労働安全衛生総合研究所

研究報告 TN-77 の抄録

防爆構造電気機器の温度測定方法の一考察について

TN-77-1
坂主勝弘
まえがき
 電気機器の通電部は導体を絶縁物で囲み,他の物体から電気的に隔離して導体に電流を流す。
 電線は一般に電流によるジュール熱のために温度上昇をきたすが,許容電流以上の過大な電流が流れると温度上昇は一層はげしく,しだいに電線の被覆の電気絶縁性が熱のため劣化し,被覆をとおって他の物体(接地体等)に電流(漏えい電流)が流れて,種々な災害,障害をひき起す原因となる。
 そのために電気機器に用いる絶縁物にはその種類に応じ許容最高温度が定められている。
 各種絶縁物の許容最高温度は表1のように決められている。
 表1のE種絶縁は,A種に比らべ温度上昇は15℃高く許容されている。したがってこれらの絶縁物を用いた同一出力,極数の電動機の外形寸法を相対的に比較すると,絶縁物自身の厚さ等は変らず耐熱性のよい,E種絶縁の方がはるかに小形化することができる(図1参照)。
 また,重量比は,A種に対しE種の電動機は,出力の大小により若干の差はあるが,A種の約55~ 85%程度に納まる。
 一般電気機器においては,巻線類の温度を測定し,その絶縁物の温度が許容値を超えていないかどうかをチェックすることは重要な事項となっていており,型式試験等における試験項目に入っている。
 また防爆電気機器では,爆発性ガス(可燃性ガスまたは可燃性液体の蒸気)または可燃性粉じんに触れる部分の温度上昇限度は爆発性ガスまたは粉じんの発火度の分類に応じて定められている,したがって温度測定は特に重要な試験項目の一つとなっている。
 温度の測定方法のうち,発熱部表面の温度を計測する場合,発熱部の温度を正確に取り出すために,測温素子を発熱部にどのようにして固定するかが大切である。
 今回は2(1)に述べる発熱装置を用いて静止部分の発熱部表面の温度計測が実際に現場等で実用化できる方法で,なおかつ測温素子の固定方法のちがいによる測定誤差の少ないものを研究するため行った。

某ビル煙道の爆発事故の実験的検討

TN-77-2
木下鈞一,内藤道夫,杉本旭,深谷潔
はじめに
 昭和51年11月30日午後9時50分頃,東京都新宿区某ビル内の暖房用温水ボイラーの煙道内において爆発があり,その爆風により同ビルの4階より9階までの各階とも煙道の壁の一部が破損した。その状況は Fig.1 に示す。またこの爆発のために同ビルに居た人々のうち25名が重軽傷を負い,通行人1名も負傷した。
 この事故に対し,東京労働基準局より当研究所へ,模型実験による検討方の依頼があり,当所としても模型実験によりどの程度のことが分かるかが疑問であったが,定性的でもよいから原因究明の手がかりが得られればと云う立場から,模型実験を実施することとした。以下に実験の概要および検討の結果について述べる。

高気圧N2ガス中における絶縁材料の耐アーク性(第1報)

TN-77-3
田中隆二,本山建雄
まえがき
 固体絶縁材料の表面近くで高電圧小電流のアークを発生させると,やがてその表面に導電路を生ずる傾向がある。このようにアークにさらされたときの絶縁材料の耐久時間を耐アーク性という。
 固体絶縁材料は,電気機器の絶縁材料として広く使用されているが,これらはアークにさらされると,その熱によって材料の分解,溶融,燃焼などを生じて,絶縁破壊を起こすことになる。
 これら固体絶縁材料を使用する電気機器の安全性を一層向上させる見地から,新しく開発された絶縁材料については,アークに対する強さ,すなわち耐アーク性を測定することが一般に行われる。この場合,材料メーカー,機器メーカー等による各種絶縁材料の耐アーク性試験は,常温常圧下でなされている,
 しかしながら,最近は電気機器が使用される環境条件も質的な変化を示し,その一つの例として,常圧よりも高い圧力のもとで使用することが具体的な事実として示されるようになってきた。例えば建設事業における潜函作業室,高圧治療室あるいは現在進められている海底作業基地等の環境である。したがって,これら加圧下において使用される電気機器については,その絶縁材料に対して,加圧下における耐アーク性を検討しておくことが必要となる。
 耐アーク性試験はアークによる材料表面の加速絶縁破壊を意味する。一般にアークの状態は,気圧により大きな影響を受けるため,加圧下における耐アーク性は常圧下での耐アーク性と当然異なると考えられる。しかし,加圧下における固体絶縁材料の耐アーク性に関する研究は従来ほとんどなされておらず,したがって加圧下の耐アーク性試験法を含めて具体的に基礎資料として利用しうるものは見られないのが現状であり,試験装置もない。
 そこで,ここでは常圧下の耐アーク性試験装置を利用して,加圧下の耐アーク性を検討した結果について述べる。加圧下での試験を行うため,特に圧力タンクを製作し,この中に電極部のみを挿入した。加圧ガスとしては N2 ガスを使用し,供試絶縁材料には,メラミンガラス積層板,フェノール樹脂,ABS樹脂及びポリカーボネイトの各有機絶縁材料を用いた。加圧下という条件を除けば,試験法は一般の耐アーク性試験法に準じた。なお,加圧下であるためアークが必ずしも安定しなかったが,この点については次回にて検討する予定である。

