労働安全衛生総合研究所

令和三年度 安全衛生技術講演会 実施報告

 令和3年9月28日に安全衛生技術講演会を開催いたしました。本講演会は労働安全衛生に関する当研究所の研究成果を皆様に広く知っていただくことを目的におこなっているもので、今年度は「労働災害の防止のための研究から実践まで」をテーマにオンラインで開催いたしました。

 287名の事前申込みをいただき当日も多数のご参加をいただきました。誠にありがとうございました。

 以下、先日の講演会の様子を写真とともにご紹介します。


1. 主催者挨拶(梅崎 重夫 所長)


講演会の開催にあたり、労働安全衛生総合研究所の梅崎所長から皆様にご挨拶申し上げました(写真1)。


写真1 梅崎所長からのご挨拶

講演①「アルゴンガスによる新たな静電気低減手法の開発」(電気安全研究グループ 三浦 崇 上席研究員)


 三浦上席研究員が、アルゴンガスによる新たな静電気低減手法の開発について講演いたしました(写真2)。本講演では、静電気を原因とする火災・爆発災害について解説した後、アルゴンガスを利用した新たな静電気低減手法について、その原理(静電気の緩和を促進)および、アルゴンガスによる低減効果を示す各種検証実験の結果(空気、窒素ガス、二酸化炭素との比較)を紹介いたしました。アルゴンガスは静電気低減効果に加えて不活性ガスとして着火防止効果も有することから、提案手法は産業現場における静電気災害の大幅な減少に寄与することが期待されます。


写真2 オンライン講演する三浦上席研究員


講演②「テールゲートリフターを使用した荷役作業による災害とその対策」(リスク管理研究グループ 大西 明宏 上席研究員)


 大西上席研究員が、テールゲートリフター(TGL)を利用して荷役作業を行う際の労働災害の発生状況とその安全対策について講演いたしました。ここでTGLとはトラックの後ろに装着する荷物の積み卸し用の昇降装置のことを言います。この装置では、装置の使用中に作業者が装置に挟まれたり、作業者が装置から転落して負傷するなどの災害が多発しております。このような作業に対して、大西研究員は海外の実態等も考慮して、日本の現場に活用できる効果的な安全対策を提案いたしました。


写真3 オンライン講演する大西上席研究員


講演③「ストレスチェック制度を活用した職場環境改善」(過労死等防止調査研究センター 吉川 徹 統括研究員)


 吉川統括研究員は、ストレスチェック制度を活用した職場環境の改善策について講演いたしました。ストレスチェック制度は2015年の労働安全衛生法の改正によって労働者数が50名以上の事業場で実施が義務づけられました。しかし、ストレスチェックが高い比率で実施される一方で、職場環境の改善策は必ずしも十分に進捗していません。このため、吉川研究員らは参加型のアプローチによる職場環境改善策を提言し、ストレスチェックだけに留まらない事業場におけるトータルなメンタルヘルスサポート対策を進めています。今回はこの具体的実践事例を報告いたしました。


写真4 オンライン講演する吉川統括研究員


講演④「生理指標を利用した労働者のストレスの評価」(産業保健研究グループ 井澤 修平 上席研究員)


 井澤上席研究員は、産業ストレスの生理指標であるコルチゾールを利用して労働者の産業ストレスを定量的に評価するための研究成果および、今後の展望について講演いたしました。講演では、職場でのストレスによる健康への悪影響について解説した後、ストレスバイオマーカーとして用いられるコルチゾール(副腎皮質から分泌されるホルモンの一種)とストレスの関係について井澤研究員が実施した各種研究データが示されました。最後に、ストレスバイオマーカー研究の今後の展望として、ストレスバイオマーカーと病気の関係を明らかにすることで、病気予測にも応用できる可能性を述べました。


写真5 オンライン講演する井澤上席研究員


6. 特別講演「高齢者が健康で働くための産業保健の課題」(甲田 茂樹 所長代理)


 特別講演として当研究所の甲田所長代理から、高齢者が健康で働くための産業保健上の課題についてお話しいたしました。本講演では、厚生労働省が令和2年3月16日に公表した「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」(通称:エイジフレンドリーガイドライン)を解説するとともに、重量物取扱いや化学物質ばく露を例に挙げて、高齢労働者に従来の安全衛生基準を適応するうえでの問題点および今後の課題を提示いたしました。さらに、就労中の高齢労働者の健康を確保するための具体的な研究成果(長時間労働ストレス、温熱ストレス、体力チェック)を三つ紹介いたしました。安衛研ではその他にも重量物の取扱い制限や騒音・振動ばく露の基準値についても現在検討中であり、高齢労働者が健康的に働くことのできる科学的エビデンスを提供していく予定です。


写真6 オンライン講演する甲田所長代理


写真7 オンライン配信する会場の様子


写真8 配信された映像(大西研究員の講演時)


おわりに


 講演会の雰囲気をお伝えするために、写真7で講演配信会場の様子をご紹介します。写真右側は司会を務めた労働災害調査分析センターの玉手センター長です。会場内では全員がマスクを着用し、入室時の検温、アルコール手指消毒等の新型コロナ感染対策を徹底しての講演会開催となりました。講演会にご参加頂いた皆様には写真8のような映像が配信されました。
 次回は2022年の秋頃に開催する予定です。開催の概要が決まりましたら、安衛研ニュース(メールマガジン)やホームページにてご案内いたしますのでどうぞよろしくお願いいたします。ご参加をお待ちしております。


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