危険物の該否判定の違いについて考える (消防法とGHS)
1.はじめに
日本では、危険物の規制として消防法が重要な役割を担っています。一方、労働安全衛生法ではGHS(化学品の分類および表示に関する世界調和システム)による危険性・有害性を基に化学物質管理を行うこととしています。GHSは、物理化学的危険性について、国際的な危険物の規制である「危険物の輸送に関わる国連勧告(以下TDG)」を取り入れて制定されています(注1)。表1に消防法危険物に対応するGHS物理化学的危険性の項目を示しますが,危険性の項目名は概ね同じです。
しかし、判定するための試験方法や判定基準は、消防法とGHSで異なる点が多々あります。本コラムでは、両者で判断が異なる場合についてご紹介します。
消防法 | GHS(注2) |
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第1類:酸化性固体 | 酸化性固体 |
第2類:可燃性固体 | 可燃性固体 |
第3類:自然発火性物質 | 自然発火性液体、自然発火性固体 |
該当するものがない | 自己発熱性物質および混合物 |
第3類:禁水性物質 | 水反応可燃性物質および混合物 |
第4類:引火性液体 | 引火性液体 |
第5類:自己反応性物質 | 自己反応性物質および混合物 |
第5類:有機過酸化物 | 有機過酸化物 |
第6類:酸化性液体 | 酸化性液体 |
2.試験方法について
試験方法が異なる例として、表2に可燃性固体の該否を判定するための試験および判定基準を示します。
消防法:第2類 | GHS |
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小ガス炎着火試験 | 燃焼速度試験 |
出典:試験方法及び判定基準のマニュアル 改訂7版(日本規格協会出版) |
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3㎤程度の試料を耐火板の上に置き、10秒間着火器具の炎に接触させた後、着火器具の炎を離し、試料が燃焼を続ければ可燃性固体に該当。 | 試料を底辺20mm, 高さ10mm, 長さ250mmの三角柱に成型し、ガスバーナーの火炎を最大2分間(金属粉は5分間)接触させた後の燃焼時間を測定する。指定された区間の燃焼時間または燃焼速度が、基準値内であれば可燃性固体に該当。 |
2つの試験方法で判定結果が異なる例として、ナフタレンがあります。一般的な形状のナフタレンは、消防法では可燃性固体に該当せず非危険物(注3)ですが、GHSでは可燃性固体に該当します。
また、液体か固体かを判定するための試験方法も、消防法とGHSでは異なっています。樹脂では厳密に性状試験を実施すると、GHSで液体、消防法で固体に分類されるものもあります。
3.問題点
(1)取扱いの立場から
化学品の取扱い者からは、「消防法とGHSのどちらの危険物として考え作業をすればよいのか、戸惑う場面がある」という声がよく聞かれます。例えば「トラック運送では非危険物だが、船舶運送では危険物となる場合」、「GHSでは引火性液体だが、消防法では指定可燃物(可燃性固体類)とされる場合」といったケースがあります。化学品ごとにそれぞれの違いを理解しないまま作業を行うことは、取扱い者の混乱を招くとともに、不適切な取扱いにつながることもあり、労働安全上、望ましい状態とは言えません。
(2)経営的立場から
欧米諸国では、危険物の該否判定は国際基準のみに基づいており、危険性1種類につき1種類の判定試験で実施されます。一方、日本では消防法とGHSの2つの試験を実施しなければなりません。その費用は、事業者にとっては大きな負担になることもあり、化学物質管理関連の予算配分の減少(保護具を購入できない、設備のメンテナンスができない等)や、危険物判定を行う化学品数を抑制せざるを得ないなど、長い目でみれば日本企業の経営圧迫や、国際間競争力の低下につながる恐れもあります。
4.研究の必要性
消防法の危険物の定義(試験方法や判定基準を含む)は、日本の気候や建築物の特性に適応した法令と言えますので、消防法の存在を尊重しつつ、国際標準とどのように融合を図って事業者負担を減らすかが今後の課題と考えられます。
特に上記3で示した問題点を解決するためには、両者の試験方法および判定基準を一致させることが最も望ましいのですが、その影響は大きく、簡単にできるものではありません。従って、例えば相関性がみられる消防法の試験とGHSの試験がないか調査研究を行い、相関性がみられる試験方法があればどちらかの試験を免除するといった対策など、実施可能性の高そうなことから検討を始めることが望まれます。
こうした調査研究の発展が、危険物取扱いの一元化や事業者負担の軽減などに今後貢献することが期待されます。
(注1)
TDGとGHS物理化学的危険性は完全一致ではありませんが、このコラムではGHSの物理化学的危険性をTDGと同じとみなして記述しています。GHSをTDGと読み替えても差し支えありません。
(注2)
GHSには、爆発物やガスなど、火薬類取締法、高圧ガス保安法に関連する項目もあります。
(注3)
指定可燃物の可燃性固体類には該当します。これは、危険物としての可燃性固体とは異なります。