レッグさく岩器の振動測定

TN-77-4
袴塚禎三,前田豊
はじめに
 手持ち振動工具の使用により,作業者に振動障害がおこるとされている。しかしながら障害発生のメカニズム等については,振動が最も大きな因子であるとされているものの,他の因子による影響もまた大きく,それらの間の関係は必ずしも明確にされているとは言い難い。また,機械の振動そのものの状況についても,各種のものの測定例が報告されているが,国内のものについてはチェンソーを除いてほ比較的少ない。
 振動工具の一つであるレッグさく岩機は主として鉱山にて使用され,使用中発生する振動はチェンソー等に比較して,かなり大きいものと考えられており,中には作業者が障害を訴えている事例もある。しかし防振対策としては,現状では防振ハンドルの使用及び防振手袋の着用がいくつか見られる程度であり,より良い防振装置あるいは振動の少ないさく岩機の開発が望まれている。
 このような事情に鑑み,振動の実状を把握し防振対策の基礎資料とする目的で,現在市販されているレッグさく岩機の代表的機種のいくつかにつき,そのハンドル部分の振動の実測を行ったもので,その結果をここに報告する。

爆発および爆ごう抑止器の実用化に関する研究(第2報) –爆ごう誘導距離に及ぼす管路条件の影響–

TN-77-5
林年宏,松井英憲
緒言
 爆ごう(デトネーション)は,爆発性混合ガス中を火炎が伝播する形態のひとつであり,伝播速度と破壊力の大きいのがその特徴である。配管等の内部で混合ガスが発火すると,火炎は最初燃焼波として比較的ゆっくりと伝播するが,混合ガスの組成が爆ごう限界内にある場合には,ある距離を伝播したのち急速に伝播速度を増し,爆ごうへと転移する。筆者らは,管中の火炎伝播の阻止に関する研究の一環として,管路の拡大等による爆ごう波の中断や,金網等による爆ごう波の直接阻止について報告してきたが,火炎伝播の阻止は爆ごうへの転移以前の方がはるかに容易であると考えられ,この意味では,爆ごうへ転移する前に火炎防止器(フレーム・アレスタ)による火炎を阻止することが好ましいが,そのためには管中における爆ごうへの転移に関するデータが必要である。
 管中で生じた火炎が爆ごうへ転移するまでに伝播した距離は爆ごう誘導距離(Detonation Induction Distance,以下 D.I.D. と略記することがある)と呼ばれており,これは混合ガスの種類・組成・温度・圧力,管の径と長さ,管内壁の状態(平滑度)などの影響を受けるとされているが,実際の化学装置等の配管系統については,このほかにも D.I.D. に影響すると考えられる因子を更に幾つか挙げることが出来る。
 本報では,水素–空気及びアセチレン–空気それぞれの化学量論組成付近の混合ガスについて,室温・大気圧のもとで,呼び径1インチの管中における火炎伝播速度の変化を測定し,これに基づいて,管の長さ,管端の開放・閉塞,火炎の伝播方今,点火源の位置,管中の障害物,管路の途中の曲り(ベンド)やT形接続部(チー)の存在などが D.I.D. に及ぼす影響等について検討した。

浮遊粉じんにおける層流火炎伝ぱの実験的研究(I) –ポリエチレン粉じん火炎–

TN-77-6
松田東栄
 ポリエチレン浮遊粉じん中における層流火炎伝ぱの機構に関して実験的研究を行なった。爆発下限界,火炎速度および燃焼ガス生成物などを最初に測定し,マッハ・ツェンダー干渉計およびシュリーレン法を伝ぱ火炎に適用してシネ写真観察を試みた。それらの結果に基づいて火炎伝ぱ機構の変化について考察した。(図19,参18)

浮遊粉じんにおける層流火炎伝ぱの実験的研究(II) –コルク粉じん火炎–

TN-77-7
松田東栄
 コルク粉じん火炎の層流火炎伝ぱに関して,燃焼下限界,限界火炎速度および粉じん落下平均速度を測定し,その伝ぱ機構を検討した。シネ・フィルムの観察によって単独粒子の燃焼過程を調べることができ,下限近傍ではすべての粒径について不連続的な粒子状の火炎伝ぱがみられた。(図11,写8,表2,参8)

爆発および爆ごう抑止器の実用化に関する研究(第3報) –多孔板と金網を用いた爆ごう抑止器について–

TN-77-8
林年宏,松井英憲
 管中を伝播する爆ごう波を阻止するための爆ごう抑止器について実験し,多孔板と金網を組合せた抑止器モデルを提示した。実験は,1インチ管中を伝播するアセチレン–空気当量混合物の爆ごう波を100メッシュのステンレス網のみで阻止することから始め,次に,金網の手前に細孔を有する多孔板を置いて爆ごう波を一時的に弱めた場合の効果を調べ,更に,多孔板と金網を収納するハウジングの径を拡大して圧力損失の減少を試みた。多孔板の細孔の径と数,金網との距離などが消炎に大いに影響することがわかった。ハウジング径を4インチ管相当に拡大した場合の例では,金網15枚で大気圧下の爆ごう波が阻止され,その時の圧力損失は 100ℓ/min の空気流に対して 10㎜Aq以下であった。(図15,表1,参5)

粘土鉱物の石灰処理

TN-77-10
前郁夫,鈴木芳美
 カオリナイト・モンモリロナイト・パイロフイライトを主体とする各粘土を対象として石灰処理を施した場合の基礎的データを得るため,化学的変化を主にX線回折試験により,また処理効果を締固め供試体の一軸圧縮強度測定を中心に,養生期間・養生温度・石灰混合量等をパラメータとして追跡検討した。
 粘土中に残存する石灰量をX線回折線相対強度として捕えると一軸圧縮強度との間にはほぼ反比例の関係が認められ,石灰処理土のX線による品質管理への応用の可能性を示した。(図25,表3,参10)


刊行物・報告書等 研究成果一覧