労働安全衛生総合研究所

爆発・火災に繋がる水の関わる化学反応の意外な危険性

1.はじめに


 地球は水の惑星とも呼ばれ、水は地球上の生命にとって欠かせないものです。そんな水ですが、一部の化学物質は水と接触すると大量の熱を放出する危険な化学反応を起こし、爆発・火災に繋がることがあります。水は雨を通じて飲み水となり、火事の時には火を消してくれる心強い味方ですが、いざ敵に回るとなると身の回りの至る所にあるので厄介な存在と言えます。そこで、そんな水の関わる注意すべき化学反応やそれに関わる化学物質を紹介いたします。


2.水と反応する代表的な化学物質


 有名な化学物質としては、金属ナトリウムが挙げられます。金属ナトリウムと水が接触した場合, 次の式(1)のような反応時の激しい発熱から温度が上昇し、また可燃性を有する水素を生成し、着火すればガス爆発に繋がります。

Na + H2O → NaOH + 1/2H2     (1)

 マグネシウムでは、少量の塊ならば水と接触した場合でも即座に発火しませんが、切削くずや粉体など表面積の大きな状態で大量に集まっている場合、次の式(2)のような水との反応による発熱と水素の発生が激しくなります。

Mg + 2H2O → Mg(OH)2 + H2     (2)

 さらに燃えているマグネシウムを消火しようとすると、水により燃焼が促進されることで火勢が逆に強くなる恐れがあります。
 表1に水との反応性が特に高いことが知られており、水と接触させることが禁じられている化学物質や、禁水性物質の代表例を示します。

表1 水と激しく反応する代表的な化学物質[1]
種類 物質の例
アルカリ金属 リチウム, ナトリウム, カリウムなど
アルカリ土類金属 カルシウム, ストロンチウム, バリウムなど
アルカリ金属過酸化物 過酸化カリウム, 過酸化ナトリウムなど
金属水素化物 水素化ナトリウム, 水素化ナトリウムアルミニウムなど
金属炭化物 炭化カリウム, 尿化アルミニウムなど
金属硫化物 硫化ナトリウム, 五硫化リンなど
金属アミド ナトリウムアミドなど
ハロゲン化物 三塩化リン, 三臭化ホウ素など

これらの化学物質は次の表2に抜粋した労働安全衛生法施行令の別表第1における危険物、発火性の物とほとんど一致しています。ただし、発火性の物として指定されているすべての化学物質が水と激しく反応するわけではなく、また指定されていない化学物質であっても水と激しく反応する物質は多くあるため、その点について注意が必要となります。参考のため、水との反応の危険性がBretherick氏によってまとめられた危険物ハンドブックにて言及されている発火性の物について、表2に加えております。

表2 労働安全衛生法施行令における発火性の物と水との反応性[2][3]
金属「リチウム」 水と反応
金属「カリウム」 水と反応
金属「ナトリウム」 水と反応
黄りん
硫化りん 水と反応
赤りん
セルロイド類
炭化カルシウム(別名カーバイド) 水と反応
りん化石灰 水と反応
マグネシウム粉 水と反応
アルミニウム粉 水と反応
マグネシウム粉及びアルミニウム粉以外の金属粉
※カルシウム粉など
水と反応
亜二チオン酸ナトリウム(別名ハイドロサルフアイト) 水と反応

 加えて、水と激しく反応しない場合でも、反応熱が蓄積して発火に至る危険性を有する化学物質やその混合物、水との直接の反応では発火せず、他の発火の原因となる化学物質を生成することで火災の原因になる化学物質も存在します。代表例としては、炭酸ナトリウム過酸化水素付加物が挙げられます。炭酸ナトリウム過酸化水素付加物は水に溶けることによって不安定化し, 熱と酸素を放出することで火災の原因になる恐れがあるとされています。


3.水と反応する化学物質の安全な取り扱いのために


 取り扱う化学物質がこういった性質を持つ化学物質であるかを把握し、安全に管理するためには化学物質の譲渡・提供時に付属して与えられる安全データシート(SDS)を確認することが欠かせません。SDSの火災時の措置、漏出時の措置、取扱い及び保管上の注意、物理的及び化学的性質、および安定性及び反応性の項目に水との反応性について言及がされていた場合は注意する必要があります。

4.おわりに


 化学物質の発火やそれに伴う爆発・火災は多数の労働者を一度に死傷しうる恐れがあるばかりか、事業所周辺にも甚大な被害を及ぼしうる危険性があり、より一層の注意が必要となります。水との混触は通常時であっても身近に存在しているほか、洪水や高潮などの災害や火災時の消火用水など、非常時もその危険性の認識が不足している場合には災害や事故の被害拡大の原因となる可能性が高く、その危険性についてより深い理解が必要となります。

(参考資料)

  1. 監修:上原陽一, 小川輝繁, "防火・防爆対策技術ハンドブック", (株)テクノシステム, p.526 (2004).
  2. 昭和四十七年政令第三百十八号 労働安全衛生法施行令, 別表第一 危険物
  3. L. Bretherick, 監訳:吉田忠雄, 田村昌三, "危険物ハンドブック", 丸善(株), pp. 10-15, 79-80, 342, 347-348, 485-489, 496-499, 500-502, 519-523, 525, 545-546, 602-603 (1987).

(化学安全研究グループ 任期付研究員 西脇 洋佑)

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