労働安全衛生総合研究所

労働衛生に関する世界保健機関(WHO)協力センターネットワーク強化活動参加報告


第24回産業医科大学産業生態科学研究所・労働安全衛生総合研究所 交流会
第19回産業医科大学・韓国カソリック大学 交流会

はじめに


 労働衛生に関する世界保健機関(WHO)協力センター(以下、WHO-CC)のネットワーク強化活動が、2020年1月10日に福岡県北九州市の産業医科大学ラマッチーニホールにて開催されました。これは、今年で24回目を迎えた産業医科大学産業生態科学研究所(以下、産生研)と労働安全衛生総合研究所(以下、当研究所)との交流会と、第19回目となる産業医科大学(以下、産医大)と韓国カソリック大学(Catholic University of Korea、以下CUK)との交流会を合同で行うことにより、いずれの組織もWHO-CCの指定を受けていることから、WHO-CC間の交流と研究の促進を企図したものです。当研究所は1977年に日本で最初のWHO-CCに指定され、2007年には再指定を受けています。今回当研究所からは、産医大の元学長でもある大久保利晃特命統括研究員、吉川徹統括研究員、および西村悠貴研究員の3名が参加しました。


概要


 会の冒頭には、産生研の森本泰夫所長、CUKのJung-Wan Koo公衆衛生学部長、当研究所の大久保利晃特命統括研究員、そして産医大の東学長から挨拶があり、50名を超える参加者に活発な議論を呼びかけました(図 1)。
 まず3つの口演セッションでは、それぞれの組織で行われている研究について、持ち回りで発表が行われました。はじめのセッションでは、CUKのKang先生が座長のもとで、韓国におけるじん肺などの労働関連呼吸器系疾患の歴史と最近のじん肺症例における特発性間質性肺炎様所見に関する新しい知見、吉川統括研究員による日本の脳・心臓疾患に関連した過労死等の公務災害事例に関する調査分析結果(図 2)、産生研の友永研究員によるナノ物質の肺毒性の評価におけるミエロペルオキシダーゼの有用性などの発表が行われました。続いてのセッションでは、当研究所の吉川統括研究員の座長のもとで、西村研究員による精神障害の労災認定時に用いられている職場での具体的な出来事とうつ症状(CES-D)との関連の調査報告と、産生研からは暑熱環境におけるクーリングベストを用いたプリクーリング(事前冷却)の有用性に関する実験研究、CUKからは韓国のごみ収集・リサイクル事業に従事する労働者の現場調査報告、特に筋骨格系障害に関する報告が行われました。最後のセッションでは、産生研からワークエンゲージメントと精神疾患による長期休職の関係性についての研究報告と、韓国のごみ収集・リサイクル事業に従事する労働者の職業病についての続報(労働災害と抑うつ症状について)が発表されました。いずれの発表についても多くの質疑応答が行われ、活発な議論がなされました。特に、韓国のごみ収集・リサイクル事業に従事する労働者の多くは不安定雇用で65歳以上の高齢者が占めており、CUKの若手研究者や産業衛生専門研修医等が現場調査と労働者への直接聞き取り調査などを通じて、労働者の置かれている健康安全課題に社会課題として熱心に取り組んでいることが印象深かったです。休憩時間や各セッションの後には、発表者に個別に話しかけに行く参加者も見受けられ、さらに議論が深まりました。
 続いて、WHO-CCの各組織の取組状況について、各団体の沿革および現在と今後の課題が各組織の代表者によって発表されました。CUKでは、1970年代にWHO-CCの指定を受けたあと、アジア諸国との交流会活動に取り組み、最近では職業性呼吸器疾患に関する韓日越の合同ワークショップなどを開催していることが印象的でした。産生研では、アスベスト関連疾患の疫学研究と世界的なアスベスト禁止に向けたWHOとの協力活動のほか、JICA等と連携したアジア地域の産業保健実務者との遠隔教育など、国際的な取り組みが進められていました。当研究所からは、吉川統括研究員が研究所での研究活動を生かした取り組みを報告しました(当研究所のWHO-CCの取り組みは、以下のリンク先(※)を参照)。各組織の具体的な活動については相互に情報が少なかったため、当交流会は新たな発見のよい機会となりました。WHO-CCには地域ごとのネットワーク強化が求められており、東アジアの関係機関が一堂に会した今回の取り組みは、大きな意義を持つものと思われました。
(※) https://www.jniosh.johas.go.jp/publication/mail_mag/2019/122-1.html
 盛況のうちにメインの企画が幕を閉じ(図 3)、その後は近隣の居酒屋に場所を移して懇親会が開催されました。ほぼ全員が参加した賑やかな雰囲気の中で、研究にとどまらない幅広い話題が上り、活発な交流が行われました。


おわりに


 今回のネットワーク強化活動(交流会)への参加により、日本国内だけでなく韓国の労働衛生に係る研究者・実務者の方々との交流が行われ、労働衛生に関する多くの課題やそれに対して検討中の対策などについて詳細を知ることができました。また、通常の学会のように大人数の前で発表する形式ではなく、少人数で開催したことで、より集中的な議論ができただけでなく、国際的な人脈の構築にも絶好の機会となりました。ここで培われた国際的なつながりについては、近日韓国で開催予定のAsian Congress on Occupational Health(アジア労働衛生会議、2020年5月、韓国大邸市)やInternational Commission on Occupational Health-Work Organization and Psychosocial Factors(2020年9月、韓国ソウル市)への参加を通して、より強固なものにしていきたいと思います。


図 1 会場の様子



図 2 質疑応答の様子(吉川統括研究員)



図 3 参加者集合写真

(過労死等防止調査研究センター 特定有期雇用職員 西村 悠貴)
(過労死等防止調査研究センター 統括研究員 吉川 徹)

刊行物・報告書等 研究成果一覧