労働安全衛生総合研究所

風洞内における乱流境界層生成に関して

1.はじめに


 清瀬地区の回流式風洞は、第1測定部では風路の測定長は20m、最大風速25m/sであり、測定部の寸法は幅2.3m、高さ2mである。また、送風機のすぐ下流の縮流を行う前の位置に第2測定部があり、幅4 m、高さ4 mの測定部を持ち最大風速は10 m/sである。それを利用した作業員の施工安全性に関する実物大実験なども実施可能である。ここでは、第1測定部において、乱流境界層生成に関して述べる。乱流境界層は、建物解体時のパネル付き足場に作用する風力の測定実験1)を対象に生成した。実験で用いる縮尺1/60の模型の、パネル高さが283または453 mmよりも十分高い位置までの境界層乱流を生成することを試みた。実験は、2021年度から現在まで継続中であり、2023年度までの各年度の気流の詳細に関しては風工学誌2)で紹介している。ここでは今年の現状の気流に関して紹介する。


2.流入風生成


 流入風の状況により建物周りの流れ場が大きく変化するため、対象の建物まわりの気流の状況を再現するのは非常に重要である。そのため、一般的にスパイヤ、バリヤ、ラフネスブロックなどを用いて境界層および乱れを生成し、流入風を作成する。建築物荷重指針3)で示す各祖度区分による境界層を目標に生成を試みた。今回は、一般的な郊外地域の地表面粗度区分Ⅲ(境界層高さZG=450 m、べき指数α=0.2)の境界層を目標とした。大気境界層を模擬するために、測定部の最上流部にスパイヤ(図1)を, 測定部の床面にラフネスブロック(図2)を設置した。ラフネスブロック等の配置およびサイズをそれぞれ図3と表1に示す。図4には地表面粗度区分Ⅲの風洞内状況を示す。


図1 スパイヤ 図2 ラフネスブロック
図1 スパイヤ 図2 ラフネスブロック)

図3 ラフネスブロック配置の概略図1
図3 ラフネスブロック配置の概略図2
図3 ラフネスブロック配置の概略図

表1ブロックのサイズ
表1ブロックのサイズ
図4 風洞内の状況
図4 風洞内の状況

 生成された気流の平均風速の鉛直プロファイルを図5(a)に、乱れ強さの鉛直プロファイルを図5(b)に黒い点(●)で示す。それぞれべき法則と建築物荷重指針3) の一般的な郊外の乱流境界層に対応する粗度区分Ⅲに対して示された値(実線、べき指数α=0.2, 境界層高さZG=450m)と比較して示す。なお、縦軸は風洞内の床からの鉛直高さでプロットしている。対象建物の頂部高さ(Reference height)を基準としたとき、生成された気流は基準高さの1.5倍程度の高さまで荷重指針の粗度区分Ⅲの乱流境界層と概ね一致した。


(a)平均風速分布(b)乱れ強さ
(a)平均風速分布 (b)乱れ強さ
図5 流入気流

3.まとめ


 現状では、高さの高い建物の模型に対して精度良い実験を行うのに十分な境界層乱流が生成できているとはいえない。そのため、スパイやのサイズ調整やバリアなどの設置により、続けて気流の改善を行う必要がある。また、気流のパワースペクトルなどを分析しながら、乱れスケールなどの調整も必要である。


(建設安全研究グループ 任期付き研究員 金 惠英)

参考文献

  1. 金 惠英, 高橋 皓太郎, 木村 吉郎, 高橋 弘樹, 大幢 勝利,「解体工事の段階を考慮した防音パネル付き足場の耐風性検討」, 構造工学論文集A, 第70A巻, pp. 313-320, (2024)
  2. 木村 吉郎,金 惠英,「労働安全衛生総合研究所風洞における乱流境界層生成の試み」,日本風工学誌,Vol.49, No.3, pp.250-252
  3. 日本建築学会:建築物荷重指針・同解説,2015

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