労働安全衛生総合研究所

研究紹介(センターが取り組む研究に関連する研究論文の紹介 B: 精神障害)


  1. 労働時間がメンタルヘルスに及ぼす影響(オーストラリア人を対象とした研究報告)(Milner A et al. Occup Environ Med. 2015)
  2. 週55時間を超えて働く女性労働者は抑うつや不安の症状が起こりやすい(Virtanen M et al. Psychol Med. 2011)
  3. 日本における過労自殺:業務関連の自殺22事例の特徴(Amagasa T et al., J Occup Health. 2005))
  4. 韓国における職業性精神障害・自殺の労災請求事案についての記述的研究(Lee et al. Ann Occup Environ Med. 2016)
  5. 職場でのうつ病の発症を防ぐ: 職場における普遍的介入の系統的レビューとメタ分析(Tan L et al. BMC Medicine. 2014)
  6. 日本における過労死:最近の動向と予防対策促進のための国策の展開(Yamauchi et al. Ind Health. 2017)
  7. 韓国における建設労働者の精神的健康状態の分析(Lim S et al. Int J Occup Environ Health. 2017)
  8. 職業と自殺に関する再解析:職場のネガティブ認知は自殺企図につながる(Howard and Krannitz. J Psychol. 2017)
  9. ソーシャルジェットラグは、有害な内分泌、行動、心血管リスク特性と関連するか?(Rutters F, et al. J Biol Rhythms. 2014)
  10. シフトワークとメンタルヘルス:系統的レビューとメタ分析
  11. うつや不安の改善に向けた身体活動介入の有効性について

労働時間がメンタルヘルスに及ぼす影響(オーストラリア人を対象とした研究報告)

出典論文:

Milner A et al. Working hours and mental health in Australia: evidence from an Australian population-based cohort, 2001-2012. Occup Environ Med. 2015 Aug;72(8):573-9. PMID: 26101295.

著者の所属機関:

Deakin University(オーストラリア)等

内容:

労働時間と健康に関するこれまでの研究では、長時間労働が疾患発症(精神疾患や心疾患)に関与することを示した報告がある一方で、労働時間とこれらの疾患には有意な関係はなかったとする報告もあり、一致した見解が得られていない。その理由として、このような調査では特定の企業等の従業員が対象とされることが少なくないため、研究ごとに対象とする職種が異なり、比較が難しいことが挙げられる。本研究は、特定の企業等ではなくオーストラリア人全般(労働者18,420名)を対象とした調査であることが特長とされている。週当たり35-40時間を基準労働時間に設定し、それより長いまたは短い労働時間がメンタルヘルス(mental component summary: MCS_SF36)に及ぼす影響が検討された。本研究における労働時間の分類は以下の通りである:基準労働時間未満(34時間以下/週)、基準労働時間(35-40時間/週)、長時間労働A(41-48時間/週)、長時間労働B(49-59時間/週)、長時間労働C(60時間以上/週)。 解析の結果、男女とも49時間以上の労働がメンタルヘルス低下に影響することが示唆された。この結果に関する著者らの考察では、長時間労働(49時間以上/週)が睡眠不足に伴う疲労蓄積や生活習慣の乱れを引き起こし、これらがメンタルヘルス低下の要因となる可能性が指摘されている。また、高い業務能力を要する職種(マネジャーや専門職)において、労働時間が長くなるほどメンタルヘルス低下の程度が大きいことが示された。業務上の責任が大きいことがメンタルヘルス低下に影響した可能性がある。さらに、女性は男性より長時間労働によるメンタルヘルス低下の程度が大きい傾向が見られた。家事等の職場以外での無償労働が影響している可能性が指摘されている。

解説:

メンタルヘルス低下に影響する労働時間のボーダーライン(49時間以上/週)を提示した重要な報告である。本研究で設定された基準労働時間(34時間/週)は、日本の法定労働時間(40時間/週)より短い点にも留意する必要がある。


週55時間を超えて働く女性労働者は抑うつや不安の症状が起こりやすい

出典論文:

Virtanen M et al. Long working hours and symptoms of anxiety and depression: a 5-year follow-up of the Whitehall II study. Psychol Med. 2011 Dec;41(12):2485-94. PMID: 21329557.

