労働安全衛生総合研究所

令和四年度 安全衛生技術講演会 実施報告

 令和4年9月28日に安全衛生技術講演会を開催いたしました。今年は200名以上の多くの皆様からの事前申込みをいただきました。ありがとうございました。
 本講演会は、労働安全衛生に関する当研究所の研究成果を皆様にわかりやすくご紹介することを目的におこなっており、オンライン形式で開催いたしました。当日は多数のご質問をいただきましたが、お時間の都合で全てにお答えすることができなかったことをお詫び申し上げます。今年も皆様のご協力により、大変盛況な講演会を開催できましたことを重ねて御礼申し上げます。
 以下、当日の様子を写真とともにご紹介します。


1. 主催者挨拶(所長 梅崎 重夫)


講演会の開催にあたり、労働安全衛生総合研究所の梅崎所長から皆様にご挨拶申し上げ、各講演の概要をご紹介いたしました(写真1)。


写真1 梅崎所長からのご挨拶

2. 講演①「ラボ実験から見えてきた長時間労働と心血管系反応」(人間工学研究グループ 劉 欣欣 上席研究員)


 劉上席研究員は、ラボ実験から見えてきた長時間労働と心血管系反応と題して講演いたしました(写真2)。本講演では、過労死のリスク要因となる長時間労働について、心血管系反応に及ぼす影響の観点から解説いたしました。実験的な調査から、収縮期血圧は作業時間とともに上昇した結果や、長めの休憩が無い連続作業では心臓反応が低下し、逆に血管系反応は上昇した結果を示しつつ、やむをえない長時間労働では複数の50分以上の長めの休憩を取ることが必要なことを説明しました。また、50代以上の高年齢労働者は長時間労働による心血管系への負担が大きくなる傾向を示し、高リスク群(高血圧群、高年齢群)に対する配慮が必要との考えを述べました。


写真2 オンライン講演する劉上席研究員(右側)


3. 講演②「産業化学物質の経皮ばく露による遅発性疾病の予防に向けて –どのような特性の物質に気を付けるべきなのか–」(有害性評価研究部 豊岡 達士 上席研究員)


 豊岡上席研究員は、産業化学物質の経皮ばく露による遅発性疾病の予防に向けて、と題して講演いたしました(写真3)。本講演では、経皮ばく露により発症したと考えられる職業性膀胱がん事例を紹介したうえで、経皮ばく露が問題となる化学物質について説明しました。また、三次元ヒト培養皮膚を用いた実験から明らかとなった、化学物質毎に異なる皮膚吸収性や透過性について解説しつつ、今後は経皮暴露によって健康障害を生じる恐れの高い物質を絞り込んだうえで優先的なリスク評価や注意喚起が必要であるとの考えを述べました。


写真3 オンライン講演する豊岡上席研究員(右側)


4. 講演③「シミュレーション解析による減肉した配管の残存強度評価」(機械システム安全研究グループ 山口 篤志 上席研究員)


 山口上席研究員は、シミュレーション解析による減肉した配管の残存強度評価と題して講演いたしました(写真4)。圧力機器の肉厚が、長期間の使用によって減少する現象を減肉と呼び、これによる損傷メカニズムを解説しました。具体的には、減肉によって低下した圧力機器の破裂圧力をシミュレーション解析と実験から明らかにしました。そのうえで配管の残存強度を考慮した設備の維持管理の必要性を述べました。また、シミュレーション解析を実施する際の注意点や、減肉した圧力機器に対する評価の最近の動向についても説明いたしました。


写真4 オンライン講演する山口上席研究員(右側)


5. 講演④「斜面掘削工事中における土砂崩壊災害について」(建設安全研究グループ 平岡伸隆 主任研究員)


 平岡主任研究員は、斜面掘削工事中における土砂崩壊災害についてと題して講演いたしました(写真5)。本講演では、掘削勾配とその高さは斜面の安定を左右する重要な要素であることを解説した上で、労働安全衛生規則第356条に規定された基準を超えた掘削の危険性を指摘しました。また、地下水が斜面の安定性に及ぼす影響について、実験動画を示しながら崩壊に至るプロセスについても説明しました。さらに、センサーでモニタリングした斜面の動きを深層学習することで早期に異常を検知する最新の研究についてもご紹介いたしました。


写真5 オンライン講演する平岡主任研究員(右側)


6. おわりに


 本講演会の配信会場では、司会者と講演者の間にはパーティションを設け、アルコールによる機器や手指の消毒を徹底するなど、新型コロナウイルスの感染防止に十分留意したうえで講演者らはマスクを外して配信に臨みました。各講演では参加者の皆様からオンラインで頂いたご質問やご意見を司会の労働災害調査分析センターの玉手センター長が代読する形で講演者と議論いたしました。この議論では参加者皆様に分かりやすい説明を心がけるとともに、講演者はスライドを併用するなどいたしました(写真6、7)。
 なお、参加者の一部から、講演スライドの配布のご希望をいただきましたが、作者の著作権保護の観点から電子ファイルの提供は差し控えさせていただきました。どうかご理解のほどよろしくお願い致します。
 次回、令和五年度 安全衛生技術講演会も同じく秋頃の開催を予定しております。開催の概要が決まりましたら、また安衛研ニュース(メールマガジン)や研究所ホームページ等でご案内いたしますのでどうぞよろしくお願い致します。次回も皆様のご参加を心よりお待ちいたしております。


写真6 各講演における司会者と講演者による討論の様子


写真7 スライドを使用して質問に回答する際の配信映像の様子

刊行物・報告書等 研究成果一覧