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擬長時間労働時の血行動態反応に関する研究

長時間労働は脳卒中、冠動脈心疾患などの脳・心臓疾患のリスクを増大し、過労死認定要因のひとつとなってい ます。労働者の健康維持、さらに脳・心臓疾患による過労死を減少させるには、長時間労働による心血管系の作業負担の解明が必要です。労働者の作業中の心血管系反応として、血圧上昇が知られていますが、その 背景には、心臓反応(心拍出量)と血管系反応(総末梢血管抵抗)が関与しています。この二つは、以下の図に示すように、併せて血行動態反応と呼ばれます。我々は、長時間労働時の血行動態反応を明らかにし、それに合わ せた対策を検討するための基礎データを提供することを目的に取り組んでいます。

加齢の影響

本研究では、長時間労働時の加齢の影響を調査しました(劉ら 2021)。30代から60代までの年齢層において模擬長時間労働時の血行動態反応を測定しました。実験は、9時から22時まで行われ、血行動態反応を図で示したプロトコー ルで計13回測定しました。 結果として、30代と比較して、50代と60代は作業中の収縮期血圧が有意に高くなっ ていました。これは、若年労働者と比較して、高年齢労働者は長時間労働による心血管系の負担が大きいことを 示しています。一方、作業中の50分以上の長めの休憩は、過剰な心臓反応と血管系反応を抑制することが示さ れました。

正常血圧者、高血圧者の比較

さらに、正常血圧者と高血圧者の血行動態の比較、検討を行いました(Ikeda et al., 2018)。結果として、作業中の収縮期血圧の変化量(安静時との差分)は、両群共に労働時間の経過に伴い上昇しましたが、特に作業の後半で高血圧群が有意に高くなっていました。これは、長時間労働時の心血管系の負担が、高血圧者で大きかったことを示しています。 これらの研究から、長時間労働が心血管系の負担を増大し、特に高年齢者と高血圧者の負担が大きいことが示さ れました。そのため、これらの労働者への特別な配慮が必要と考えられます。また、やむを得ず長時間労働をし なければならない場合は、複数の長めの休憩を確保することが重要であることも示されました。

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