著者の所属機関:

フィンランド労働衛生研究所等

内容:

英国の自治体職員2,960名(男性2,248名,女性712名;平均52才)を約5年間追跡して調査したところ、週35-40時間働く女性に比べて、週41-55時間群は2.2倍、週55時間を超える群は2.7倍ほど、抑うつの症状が起こりやすかった。また、週41-55時間群は1.7倍、週55時間を超える群は2.8倍ほど、不安の症状が起こりやすかった。男性では労働時間と抑うつや不安の症状との関連は認められなかった。

解説:

週55時間を超えて働くと抑うつや不安の症状が起こりやすいことが女性にのみ認められた背景をよく調べる必要がある。そうすることで、労働時間以外の対策も見出される。この研究では抑うつ等を自覚症状として測っているが、精神的不調の客観的な指標(診断結果や休業等)を用いた研究は今後求められる。業種や職種ごとの違いも興味のあるところである。


日本における過労自殺:業務関連の自殺22事例の特徴(Amagasa T et al., J Occup Health. 2005)

出典論文:

Amagasa T et al. Karojisatsu in Japan: characteristics of 22 cases of work-related suicide. J Occup Health. 2005 Mar;47(2):157-64. PMID: 15824481.

著者の所属機関:

メンタルクリニックみさと等

内容:

長時間労働および他の心理社会的要因が労働者の自殺企図に及ぼす影響を検討するため、業務関連の自殺22事例について、遺族や法律専門家などによる労災・訴訟関連書類、遺族への面接調査などにより収集された資料を分析した。精神科医2名が独立して22事例についての関連資料を分析した後、臨床疫学者1名を加えた3名により事例検討を行い、各事例の特徴を分析した。22例のうち、1例を除き全例が男性であり、自殺時点の年齢は24歳-54歳(中央値は35歳)であった。17例は民間の雇用者、5例は教員を含めた公務員であった。22例中17例が昇進、転勤、配置転換などの出来事を経験していた。ソーシャルサポートの不足や業務の要求度の高さは18例で、裁量権の低さは17例で確認された。長時間労働(3か月以上に渡り1日11時間以上の労働)が確認されたのは22例中19例であった。昇進や転勤などの出来事から自殺までの期間は5か月?18か月(中央値は11か月)、精神障害の発症から自殺までの期間は2週間~8か月(中央値は2か月)であった。22例中10例は身体的な不調により内科医を受診していたが、精神科受診歴のある事例や、昇進や配置転換の際にストレスマネジメントに関する教育を受けたことのある事例は確認されなかった。なお、22例全例が国際疾病分類第10版(ICD-10)におけるうつ病エピソードと診断されていた。

解説:

わが国における「過労自殺(karojisatsu)」事例について、労災・訴訟関連書類や遺族との面接を通じて得られた詳細な情報をもとに検討し、英語で報告された貴重な文献であり、過重労働に関連する多くの研究で引用されている。過労自殺事例22例のケースシリーズ報告であるため、長時間労働、業務要求度の高さやソーシャルサポートの少なさなどの要因と自殺企図との因果関係を明らかにはできないものの、事例の約半数が自殺前に身体愁訴により内科医を受診しているなど、過労自殺を予防するうえでの重要な介入ポイントを示唆する研究報告である。本稿が出版されたのは2005年であるが、本稿で示されている過労自殺事案の概要は、2016年時点で行われている精神障害の労災認定事案の分析における自殺事案の動向と相通じるものがある。


韓国における職業性精神障害・自殺の労災請求事案についての記述的研究(Lee et al. Ann Occup Environ Med. 2016)

出典論文:

Lee et al. Descriptive study of claims for occupational mental disorders or suicide. Ann Occup Environ Med. 2016 Oct 20;28:61. PMID: 27777785

著者の所属機関:

Hanyang University(漢陽大學校)

内容:

2010年-2014年の韓国における精神障害の労災請求事案の実態について明らかにするため、当該期間に同国の労災保険法(Industrial Accident Insurance Act)に基づき精神障害の労災請求がなされた全事案についてデータベース化し分析した研究である。
韓国労働者補償・福祉機構(Korea Workers Compensation and Welfare Service)が保有している、2010年?2014年に請求され、かつ2015年4月までに補償の可否が決定された労災請求事案569例についてのデータセットを作成し分析した。労災請求事案の約75%は男性であり、年齢階級別では40-49歳が最も多かった。職種別では男性では管理的職業従事者、女性では事務従事者が多かった。対象期間の5年間で189例が労災と認定されており、認定率(認定事案数を請求事案数で除した割合)は33%であった。疾患別(重複例を含む)では自殺が請求事案の23%を占め最も多く、以下、うつ病、適応障害、外傷後ストレス障害(PTSD)、急性ストレス障害の順であった。疾患別での認定率が高かったのは、急性ストレス障害やPTSDであった。業務上・外の判断の要因別に見ると、認定事案で顕著に多かったのは身体的外傷、雇用問題、違法行為・経済的損失に関する問題、職場での暴行などを含む急性のストレスフルな出来事であり(56%)、以下、恒常的な長時間労働、職場環境の変化や人事異動、業務負荷量の変化であった。一方で、業務外と判断された要因で最も多かったのはストレス強度の低さであった。業務以外の要因による発症として業務外と決定された事案も多かった。

