令和六年度 安全衛生技術講演会 実施報告
令和6年9月26日に安全衛生技術講演会をオンラインにて開催いたしました。今年も多数のご参加をいただき誠にありがとうございました。活発なご質疑も多数いただき、大変有意義な会を開催することができました。重ねて御礼申し上げます。以下、当日の様子を写真とともにご紹介します。
1. 主催者挨拶 所長 鷹屋 光俊
講演会の開催にあたり、労働安全衛生総合研究所の鷹屋所長から皆様にご挨拶申し上げ、各講演の概要をご紹介いたしました(写真1)。
写真1 鷹屋所長からのご挨拶
2. 講演①「勤務間インターバル制度の利点と課題」 人間工学研究グループ 池田 大樹 主任研究員
池田主任研究員は、「勤務間インターバル制度の利点と課題」と題して講演いたしました(写真2)。勤務の終了時刻から翌始業時刻までの休息期間である勤務間インターバルを一定期間以上設ける制度(勤務間インターバル制度)が2019年に制定されました。本講演では、勤務間インターバルが疲労感や睡眠時間などの健康状態に与える影響についての研究結果を交えて、勤務間インターバルの確保が労働者の健康増進のみならず生産性の向上にもつながることをご説明しました。
各講演では参加者の皆様からオンラインでいただいたご質問やご意見を司会の労働災害調査分析センターの玉手センター長が代読する形で講演者と議論いたしました(写真3)。
写真2 オンライン講演する池田主任研究員
写真3 オンライン参加者からの質問に答える池田主任研究員
3. 講演②「法改正による職場環境と労働者の健康状態への影響」 社会労働衛生研究グループ 加島 遼平 任期付研究員
加島研究員は、「法改正による職場環境と労働者の健康状態への影響」と題して講演いたしました(写真4)。本講演では、法改正によって得られた効果を測定する方法として単なる改正前後の比較では不十分であることをご説明し、経済統計学的な観点から有効な効果測定の方法についてご紹介しました。実際に取り組んだ割増賃金率の上昇と労働時間の短縮効果の関係の研究事例を用いて効果測定の方法、検証結果をご紹介し、法改正が労働環境に与える効果測定の難しさや今後の展望について議論いたしました(写真5)。
写真4 オンライン講演する加島研究員
写真5 オンライン参加者からの質問に答える加島研究員
4. 講演③「すべり転倒の現状と評価・対策について」 リスク管理研究グループ 柴田 圭 研究員
柴田研究員は、「すべり転倒の現状と評価・対策について」と題して講演いたしました(写真6)。本講演では、すべりによる転倒災害の発生原因についてご紹介し、靴底と床面間の摩擦に着目したすべりの発生メカニズムをご説明しました。靴底の材質・形状や、床面の状態によってすべりやすさが大きく変わることを様々な実験データを用いてご説明し、得られた研究成果から、すべり対策のポイントを設備・環境側と歩行者側の2つの側面からご紹介しました。参加者からは、50才以上の女性の転倒災害が半数を占め、今後の高齢者の就労が増加する現状から本研究の必要性にコメントをいただくとともに、新たな防止技術にも期待する意見が寄せられました(写真7)。
写真6 オンライン講演する柴田研究員
写真7 オンライン参加者からの質問に答える柴田研究員
5. 講演④「脊髄損傷者のための動力付外骨格型機器の開発」 新技術安全研究グループ 小山 秀紀 任期付研究員
小山研究員は、「脊髄損傷者のための動力付外骨格型機器の開発」と題して講演いたしました(写真8)。本講演では、脊髄損傷者の歩行補助装置として用いられる動力付外骨格型機器の開発状況についてご説明しました。外骨格型機器の使用上の課題やリスクを整理し、皮膚トラブルの解消や装着性の向上を実現する新たな外骨格型機器の特徴についてご説明しました。実際にプロトタイプを装着した状態での歩行試験の様子や機能評価の結果についてもご紹介しました。参加者から、今後の研究展開に関するご質問があり、患者のみならずリハビリをサポートする介助者の視点も加えてさらにリスク低減を検討する予定であることなどが回答されました(写真9)。
写真8 オンライン講演する小山研究員
写真9 オンライン参加者からの質問に答える小山研究員
6. おわりに
オンライン配信による開催は今年で5年目となりますが(写真10)、おかげさまで250名以上の多くの皆様にご視聴をいただきました。また、各講演に多くのご質問をいただくなど皆様の積極的なご参加もいただきました。お時間の関係で全てのご質問にお答えができず申し訳ありませんでした。
また、終了後のアンケートでは約200名の皆様からご回答をいただきました。ご協力誠にありがとうございました。ここで、その一部をご紹介いたします。
● 講演会全体に関するご感想
「労働災害を無くすためには科学的な根拠に基づく説明が必要なケースがあり、今後も情報提供を希望します」、「信頼性の高い情報源として重要だと考えています」、「遠方のため、オンラインで実施いただいていることに深く感謝します」など。
● 講演①に対するご感想
「勤務間インターバルと睡眠との研究結果はとても有意義でした」、「睡眠時間と労働についてなど様々な分野から知見を得ることができました」など。
● 講演②に対するご感想
「法令改正の効果を経済学の手法で検証することは目からうろこでした」、「法改正の検証を、立法を行った側でない部署から行うというのは、とても意義があると思います」など。
● 講演③に対するご感想
「安全靴の研究成果は非常に興味深く、広く周知すべきと感じました」、「転倒災害防止方策として、すべりの観点から物理的・工学的研究の成果を拝聴することができました」、「耐滑の安全靴だからと滑らないと思い込んでいる者も社内にいるので良い注意喚起ができるかと思います」など。
● 講演④に対するご感想
「脊損患者に限らず、歩行困難な人のQOLを向上させる手段の一つとして、動力付外骨格機器は是非世の中に普及させていただきたい」、「動力付外骨格型機器の開発は新しい安全基準作りおよび安全基準の点検・更新としてとても役に立つと考えます」など。
今年は各講演に関する補足資料をホームページにてご提供するとともに、各講演動画(ダイジェスト版)を期間限定でご用意いたしました。
次回、令和七年度 安全衛生技術講演会も同じく秋頃の開催を予定しております。開催の概要が決まりましたら、安衛研ニュース(メールマガジン)や研究所ホームページ等でご案内いたしますのでどうぞよろしくお願いいたします。次回も皆様のご参加を心よりお待ちいたしております。
最後に本講演会の開催にあたりご協力いただいた関係機関の皆様にこの場をお借りして深く御礼申し上げます。
写真10 オンライン講演会を配信したスタジオ(会議室)の様子