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呼吸保護具活性炭吸収缶と作業環境測定用捕集剤の機能

はじめに

労働環境の改善とより良い測定に向けて、作業現場における呼吸保護具(防毒マスク)に使用される除毒剤や作 業環境測定でのガスサンプラー(捕集管)に使用される捕集剤に関する詳しい性能の評価と、それらの効果的な 利用のための研究を進めています。
ここでは、その現状と研究での先端の話題についての概要をご紹介いたします。

呼吸保護具吸収缶での除毒剤

各種工場などの作業現場において使用される有機溶剤から発生する有害ガス(有機溶剤蒸気)から作業者をまも るための呼吸保護具(防毒マスク)の吸収缶には、除毒剤としておもに活性炭が用いられています。

呼吸保護具吸収缶
ここでの活性炭層の利用可能時間は、入口のガス濃度に対する出口のガス濃度の時間変化を示す“破過(はか)状態”を基に議論されます。破過状態はガスの種類や入口のガス濃度などの条件によっても変化するため、実測により全てを把握することは困難です。そのため実際の測定データも踏まえながら、数式による適切なモデル計算や、それを応用したシミュレーションの検討を進めています。

また、水分を含んだ活性炭では有害ガスの吸着能力が損なわれてしまいます。季節によっては湿度の高い日本では、この影響も大きな問題です。私たちの研究結果では、元の重量の30%ほどの水分を吸ってしまうと、活性炭の有害ガス吸着能力は急激に低下することがわかっています。

労働環境の測定のための捕集剤

環境中の有害ガスの測定では、高い濃度の場合にはガスセンサーなどを用いて直接測定することも可能です。し かしごく低い濃度(数十ppm 程度以下)の場合には、そのままの状態では検出・測定が難しくなってしまいます。 そこで、労働安全衛生法に基づく“作業環境測定” では、活性炭やシリカゲルなどの捕集剤を充填した捕集管(サ ンプリング・チューブ)を吸引ポンプにつないで一定時間の空気の濃縮捕集を行った後に、有機溶媒(二硫化炭素, アセトニトリルなど)によりこれらの捕集剤から対象の成分を抽出して、ガスクロマトグラフという測定装置に よりガス濃度を決定する方法(固体捕集法)が採られています。

作業環境測定での対象物質の種類は多く(おおよそ100 種類程度)、有害ガスの種類や濃度の低さによっては、 おもに抽出の効率の問題から精度の良い測定には支障をきたすことが指摘されています。そのため、より効果的 な抽出を可能とするための吸着材料や有機溶媒に関する研究を現在進めています。

固体捕集法で用いられる機材(左)と代表的な捕集管の構造(右)の概要

測定に用いられるガスクロマトグラフ(左)とシリカゲル捕集剤(右)の実例
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