労働安全衛生総合研究所

ガスセンサによる可燃物貯蔵設備内の熱分解ガス検出 –検出性能の評価–

1.はじめに


 可燃性の固体や液体は、一定温度以上の高温に晒されると酸化反応や熱分解反応などの化学反応により、可燃性ガス(熱分解ガス)を発生することがあります。その結果、可燃性の固体や液体の貯蔵設備では爆発・火災災害が発生することがあります。このような被害を防ぐため、貯蔵設備内に熱分解ガスの検出装置を設置することは有効な対策といえます。
 ガス漏れ検知器については、法令1)によりその設置や求められる性能が定められており、法令に準拠した報知器などとともに普及しています。一方で、可燃性の固体や液体の貯蔵設備内の監視については、温度計測が主であり、貯蔵設備内へのガスセンサ設置例は少ないようです。実際にインターネット上で公開されている原因および災害に至るまでの経緯が明確な爆発・火災災害の報告書では、ガスセンサ等を設置し、くん焼(くすぶり燃焼)の段階で適切な対応を行えば被害を低減できた災害が散見されます2-8)。そこで、実際に幾つかの可燃性固体を加熱し、その熱分解ガスの検出能力について試験する方法を提案しました。


2.試験装置9)


 熱分解ガス検出装置は試験容器とガスセンサ評価部、真空ポンプから構成されます(図1、2)。試験容器(断面が4 cm×4 cmで長さ50 cm)の中央に試料を載せた高速応答タイプのヒータと熱電対を設置しました。ガスセンサ評価部に(容積800 mLの密閉容器)には、複数のガスセンサを取り付けました。ガスセンサからの電気信号は電気ノイズ(約20 mV)の1.5倍の信号を検出した温度を検出開始温度としました。ヒータの最終温度設定を180 ~ 400 ℃の間で変化させ、得られた最も低い検出開始温度を、使用した試料とガスセンサの検出開始温度と定義しました。


図1 熱分解ガス検出装置
図1 熱分解ガス検出装置

図2 ガスセンサ評価部
図2 ガスセンサ評価部


3.試験結果


 試料6種類とガスセンサ5種類の組み合わせで試験を行い、得られた検出開始温度を表1に示します。試験で用いた試料に対して、空気の汚れセンサが最も低い温度(110~200 ℃)から検出可能であることが分かりました。熱分解ガスを直接検出できると期待されたメタン等用センサや水素用センサについては、230 ℃以上で検出開始温度が計測され、その信号強度は他のセンサと比べ小さい結果となりました。特に、天然の有機物(木材,大豆,小豆)では空気の汚れ用センサにより120 ℃付近でガスが検出されました。これは天然の有機物には水分を含んでおり、その蒸発に伴う微量成分が低い温度で検出できるためと推定されます。有機溶剤等用センサや一酸化炭素用センサでも230℃付近からガスを検出し、熱分解ガス中に揮発性がある有機物や一酸化炭素があることを示唆しました。


表1 ガスセンサ検出開始温度(単位 ℃)
ガスセンサ
検知ガス
アクリル
樹脂
低密度ポリ
エチレン
高密度ポリ
エチレン
木材
(ベイツガ)
大豆 小豆
空気の汚れ 199 170 227 113 120 129
メタン等 285 279 311 248 230 301
水素 350 358 354 263 260 313
有機溶剤等 252 303 296 289 238 214
一酸化炭素 336 339 314 305 257 233

4.まとめ


 今回提案した試験方法で、ガスセンサが熱分解ガスの検出にどの程度有効か、定量的に評価することができました。特に今回使用した試料とガスセンサの組み合わせでは、全ての試料において、より低い温度で兆候を検知するためには空気の汚れ用センサが最も有効でした。可燃性物質が合成樹脂の場合、一酸化炭素センサなどの酸化反応の生成物を検知するセンサより低温で兆候を検知できるセンサ(空気の汚れ用センサ)があることが分かりました。空気の汚れ用センサが外乱の影響を受けやすいことを考慮すると、早期検知のために空気の汚れ用センサで検知を行い,誤検知の抑止のためにメタン等用や有機溶剤等用のセンサを併用することがガスセンサの良い組み合わせであると考えられます。
 なお、研究成果の詳細については、弊所の特別研究報告9)をご参照ください。


5.参考文献


  1. 消防庁,ガス漏れ検知器並びに液化石油ガスを検知対象とするガス漏れ火災警報設備に使用する中継器及び受信機の基準, 昭和五十六年六月二十日,改正 平成二十年七月消防庁告示第八号(2008)
  2. 労働安全衛生総合研究所.災害調査報告書. https://www.jniosh.johas.go.jp/publication/saigai_houkoku.htmlより,(a)2014-02 生ごみ処理施設,(b)2015-06 タンク覗き窓,(c)2015-07 濃硫酸タンク補修,(d)2016-06 酸素アーク溶断,(e)2017-04 銅合金製造工場,(f)2017-05 廃油リサイクル工場,(g)2017-06 清掃工場,(h)2018-01 フッ化水素(最終アクセス日2025年2月17日)
  3. コマツキャステックス株式会社アーク式電気炉事故調査委員会.最終調査報告書. https://www.komatsu.jp/jp/press/2014/others/__icsFiles/afieldfile/2017/03/09/kcx_report_final-a.pdf(最終アクセス日2025年2月17日)
  4. 株式会社日本触媒事故調査委員会.株式会社日本触媒姫路製造所アクリル酸製造施設爆発火災事故調査報告書. https://www.shokubai.co.jp/ja/wpdir/wp-content/uploads/2022/09/file1_0111.pdf(最終アクセス日2025年2月17日)
  5. 三井化学株式会社岩国大竹工場レゾルシン製造施設事故調査委員会.三井化学株式会社岩国大竹工場レゾルシン製造施設事故調査委員会報告書.https://www.mitsuichem.com/jp/release/2013/pdf/130123_02.pdf(最終アクセス日2025年2月17日)
  6. 新日鐵住金株式会社コークス事故対策委員会.新日鐵住金株式会社名古屋製鐵所コークス火災事故調査報告書. https://www.nipponsteel.com/common/secure/news/20150407_100_03.pdf(最終アクセス日2025年2月17日)
  7. 東ソー株式会社 南陽事業所 第二塩化ビニルモノマー製造施設 爆発火災事故調査対策委員会.南陽事業所第二塩化ビニルモノマー製造施設爆発火災事故調査対策委員会報告書.https://www.tosoh.co.jp/news/assets/20120613001.pdf(最終アクセス日2025年2月17日)
  8. 網干健康増進センター事故に係る調査・安全対策検討委員会.網干健康増進センター事故に係る調査報告書. https://www.city.himeji.lg.jp/kurashi/cmsfiles/contents/0000000/136/20171123125743.pdf(最終アクセス日2025年2月17日)
  9. 水谷高彰 他,ガスセンサによる可燃物貯蔵設備内の熱分解ガス検出 -検出性能および設置位置の評価-, 労働安全衛生総合研究所特別研究報告 JNIOSH-SRR-No.52,pp.89-96(2022)

(化学安全研究グループ 主任研究員 水谷 高彰)

刊行物・報告書等 研究成果一覧