労働安全衛生総合研究所

研究報告 TN-70 の抄録

高気圧治療設備実態調査報告書 –(付)酸素雰囲気中におけるインターホンによる発火危険性について–

TN-70-1
駒宮功額,田中隆二
まえがき
 ガンやガス中毒などの各種の治療にきわめて効果が高いことや,複雑な大手術の際に患者の生命を維持できることなどから,最近各地の大学病院や労災病院において高気圧治療設備(加圧したタンク内で手術や治療を行なうもので,高気圧手術室,高圧酸素手術室,高気圧酸素治療装置,高気圧治療室,高圧治療室,高気圧治療器などと呼ばれているが,ここでは以下高気圧治療設備という)が数多く設置されるようになった.(付録1参照)高気圧治療設備には1人用と多人数用とがあり,前者は主としてタンク本体のみから成り立ち,後者はタンク本体と,これに付属する機械設備等から構成されている.高気圧治療設備では大気圧下でタンクに患者や医師が入り,扉を密閉した後,内部の空気を加圧し,患者は呼吸のため酸素を別に吸入する方式となっているか,もしくは空気の代りに酸素で加圧し患者等はそのまま加圧された酸素を呼吸する方式のいずれかによって,必要な治療の目的を達しようとするものである.
 われわれの身体が必要とする酸素の取入れは,主として血液中のヘモグロビンの作用に依存している.しかし高気圧下では,血液中の血漿に大気圧よりはるかに多量の酸素が溶けこむため,ヘモグロビンに頼らなくとも十分生命を維持できるようになる.例えば大気圧の血漿には0.3%しか溶存酸素は含まれていないが,2 ㎏ / ㎠ (ゲージ圧以下同じ)下で酸素を吸入すると,溶存酸素は6%に高まり,大気圧下での酸素吸入と生理的にまったく異なった効果が期待できることが実験的に確認され,これが高気圧治療法の原理となっている.
 ところで,このような高気圧空気または高気圧酸素下では,可燃物の発火温度,最小発火エネルギなどが大気圧空気下に比較してかなり低下する.またこのような条件下で可燃物が発火すると大気圧空気下に比較し燃焼速度,火炎温度,火炎長さなどが増大するばかりでなく,空気中では一般に難燃性とか不燃性といわれるものでも強い可燃性を帯びてくるものが多いため,事故発生の大きな要因につながってくる.例えば昭和42年,岐阜市内の病院における1人用高気圧タンク内での火災による患者の死亡事故,昭和44年東大病院における多人数用高気圧タンクと設置室の火災爆発による4名の医師および患者の死亡した事故および昭和45年2月東京両国の潜函工事現場で使用していた再圧タンク内での火災による作業員1名の死亡事故などはいずれもこのような危険性を如実に示している.
 さて,このような事故を防止するために必要な安全技術の開発は,ほとんど進められておらず高気圧治療タンクの使用そのものが比較的新しいものであるため現状としては国内,国外とも明確な安全基準が定められていないのが実情である.したがって高気圧治療設備の安全対策もメーカーに任されている場合が少なくなく,個々のタンクにより異なるものと思われる・そこで,今後の安全対策の樹立に必要な研究の参考とするため,全国各地の代表的な高気圧治療設備(1人用8基,多人数用8基)の実態を主に安全上の立場から調査したので,その結果について以下報告する.

全国工場事業場における静電気の実態調査

TN-70-3
田畠泰幸,児玉勉,上月三郎
まえがき
 高分子化学の発達,生産工程の近代化にともない,工場,事業場では静電気が原因となって各種の災害が発生している.また静電気が帯電したために印刷紙がそろいにくいというた生産障害も,たびたび耳にすることである.しかしこのような静電気の災障害が工場事業場でほどの程度発生しているのか,あるいはそれに対してどのような対策が講じられているのかといった静電気の実態については,本研究所が昭和40年8月に実施した調査以来明らかにされていない.
 そこで筆者らは,その後の工場,事業場における静電気の実態,新しい問題点等を探索し,今後の研究資料といたすため,今回新たな観点より全国の工場,事業場を対象としてその実態調査を実施した.幸い関係者各位のご協力によって昭和41年以後45年8月までの静電気の実態が報告され,工場における静電気の新しい問題点等もある程度クローズアップされて来た.
 したがってここでは,今回ご協力いただいた調査事項をすべて集計し,これを分析した結果とこれに対する検討事項を技術資料としてまとめてみた.

安全帽の使用上の問題点

TN-70-4
末吉昭一
まえがき
 安全帽の帽体の紫外線による耐侯劣化については,一応把握することができたが,気象条件,紫外線,受光量などに問題が多く,これらを,現物での使用条件を考えて,安全帽の耐用年数や廃棄の規準等の参考にするには多くの問題がある。
 実際に安全帽を使用する作業現場での使用状態が,仮に屋外作業を主とした作業条件で使用されるとしても,太陽光線を終始受けるとは限らず,また安全帽の帽体も,これを着用して作業を行なう以上,これを無傷に保つということも全く不可能であり,当然その性能も新品当初と比較して劣化していることが予想される。これらの原因が紫外線劣化にともなう耐侯劣化か,あるいは長期間の使用結果による傷,その他の自然損耗かの判別はむずかしい問題であるが,実際に使用されている安全帽の帽体について,材質別,作業の種類,使用期間等から経年変化による性能低下について検討を試みた。


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