労働安全衛生総合研究所

労働災害データ可視化の試み

1.はじめに


 令和5年4月1日より第14次労働災害防止計画がスタートしました。取り組み実施においては、労働災害の実態や災害事例に関するわかりやすい情報があると便利です。そこで、職場のあんぜんサイトで公開されている「令和4年休業4日以上の死傷災害に係る労働者死傷病報告全件データ(以下、令和4年オープンデータ)」と「死亡災害データベース」および「死傷災害(死亡・休業4日以上)データベース」を、グラフや表などを作成できるMicrosoft Power BIを用いて可視化した試みを紹介します。

なお、可視化した画面は、以下のリンク先でページを下に移動するとご覧いただけます。
令和4年オープンデータのグラフ
 https://anzeninfo.mhlw.go.jp/user/anzen/tok/anst00_r04.html

死亡災害データベースのワードクラウド
 https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pg/SIB_FND.html

死傷災害(死亡・休業4日以上)データベースのワードクラウド
 https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pgm/SHISYO_FND.html


2.令和4年オープンデータのグラフ


 試作したグラフ画面と画面構成を図1に示します。労働災害の実態を表す情報には、業種、起因物、事故の型を中心としたクロス集計(労働災害統計として公開)がありますが、オープンデータでは、新たに死傷災害全件の被災者に関する、性別、年齢層、休業期間(実際には休業見込み日数)などが公開されました。そこで、被災者の属性から労働災害の発生状況を把握することを目的に、ダッシュボード風の画面を製作してみました。

オープンデータ可視化画面 画面構成
図1 オープンデータ可視化画面(左)と画面構成(右)≪それぞれクリックで大きい図≫


 画面構成を簡単に説明します。図1内の塗り分け地図(日本地図)の左側は、グラフ描写条件の指定部です。次の7項目による絞り込み(フィルタ設定)が可能です。なお、なにも選択しない場合は「すべて選択」と同じ状態です。
【絞り込み項目】

  1. 災害発生月
  2. 管轄局
  3. 休業期間
  4. 事業場規模(人数)
  5. 性別
  6. 被災時の年齢
  7. 被災時の経験


 塗り分け地図の右側がグラフ描写部です。グラフ①~グラフ③の3つの各画面には、図1(右)【グラフ化項目】に挙げた11項目のいずれかを描写できます。属性分布の画面には、同じく【グラフ化項目】に挙げた、休業期間や災害発生時間(時)などの6項目の中から1つを選択して描写できます。塗り分け地図では、被災者数に応じた濃淡色で都道府県が色付けされます。図1(左)は、令和4年の死傷者数132,355人のデータを描写している結果で、赤色の濃い北海道、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、静岡県、愛知県、大阪府、兵庫県、福岡県での死傷者数が多いことを示しています。なお、都道府県別の死傷者数を確認したい場合は、塗り分け地図上で右クリックし「テーブルとして表示」を選択すると(図2(左))、死傷者数とその割合をテーブル形式で表示できます(図2(右))。

図2左 都道府県別の死傷者数をテーブル表示する方法図2右 表示されるテーブル画面
図2 都道府県別の死傷者数をテーブル表示する方法(左)と表示されるテーブル画面(右)≪それぞれクリックで大きい図≫


 以下に、絞り込み描写の例を挙げます。図3は、45歳以上の中高年齢女性における転倒災害データを可視化した結果です。第14次労働災害防止計画では、「労働者(中高年例の女性を中心に)の作業行動に起因する労働災害防止対策の推進」でのアウトカム指標を「転倒による平均休業見込日数を2027年までに40日以下とする」と定めていることから、絞り込み条件の例題として選んでみました。
高年齢者等の雇用の安定等に関する法律では、中高年齢者の年齢を45歳以上と定めている。)