解説:

わが国同様に長時間労働の蔓延が指摘され、それに伴う精神障害・自殺が労働衛生上の大きな課題となっている韓国における精神障害の労災請求事案の実態に関する報告である。過労死等防止調査研究センターが中心となって進めているわが国の精神障害の業務上および業務外事案の解析研究と研究デザインなどで共通する点も多く、国際比較という観点からも興味深い内容となっている。わが国における実態と同様に、韓国においてもハラスメントなどの対人関係、雇用・人事問題、仕事の失敗や違法行為などに起因する精神障害の労災事案は多く、長時間労働以外の要因にも着目した過労死等対策の重要性を示唆する報告である。


職場でのうつ病の発症を防ぐ: 職場における普遍的介入の系統的レビューとメタ分析(Tan L et al. BMC Medicine. 2014)

出典論文:

Leona Tan, Min-Jung Wang, Matthew Modini, Sadhbh Joyce, Arnstein Mykletun, Helen Christensen and Samuel B Harvey. Preventing the development of depression at work: a systematic review and meta-analysis of universal interventions in the workplace. BMC Medicine 2014; 12:74. PMCID: 4014627

著者の所属機関:

ニューサウスウェールズ大学ブラックドッグ研究所、オーストラリア

内容:

 本論文は、職場介入に関する無作為化比較試験(RCT)に注目し、標準化されたメンタルヘルス対策として、うつ病の普遍的予防を目的として行われた介入研究を対象にメタ分析を行った。対象研究はDowns and Blackチェックリスト(報告の質,内的妥当性,検出力の評価のほか,臨床的有意性,研究の限界,著者による結論の妥当性,報告全体にわたる明瞭性,十分に報告されたか等)を使用し、9件が特定された。研究の多くは、知行動療法(CBT)の技術が使われていた。参加型アプローチを用いた職場環境改善の研究も報告されていた。メタ分析の結果、介入群と対照群の間の全体的な標準化平均差(SMD)は0.16(95%信頼区間(CI): 0.07, 0.24, P = 0.0002)で、若干のプラス効果が見られた。CBTベースの介入のみを使用した別の分析では、0.12(95% CI: 0.02, 0.22, P = 0.01)の有意なSMDの変化が確認された。本結果から、職場での普遍的なメンタルヘルス介入によって従業員のうつ症状を緩和できるという質の高いエビデンスが得られた。特に、CBTベースのプログラムの有効性に関しては、他の介入よりも多くのエビデンスが存在する。科学的根拠に基づく職場介入は、成人の間でうつ病発症を防ぐための重要な取り組みの一環として検討するべきである。

解説:

本論文は、無作為化比較試験(RCT)に注目し、職域におけるうつ病予防のための質の高い普遍的な介入を提案している。今回の評価ではRCTの介入内容は個人に対する認知行動療法(CBT)が多かったが、職場でのストレスを緩和するためにチームベースの参加型介入(Tsutsumiらによる)による知見も注目されていた。一方、本メタ分析におけるうつ病の定義が研究によって異なることや、ここ最近ではマインドフルネス等の新しい介入手法を用いた研究も数多く報告されていることからCBT以外の有効性について、今後の研究が待たれる。これまで海外においてはうつ病対策としての職域アプローチは必ずしも主流ではなかったが、職場への積極的介入は効果があるものを裏付ける報告である。


日本における過労死:最近の動向と予防対策促進のための国策の展開

出典論文:

Yamauchi et al. Overwork-related disorders in Japan: recent trends and development of a national policy to promote preventive measures. Ind Health. 2017; 55 (3): 293-302. PMID: 28154338

著者の所属機関:

労働安全衛生総合研究所、他

内容:

脳・心臓疾患や精神障害による過労死等は、世界的に、特に東アジア諸国において産業保健や公衆衛生の主要な問題の一つである。本報告は、日本における過労死等の予防対策に向けた国策の展開とともに、労災認定事案の全体像から過労死等の最近の動向について述べた。近年、精神障害による労災請求と決定の件数が大幅に増加している。それは脳・心臓疾患によるものと比べると、特に男女ともに若年労働者で顕著であった。これらの社会状況を鑑みて、国の主導による過労死等の予防を進めるための過労死等防止対策推進法が2014年6月に成立した。日本における経験を他国でも活かせるように、法的根拠と政府主導のもと、過労死等の動向は注意深く観察されなければならない。

解説:

本論文は、過労死等防止対策推進法に記されている、過労死等の防止対策に向けた調査研究の成果として、労災認定事案の解析結果を労働安全衛生総合研究所内に設置された過労死等調査研究センターのメンバーが海外向けに発表したものである。本文でも述べているように、過労死という言葉は1970年代に日本で初めて使われたものであり、国際的にも「Karoshi」と表記される。過労死に関する法律ができたのも日本が初めてである。内容は、脳・心臓疾患や精神障害による労災認定事案(公務員を除く)の特徴を、性別、年齢、業種に注目してまとめた初めての報告であり、これから過労死対策を進めていく上での足掛かりとなる重要なデータを示している。当研究所のHPでも、本論文の内容を含む研究報告書(https://www.jniosh.go.jp/publication/houkoku.html)が公開されているのでそちらもぜひ読まれたい。


韓国における建設労働者の精神的健康状態の分析(Lim S et al. Int J Occup Environ Health. 2017)

出典論文:

YLim S et al. Analyzing psychological conditions of field-workers in the construction industry. Int J Occup Environ Health. 2017 Oct;23(4):261-281. PMID: 29989485

著者の所属機関:

ソウル大学建設環境工学科等

内容:

本研究では、韓国の建設労働者の精神的健康を横断調査によって検討したものである。道路、トンネル、橋梁、地下鉄、アパートの建設労働者430名を対象に、ストレス、気質、抑うつや不安、飲酒習慣を質問紙にて調査を実施した。その結果、建設労働者は高いストレスに悩まされており、約4割が抑うつや不安を抱えていただけでなく、約6割がアルコール摂取問題を有していた。また、労働条件によって精神的健康が異なり、総合建設業者は下請け業者よりも、経験が浅いアシスタントは現場監督者や熟練職人よりもストレスや不安が高かった。これらの背景として、総合建設業者は元請負者として発注者と下請け業者とを仲介する役割が、アシスタントは仕事に対する裁量権がなく単純な日常業務の繰り返しが起因していると考えられる。また、日雇いの建設労働者はストレスがより高く、不安定な雇用状態による影響も見受けられる。建設業では、過酷な労働状況、仕事の大規模性や多層構造、天候等による日々変化する作業内容からストレスが生じやすい可能性がある。自己チェックツール等を使用してストレス原因の軽減や減少とアルコール摂取問題に対する心理的介入によって建設労働者の精神的健康を促進し、それがさらに労働生産性と現場の安全性の向上に繋がると考えられる。

解説:

本研究では、韓国の建設労働者の精神的健康状態を明らかにし、労働条件によって精神的健康状態の相違があることを明らかにしている。わが国において建設業は、精神障害による労災認定事案は多いことが分かっており、2018年の「過労死等防止のための対策に関する大綱」で過労死等の多発が指摘されている業種・職種の1つとして新たに加えられたものの、その詳細は十分に解明されていない。今後、建設業の予防対策を検討していく上で労働条件の相違にも注目して検討する必要があるだろう。


職業と自殺に関する再解析:職場のネガティブ認知は自殺企図につながる(Howard and Krannitz. J Psychol. 2017)

出典論文:

Howard, M., and Krannitz, M. (2017). A Reanalysis of Occupation and Suicide: Negative Perceptions of the Workplace Linked to Suicide Attempts. The Journal of Psychology, 151(8), 767-788

著者の所属機関:

University of South Alabama

内容:

 職業と自殺の関連は、その重要度と比してあまり深く検証されてこなかった背景がある。本研究では、アメリカでのコホート調査(AddHealth)のデータを用いて、Job Characteristics Model (JCM:職務特性モデル※1)とConservation of Resources model (COR:資源保全理論※2)を取り入れて評価した仕事に対する認知と、仕事に起因する自殺の関連について検証している。用いられたサンプルは2855名分(うち女性1366名)のデータで、最終調査時の平均年齢は29.04±1.77歳であった。
 媒介解析を用いた解析で、JCMに基づく「仕事における自律性(意思決定権があるか)」や「技能多様性(多様な能力が求められるか⇔単調な仕事)が低いこと」、CORに基づく「仕事の満足感が低いこと」、またその他の項目である「家庭と仕事の両方向のコンフリクトが激しいこと」は、うつ症状の高まりや自殺念慮(自殺について真剣に考える)の回数増加を介して、自殺未遂の回数につながることが示された。

解説:

 職業と自殺の関連については先行研究もあるが、職業のどのような側面が、特に自殺と関連が深いかを示した点で新しい知見である。特に、職業に対する悪い認識が直接自殺に結びつくのではなく、うつ症状の悪化や自殺について考える回数の増加を介して自殺未遂の回数につながる、ということを示した研究はこれまでになかった。研究デザインに起因する限界もあるが、本研究によって仕事のどのような点を特に改善すべきかだけでなく、うつ症状や自殺念慮が高まり始めたところでの早期介入の重要性も示された。

※1 職務特性モデル(JCM)は、心理学者のHackmanと経営学者のOldhamによって提唱された、職務におけるモチベーションについての理論。仕事の5つの特性がモチベーションを左右するとする。1)技能多様性、2)タスク完結性、3)タスク重要性、4)自律性、5)フィードバック。5項目の点数を用いて一つのスコアが算出できる(数式上、自律性とフィードバックの重要度が高い)。
Hackman R., & Lawler E. (1971) https://doi.org/10.1037/h0031152 [外部サイトへ]
Oldham R., & Hackman R. (2005) “How job characteristics theory happened”
※2 資源保全理論(COR)は、Hobfollによって提唱された、職場ストレスと職務満足感の関連に関する理論。この理論では、人々は自分が保有する資源の量や質を保護し、さらには新たな資源を獲得するモチベーションを持っているとする。そして、その資源が喪失あるいは喪失の可能性があると感じた時に、心理的ストレスが生まれるとする。なおここでの資源とは、金銭や時間といった物的資源に限らず、知識や自尊感情といったものまで広く含む。
Hobfoll E. (1989) https://doi.org/10.1037/0003-066X.44.3.513 [外部サイトへ]


ソーシャルジェットラグは、有害な内分泌、行動、心血管リスク特性と関連するか?(Rutters F, et al. J Biol Rhythms. 2014)

出典論文:

Rutters F, et al. Is social jetlag associated with an adverse endocrine, behavioral, and cardiovascular risk profile? J Biol Rhythms. 2014; 29(5): 377-383.

著者の所属機関:

アムステルダム自由大学医療センター、疫学と生物統計学部(オランダ)

内容:

 ソーシャルジェットラグは、就業日と休日の睡眠の中間点での時間の差として測定され、概日時計と社会時計の不一致を表す。これまでの研究では、ソーシャルジェットラグは体格指数(Body Mass Index, BMI)、糖化ヘモグロビンレベル(HbA1c)、心拍数、抑うつ症状、喫煙、精神的苦痛およびアルコール摂取と関連していることが示されている。この研究は、明らかに健康な145人の参加者グループ(大学の学生および職員のうち睡眠障害者や交代勤務者を除いた、男性67人、女性78人、18-55歳、BMI 18-35 kg / m2)において、ソーシャルジェットラグの有病率および有害な内分泌、行動および心血管リスク特性との関連を調べることを目的とした。アンケートで判定された、ソーシャルジェットラグが2時間以上の者は参加者の3分の1にみられた。ソーシャルジェットラグが2時間以上の者は1時間以下の者と比較して、血圧や血糖レベルを上昇させるコルチゾール値が高く、週内の睡眠時間が短く、身体活動が活発でなく、安静時心拍数が増加した。以上の結果から著者らは、ソーシャルジェットラグは、健康な参加者において、内分泌、行動、および心血管の有害なリスク特性と関連していると結論付けた。これらの有害な特性により、健康な参加者は、近い将来、糖尿病やうつ病などの代謝性疾患や精神障害の発症リスクにさらされると述べた。

解説:

