労働安全衛生総合研究所

ガス爆発・火災の防止 –トラブル状況の把握と最適な作業の実施–

1.はじめに


 世の中には数多くのリスクが存在していますが、化学物質に起因するリスクは、動く物(車など)や高い場所(建物や高所作業など)と異なり、直接見ることが難しいといった理由もあり、その特定や評価、対策が難しいといった問題があります。化学物質のリスクは、フィジカルリスク(爆発、火災、異常反応、急性暴露など)、健康リスク(発がん性など)、環境リスク(水、大気など)に大別されますが、今回は化学物質のフィジカルリスクのうちのガス爆発と火災を取り上げ、これらの防止について説明します。


2.ガス爆発・火災は、どうしたら防止できるのか


 ガス爆発や火災の多くは、燃焼の3要素である可燃物・空気・着火源が揃うことにより発生します。特にガス爆発についての詳細は本メールマガジンの過去のコラム1)で解説しています。このリスクを低減するための最も有効な方法の1つは、十分なリスクアセスメント2)とリスク対応(すなわちリスクマネジメント)を実施することです3)。十分なリスクアセスメントとは、新しい化学物質を持ち込んだり、新しい手順による作業が発生したりする前に、化学物質や作業についてリスクの特定、評価、対策を行うことです。
 ところが、実際にガス爆発についてリスクアセスメントを実施すると、はじめにで挙げたガスの視認が難しいことに加え、a)ガス爆発の影響度(すなわち危害の程度)が大きくなりやすいこと、b)静電気など、着火源発生の可能性を完全に排除することが難しい、などによりすべてのリスクを許容可能なレベルまで低減できないことが少なくありません。


3.トラブル対処による減災


 リスクとは危害の発生確率(可能性)と危害の程度によって定義されますので、リスクを低減するには、発生確率か危害の程度のいずれか、または、その両方を低減すれば良いのです。最悪のシナリオを想定した爆発・火災災害の危険の程度(重篤度)が大きいことが多く、重篤度を低減する方法がリスク低減として効果的です。最も望ましい重篤度低減方法としては、取り扱う可燃物の量を少なくするなど、本質的に重篤度を下げてしまうことです。しかし、ガス爆発では少量でも重篤度が大きくなることがあり、量を少なくすることが現実的ではない場合があります。この場合には、爆発・火災を途中で中断あるいは抑止する減災という考え方が有効です。
 減災の例として、身近なものでは消火器や水による消火・延焼防止活動が挙げられます。たき火の際の消火用水による減災効果(作業者や周囲への延焼の速やかな消火と更なる延焼防止)を考えれば、その有効性は明らかです。また、消火・延焼防止活動を自動化した自動消火設備、防火扉などは、迅速かつ確実性があるため、より高い効果が期待されます。


4.トラブル対処作業


 トラブルは放置しておくと災害へと発展する可能性があるため、トラブル状況の把握と最適な対処作業の実施が迅速に行われる必要があります4)。トラブル状況の把握のためには、計測や目視などの情報収集が、最適な対処作業の実施のためには事前の減災設備の準備が必要不可欠です。また、収集した情報の判断、トラブル進展の予測、減災設備の準備と使用には、いずれもトラブルが発生した設備や機器の十分な理解も必要です。
 家庭で発生しうる都市ガスによるガス爆発を例に取ると、ガスの漏洩(トラブル)からガス爆発(災害)へ発展させない対処作業は次のようになります。

  • トラブルの情報収集(ガスコンロの立ち消え安全装置の検知部分、ガス警報機、目視による確認など)
  • 最適な対処作業(ガスコンロの立ち消え安全装置のガス遮断部分、ガス栓等の閉止、電気機器等の使用停止、換気など)
  • 対処作業の十分な理解(都市ガスが上方に溜まる特性、漏洩量とガス爆発規模の関係、着火源の確認と排除、消火活動の限界と避難)

 これらはトラブルが発生してから準備したのでは間に合いませんから、普段からの準備と教育や訓練が重要です。


5.おわりに


 産業界においても、可燃性物質を扱う貯蔵施設等において爆発・火災がたびたび発生しており、研究所では最適なトラブル対処作業を実施するための情報を発信・周知するために、プロジェクト研究を実施しています。具体的には、a)化学物質の熱特性を的確に測定するための技術の開発、b)センサーによる異常発生の検出方法の開発、c)くん焼・燃え拡がり特性、さらに遷移した爆発特性の測定、d)災害事例の分析、爆風や飛しょう物による被害予測・トラブル 対処の方法の提示、といった課題に取り組んでおり、順次成果を公表4-6)しています。


(化学安全研究グループ 主任研究員 水谷 高彰)

(参考資料)
  1. 水谷高彰,ガス爆発災害の原因と対策,安衛研ニュースNo.106,(2017).
    https://www.jniosh.johas.go.jp/publication/mail_mag/2017/106-column-3.html
  2. 労働安全衛生総合研究所,プロセスプラントのプロセス災害防止のためのリスクアセスメント等の進め方,労働安全衛生総合研究所技術資料JNIOSH-TD-No.5(2016).[PDF]
  3. 日本規格協会,JISQ31000:2019 リスクマネジメント-指針(2019).
  4. 水谷高彰,八島正明,産業現場での爆発・火災におけるモニタリング方法の問題点について,安全工学シンポジウム2019,講演予稿集,pp.334-335(2019).
  5. 水谷高彰,斎藤寛泰,八島正明,木材等有機物の爆発・火災初期におけるガス発生特性,第52回安全工学研究発表会,講演予稿集,pp.199-202(2019).
  6. 水谷高彰,斎藤寛泰,木材等有機物の爆発・火災初期における発生ガスのガスセンサ応答特性,第53回安全工学研究発表会,講演予稿集,pp.141-144(2020).

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