図3の表示方法は次のとおりです:
【表示手順】

  1. グラフ①のドロップダウンリスト内から 業種(中分類)を選択
  2. グラフ②のドロップダウンリスト内から起因物(小分類)を選択
  3. グラフ③のドロップダウンリスト内から事故の型を選択
  4. 属性分布のドロップダウンリスト内から「休業期間」を選択
  5. 性別:女性を選択(チェックボックスをクリック)
  6. 被災時の年齢層:45歳以上の年齢層に該当するチェックボックスをすべて選択
  7. グラフ③に描写されている「事故の型」横棒グラフの中から「転倒」をマウスで選択


 図3より、令和4年における、45歳以上の中高年齢女性の転倒災害による被災者数は11,488人であり、被災者数が1,000人を超える業種(中分類)は小売業と社会福祉施設であることがわかります。また、休業期間は「1月以上3月未満」が5,490人と最も多く、中高年齢女性転倒災害被災者数全体の約47.8%を占めていました。さらに、死傷者年間推移のグラフから冬季に発生件数が集中していましたので、1月における転倒災害死傷者数を塗り分け地図で表示したところ、図4の結果となりました。

図3  45歳以上の中高年齢女性における転倒災害災害の実態(令和4年)
図3 45歳以上の中高年齢女性における転倒災害災害の実態(令和4年)≪クリックで大きい図≫

図4   45歳以上の中高年齢女性における転倒災害の都道府県別死傷者数(令和4年1月) 図4   45歳以上の中高年齢女性における転倒災害の都道府県別死傷者数(令和4年1月)
図4   45歳以上の中高年齢女性における転倒災害の都道府県別死傷者数(令和4年1月)≪クリックで大きい図≫

3.労働災害事例のワードクラウド


 試作したワードクラウド画面を図5に示します。労働災害事例を探す際に,事故の型や業種だけでなく、災害状況の文章に使われる単語で事例を検索できればと思い、「単語インデックス」をイメージして製作しました。

労働災害事例可視化画面 画面構成
図5  労働災害事例可視化画面(左)と画面構成(右)≪それぞれクリックで大きい図≫



 画面構成を簡単に説明します。画面左側がデータを絞り込むための条件設定部で、以下の7項目のそれぞれについて、チェックボックスによる選択が可能です。
【絞り込み項目】

  1. 災害発生年
  2. 災害発生月
  3. 発生時間
  4. 業種(大分類,中分類)
  5. 被災時の年齢
  6. 起因物(大分類,中分類)
  7. 事故の型


 画面右側が結果表示部です。「ワードクラウド」画面では、災害状況の中によく登場する単語ほど大きく表示され、「単語」画面には各単語の頻出数が横棒グラフで表示されます。「災害事例データ」には、労働災害事例データベースの元データが表示されますので、ここで災害状況の文章を確認することができます。また、「単語」の横棒グラフはフォーカスモードを使うと拡大表示できます(図6)

フォーカスモードを使用した「単語」 横棒グラフの拡大表示
図6 フォーカスモードを使用した「単語」(左)横棒グラフの拡大表示(右)≪それぞれクリックで大きい図≫


 なお、図5は死傷災害データベースのワードクラウド画面ですが、死亡災害の画面もほぼ同じ構成です(「被災時の年齢」が無いこと以外は同じ)。また、このワードクラウドでは、職場のあんぜんサイトで公開されている「死亡災害データベース」および「死傷災害(死亡・休業4日以上)データベース」の機械可読性等を向上させたデータ2,3)を使用しています。

 以下に絞り込み描写の例をあげます。 今度は、第14次労働災害防止計画での「重点対策⑥:業種別の労働災害防止対策の推進」を例題にして、製造業における「起因物:動力機械」および「起因物:物上げ装置・運搬機械(乗物を除く)」による「事故の型:はさまれ・巻き込まれ」の災害事例を検索してみました(図7および図8)。以下に「起因物:物上げ装置・運搬機械(乗物を除く)」での表示手順を示します。
【表示手順】