 脳・心臓疾患による過労死において睡眠の量と質の影響が少なからずあることは言われているものの、メカニズムについては明らかでない点が多い。本研究は過労死を直接扱ったものではなく、参加者の就業日と休日の睡眠ともに平均8時間程度と十分に取られていた。また、得られたデータに統計的に有意差があったとは言え、どのくらい「有害」であるのかは明確には決められないという限界もある。そうであっても、睡眠をとるタイミングの持つ意義について検討した点から、示唆に富む知見である。日本の労働者に置き換えて考えると、週末に休日がとれたとしても、平日の睡眠時間が極端に短く休日との睡眠中間点の時間差が2時間以上もあるような生活スタイルは、将来の脳・心臓疾患発症リスクを高めるかもしれない。


シフトワークとメンタルヘルス:系統的レビューとメタ分析

出典論文:

Zhao, Y, Richardson, A, Poyser, C, Butterworth, P, Strazdins, L, Leach, L.S. (2019). Shift work and mental health: a systematic review and meta-analysis. International Archives of Occupational and Environmental Health, 92, 763-793. doi: 10.1007/s00420-019-01434-3.

著者の所属機関:

Zhao, Y, Richardson, A, Poyser, C, Butterworth, P, Strazdins, L, Leach, L.S.: National Centre for Epidemiology and Population Health (NCEPH), Research School of Population Health, The Australian National University, Canberra, 2601, Australia.
Poyser, C: Centre for Mental Health, Melbourne School of Population and Global Health, The University of Melbourne, Melbourne, Australia; Melbourne Institute of Applied Economic and Social Research, The University of Melbourne, Melbourne, Australia.

内容:

背景:シフトワークがメンタルヘルスへ与える影響については、さまざまな知見が混在している。この系統的レビューでは、様々なシフトワークの型とメンタルヘルスの関連を調べた先行研究を包括的にまとめる。このレビューでは特定の職業に特化しない大規模な研究を対象とする。
方法:4つの電子データベース(PubMed、PsychoINFO、Web of Science、SCOPUS)を利用して、住民を対象としてシフトワークとメンタルヘルスの関連を調べた研究を検索した。2人の検索者が研究の特徴やデータを抽出した。また、broad binary measure(2件法で大きくたずねる形式)でシフトワークを調べた縦断的研究についてメタ分析を実施した。
結果:33の研究が最終的に選択された。10研究が横断的デザイン、22研究が縦断的デザイン、1研究が両方のデザインを採用していた。結果は、シフトワークの項目の内容によって、(1)夜/夕方勤務、(2)週末勤務、(3)不規則勤務・予測不可能な勤務、(4)broad binary measure、にグループ化された。全体的にbroad binary measureを利用した場合、シフトワークはメンタルヘルスの悪さと関連しており、これはメタ分析によっても支持された。また、不規則勤務・予測不可能な勤務はメンタルヘルスの悪さと関連しているエヴィデンスが多く認められた。一方で、夜/夕方勤務や週末勤務ではそのようなエヴィデンスは少なかった。
考察:シフトワークとメンタルヘルスの関連は、シフトワークの型によって異なった。broad binary measureを利用した場合や、不規則勤務・予測不可能な勤務は、メンタルヘルスとの関連が強かった。シフトワークの一貫したわかりやすい測定項目を利用した研究を実施する必要性が示された。

解説:

 本研究は、職種や組織の特有のバイアスを避けて、包括的にシフトワークの影響を調べるために、特定の職業に特化しない大規模な集団を扱った研究について系統的レビューをしていることが特徴的な点である。特定の職業の労働者サンプルを対象とした研究には様々なバイアスがある。たとえば、シフトワークに合わない人(シフトワークによってメンタルヘルスが悪くなった人)は、比較的早期にその仕事を辞めてしまい、その結果、調査の対象となる集団に含まれないという傾向がある(生存者バイアス)。また、仕事の内容とシフトワークは密接に関連しており、その二つを厳密に切り離して、メンタルヘルスとの関連を調べることは難しい。そのようなバイアスを避けるために、特定の職業の労働者に限定しない大規模な集団を扱った研究のみを検討の対象とすることは一つの興味深い試みである。
医療福祉の分野では精神障害による労働災害の申請件数が多く、同時に、シフトワークも多い業態である。夜勤などのシフトワークが精神障害の発症に直接的、あるいは間接的に関わっているかは、まだわかっていないことも多い。不規則勤務・予測不可能なシフトワークの労働者ではメンタルヘルスが悪いという結果は、現場で対策を考える際にも重要な知見であると考えられる。考察の最後に書かれていたように、今後はシフトワークについて明確に定義をした上で研究を実施する必要がある。


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