ガス爆発災害の原因と対策
1.はじめに
アクション物の映画などでよく見かけるように、都市ガスやガソリンの蒸気など、可燃性のガスに火がつくと瞬間的に燃え広がり、ガス爆発を引き起こすことがあることを知らない方は少ないかと思います。可燃性とは酸素などの酸化剤と反応して燃焼(光や熱を発して激しく酸化すること)する性質のことです。同様の酸素との反応には、鉄さびの生成の様な光(可視光)を発しないゆっくりとした反応、ろうそくの炎のような燃焼、ガス爆発のような激しい反応などがあります。これらの反応は、身近なところでは、それぞれ、使い捨てカイロ、ガスコンロ、車のエンジンに利用され、皆さんの生活を豊かにしています。一方、これらの反応が意図せず起きると、サビや劣化、火災災害、爆発災害といった事故となります。この中で、サビや劣化、火災災害は劣化診断や初期消火といった被害の軽減が可能です。しかし、爆発災害は、このような被害軽減が困難なため、発生するとニュースになるような大きな被害をもたらすことが多いです。
厚生労働省が公表した昨年(平成28年)の労働災害状況1)によると、労災による死者数は928名、死傷者数は117,910名で、この中で爆発による死者数は3名、死傷者数は58名です。このように死傷者数からは全災害の0.05%しか占めていない爆発災害ですが、死傷者100名あたり死者数を計算すると5名となり、全災害の0.8名という数の5倍以上となります。厚生労働省では、労働災害を21の型に分類していますが、爆発災害の5名という数は、おぼれ(同86名)、感電(同11名)、破裂(同10名)に次いで大きい数です。このことから、爆発災害は他の労働災害と比べて死に直結する災害と言えます。また、業種別で爆発災害による死傷者数を分類すると、製造業30名(52%)、第三次産業23名(40%)、建設業4名(7%)であり、化学工場を含む製造業で多いことは容易に予想できますが、第三次産業でも多発していると言えます。なお、第三次産業の中では商業(特に小売業)、接客・娯楽(特に飲食店)、清掃・と畜が多くを占めています。ここ数年、労働災害による死者数、死傷者数は右肩下がりで減少していますが、この傾向に変化はありません。
2.ガス爆発はなぜ起きるか
ガス爆発は可燃性のガスが燃焼することによって起きます。そのため、ガス爆発には燃焼の3要素(図1)が必要不可欠です。この3要素のうち、空気は密閉容器内などの特殊な環境以外では十分ありますので、可燃物と着火源が燃焼の条件を満たしていれば、爆発や火災が起きます。逆に言えば、可燃物か着火源が燃焼の条件を満たしていなければ、爆発や火災は起きないということです。
図1 燃焼の3要素
3.着火源
着火源とは着火の原因となる小さな高温部分を発生させる現象です。裸火、高温物、摩擦、衝撃、静電気放電など様々な種類があります。可燃物の着火源の評価には発火点や最小着火エネルギーと呼ばれる指標があります。発火点とは、主に可燃性の液体や固体を加熱したとき、自然発火する最低の温度のことであり、着火源の着火能力の指標になります。特に100℃以下の発火点をもつ液体は消防法で「危険物第四類(引火性液体)特殊引火物」と指定されており、特別な管理が求められています。
一方、最小着火エネルギーとは、主に可燃性のガスに用いられる指標で、最も着火しやすい可燃性ガス・空気混合ガス中に電気火花などの高温を発生させたとき、着火する最小のエネルギーです。水素を除く可燃性ガスや可燃性液体の蒸気の最小のエネルギーは0.1?1mJ程度ですが、人体に溜まった静電気による火花も同程度のエネルギーをもっているため、ガス、静電気の両方が最も着火しやすい条件の時だけ、人体の静電気でガス爆発が起きます。多くの物質に静電気を溜めることができるため、静電気放電が発生する場所は、他の着火源(裸火、高温物、摩擦、衝撃など)と比べて見つけるのが困難ですので、可燃性ガスの排除が困難な場所では静電気発生箇所の調査と十分な対策2)が必要です。
着火源は予想外の場所に発生しうる現象であるため、あらゆる場所で完全に着火源を排除することは困難です。安全を確保するには、可燃物が存在する場所を最小限にし、着火源を排除すべき範囲を絞ることが有効です。
4.可燃物
もう一つの燃焼の3要素である可燃物には、都市ガスやプロパンガスなどの可燃性ガス、アルコールやガソリンなどの可燃性液体、木材やプラスチックなどの可燃性固体があります。爆薬などの特殊な例を除いて、液体や固体の可燃物は空気と混合することにより燃えることが可能な混合ガス(爆発性雰囲気)となります。燃えることが可能な混合割合は物質によって決まっており製品の安全データシート(SDS)などに記載されています。身近な可燃物では、ガソリンで1.4–7.6 vol%、プロパンガスで2.1–9.5 vol%、都市ガスで5–15 vol%、水素で4–75 vol%などです。このようにガス爆発や粉じん爆発、ミスト爆発の危険性は、爆発性雰囲気を作るのに必要な濃度で表されます。この濃度を分かりやすい量で示すと、液体のガソリン1Lなら10㎥(2.2m立方)の空間を、プロパンガス1kgなら25 ㎥(3m立方)の空間を爆発性雰囲気で満たすことができます。壁が無い場所で爆発すると火球は8倍位の体積に膨張しますので、最終的には直径4–6m位の火球になります。1Lや1kgといった量は、火災を考えた時には多いと感じる方は少ないと思いますが、ガス爆発になると十分殺傷能力がある危険性となりえます。
また、液体や固体は加熱することにより分解して可燃性ガスを発生したり、微粒子(ミストや粉じん)になって空気中に浮遊したりすることにより燃えることが可能な混合ガスを作ることもあり、思わぬ爆発性雰囲気が生じることがあります3)。
5.おわりに
可燃物の危険性というと、どうしても火災の危険性に着目しがちです。山積みの木材を見て「火事になったら大変だな」と感じても、少量のガソリンがこぼれているのを見て「蒸発して爆発したら大変だな」と感じる方は少ないかと思います。甚大な被害を伴いやすい爆発災害は可燃物が少量でも、可燃物がどのくらいの濃度で空気に混ざっているかが重要です。今後は、可燃物が蒸発していたり、粉じんやミストとして浮遊していたりするのを、「危険だ」と感じられるようになって頂ければ幸いです。
(参考資料)
- 厚生労働省,平成28年 労働災害発生状況:
http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei11/rousai-hassei/ - 三浦.(2012)静電気研究への新たなアプローチ.安衛研ニュースNo.52:
https://www.jniosh.johas.go.jp/publication/mail_mag/2012/52-column.html - 八島.(2017)金属による爆発・火災災害.安衛研ニュースNo.100:
https://www.jniosh.johas.go.jp/publication/mail_mag/2017/100-column-2.html