有病率および有害な内分泌、行動および心血管リスク特性との関連を調べることを目的とした。アンケートで判定された、ソーシャルジェットラグが2時間以上の者は参加者の3分の1にみられた。ソーシャルジェットラグが2時間以上の者は1時間以下の者と比較して、血圧や血糖レベルを上昇させるコルチゾール値が高く、週内の睡眠時間が短く、身体活動が活発でなく、安静時心拍数が増加した。以上の結果から著者らは、ソーシャルジェットラグは、健康な参加者において、内分泌、行動、および心血管の有害なリスク特性と関連していると結論付けた。これらの有害な特性により、健康な参加者は、近い将来、糖尿病やうつ病などの代謝性疾患や精神障害の発症リスクにさらされると述べた。

解説:

 脳・心臓疾患による過労死において睡眠の量と質の影響が少なからずあることは言われているものの、メカニズムについては明らかでない点が多い。本研究は過労死を直接扱ったものではなく、参加者の就業日と休日の睡眠ともに平均8時間程度と十分に取られていた。また、得られたデータに統計的に有意差があったとは言え、どのくらい「有害」であるのかは明確には決められないという限界もある。そうであっても、睡眠をとるタイミングの持つ意義について検討した点から、示唆に富む知見である。日本の労働者に置き換えて考えると、週末に休日がとれたとしても、平日の睡眠時間が極端に短く休日との睡眠中間点の時間差が2時間以上もあるような生活スタイルは、将来の脳・心臓疾患発症リスクを高めるかもしれない。


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