記事の難易度レベル:

低周波音の影響に関する研究

周波数が概ね100 Hz以下の音を「低周波音」と言います。

低周波音に対する人の聴覚感度は鈍いため、低周波音が大きな音として感じられることは少なく、結果として聴力への影響はほとんどありません。しかし一方で、低周波音には振動感を生じさせるという特徴があり、それが不快感の一因になっていると考えられています。

当研究所では特に振動感覚に着目して、低周波音による影響の研究に取り組んでいます。

低周波音の影響に関する研究

右のグラフは、低周波域の純音による「頭部の振動感覚」閾値を調べた結果です。低周波音による振動感覚は頭部で知覚されやすいので、その閾値を調べました。 その結果、「頭部の振動感覚」閾値は、聴覚閾値よりも数~10 dB以上も高いことが分かりました。このことから、振動感覚の誘起は低周波音の特徴ですが、基本的には低周波音も聴覚で知覚されると考えられます。
[Takahashi: Proc Inter-Noise 2012, Paper number in12_886 (2012)より]
右のグラフは、低周波域の複合音による「頭部の振動感覚」閾値を調べた例です。16 Hzと40 Hzの純音を組合せた複合音(両者のレベル差なしと、レベル差が20 dBの2通り)による閾値を純音での閾値(グラフの点線)と比較した結果、複合音になると、純音の場合よりも閾値が下がることが分かりました。この結果から、複合音が一般的である環境中での低周波音による振動感覚は、従来の純音を用いた実験室実験で得られた結果よりも、より低いレベルで知覚されやすくなると考えられます。

低周波音の影響に関する研究(続き)

[高橋: 日本騒音制御工学会平成27(2015)年春季研究発表会講演論文集 (2015)より]
さらに右のグラフは、可聴域の暗騒音によって振動感覚の閾値が影響されるかどうかを調べた結果です。ここでは、45 dB(A)と55 dB(A)のホワイトノイズを暗騒音として使用しましたが、「頭部の振動感覚」閾値は、これらの暗騒音の影響をほとんど受けませんでした。暗騒音がある環境では聴覚によって低周波音を知覚することは難しくなりますが、低周波音の音圧レベルが振動感覚を生じさせるレベルであれば、振動感覚を知覚して、その影響を受ける可能性があると考えられます。つまり、聴覚による音の影響に対して、振動感覚による影響が付加されて不快感が増大する可能性があるということです。

これらはまだ基礎的な研究成果であって、実用的な評価基準ではありませんが、将来的には、振動感覚の影響も考慮した低周波音の影響評価方法の確立に結び付けたいと考えています。

これらの他にも、

  1. 低周波音によって人体に誘起される振動と振動感覚の関係についての研究
  2. その振動の効果を考慮した、高レベル低周波音の評価方法の研究
  3. 低周波音によって生じる振動感覚と不快感の関係に関する研究

などを実施。

ページトップへ
振動の記事一覧