  1. 業種(大分類,中分類)画面で「1_製造業」を選択
  2. 起因物(大分類,中分類)画面で「2_物上げ装置,運搬機械」の中から「21_動力クレーン等」および「22_動力運搬機」を選択
  3. 事故の型画面で「7_はさまれ,巻き込まれ」を選択

 図7に「物上げ装置・運搬機械(乗物除く)」、図8に「動力機械」のワードクラウド結果画面を示します。両図ともに、左側が死亡災害、右側が死傷災害の結果です。「機械」や「装置」といった一般的名称の語を除外していないため画面がごちゃごちゃしておりますが、よくみると、死亡災害(図左)と死傷災害(図右)では、頻出語の内容に違いがあることがわかります。 例えば、図7(左)に示す物上げ装置・運搬機械による死亡災害には、図7(右)の死傷災害には見られない「マスト」の語があります。これはフォークリフトの「マスト」のことです。同様に「頭部」の単語も死傷災害では見当たりません。
 反対に、図8(右)に示す動力機械による死傷災害では「フットスイッチ」の単語がありますが、図8(左)の死亡災害には頻出語として出現していません。
 死亡災害と死傷災害の頻出語に違いがみられるということは、死亡災害と死傷災害では典型的な災害事例が異なることを意味しています。

死亡災害 死傷災害
図7 製造業における「物上げ装置・運搬機械(乗物除く)」での「はさまれ・巻き込まれ」災害のワードクラウド表現
≪それぞれクリックで大きい図≫

死亡災害 死傷災害
図8 製造業における「動力機械」での「はさまれ・巻き込まれ」災害のワードクラウド表現
≪それぞれクリックで大きい図≫


 災害状況を調べるには、ワードクラウドまたは単語画面で単語を選択します。例えば、フットスイッチでの災害状況を表示するには、ワードクラウド画面で「フットスイッチ」を選択すると、図5(右)「災害事例データ」の場所に、災害状況等のデータが表示されます。画面が小さくて見づらい場合は、フォーカスモードをクリックするか「全画面表示モードで開く」をご利用ください(図9)。
 なお、大変恐れ入りますが、Microsoft Power BIの仕様により、表示された災害事例データのダウンロードはできません。

フォーカスモードを使用した「単語」 横棒グラフの拡大表示
図9 フォーカスモードを使用した災害事例データの拡大表示≪それぞれクリックで大きい図≫

4.おわりに


 第14次労働災害防止計画への取り組み支援に向けたデータ可視化の試みとして、Microsoft Power BIを用いて「令和4年休業4日以上の死傷災害に係る労働者死傷病報告全件データ」のグラフと「死亡災害データベース」および「死傷災害(死亡・休業4日以上)データベース」のワードクラウドを製作しました。元データであるExcelファイルを操作することなく、マウス操作のみでデータを様々な視点から調べたりグラフ化できますので、勉強会などでもお使いいただけるのではないかと思います。とはいえ、試作したオープンデータのグラフは、業種別や起因物別の視点からデータを調べることには向いていないため、新たなグラフ画面が必要です。
 計画の目標達成においては、国や事業者を含む多くの関係者間で、現状を共有できる仕組みがあると良いと思われますので、引き続き、データ可視化を進めていく予定です。


(労働災害調査分析センター/機械システム安全研究グループ 統括研究員 濱島 京子)

参考文献

  1. 厚生労働省:労働災害防止計画について,https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000197308.html(2024年5月2日確認)
  2. 濱島京子, 機械判読の観点からみた労働災害データベースの課題, 労働安全衛生研究, 2022, 15 巻, 2 号, p. 177-188.https://doi.org/10.2486/josh.JOSH-2022-0009-CHO
  3. 労働安全衛生総合研究所:労働災害データベースCSVデータの公開について, https://www.jniosh.johas.go.jp/publication/houkoku/houkoku_2022_01.html(2024年4月27日確認)

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