労働安全衛生総合研究所

"ISO/TR22053 支援的保護システム"を適用したこれからの安全管理について

1.はじめに


 ISO12100:2010(JISB 9700:2013)機械類の安全性-設計のための一般原則-リスクアセスメント及びリスク低減では、リスクアセスメント及びリスク低減を行うための方法として、

  • ①意図する使用及び合理的に予見可能な誤使用を含む、機能の制限を決定する。
  • ②危険源及び危険状態を同定する。
  • ③同定されたそれぞれの危険源及び危険状態に対してリスクを見積もる。
  • ④保護方策によって危険源を除去するか又は危険源に関連するリスクを低減する。

 と規定されている。
 また、リスク低減方策については、次に示すように3ステップメソッドの優先順位に従って検討されなければならない。

  • ①本質的安全設計方策によるリスク低減
  • ②安全防護によるリスク低減、付加保護方策の実施
  • ③使用上の情報によるリスク低減

 ここで検討される①本質的安全設計方策によるリスク低減は危険源が持つエネルギーを除去または低減することや、危険源に近づく必然性を無くすことでリスクを低減する。②安全防護によるリスク低減、付加保護方策の実施は、ガードや保護装置、非常停止装置等、工学的なリスク低減方策を採用することによりリスクを低減する。しかし、③使用上の情報によるリスク低減については、設計・製造者が①及び②によるリスク低減方策を採用した後に残るリスクに対して、使用者に対して情報を与えることにより、リスクが低減することを期待しているものとなる。したがって、事前のリスク評価のとおり、リスクが低減されているかについては、与えられた情報をもとに、使用者がリスクを低減しているかを検証する必要があると考える。


2.支援的保護システムの採用によるリスク低減の考え方


 ISO/TR22053:2021支援的保護システムとは、ICT機器等を活用して、人の不確定性を低減することにより、上記ステップ3による使用上の情報提供によるリスク低減効果を高めることを目的とした規格となっている。
 従来、人の注意力や判断力に大きく依存した安全管理システムでは、ヒューマンエラーや意図的な不安全行動の発生により、事前に評価されたリスク低減効果が得られない場合があり、それが原因となる労働災害が発生している。そこで、様々なICT機器等を利用して人の資格や権限又はバイタルデータのリアルタイムな確認、作業者の存在位置の測位、機械側からの危険回避情報の提供等を行うことで、人が事前のリスク評価どおりの行動を行い、リスクが低減されることを確認しておくことが必要となる。なお、この支援的保護システムは、ステップ1の本質的安全設計方策やステップ2の安全防護で採用されているリスク低減方策や、従来から実施されている教育・訓練等による安全管理策の代替手段にしてはならないという原則があり、あくまでも人が持つ不確定性を低減することを目的としたものである。


3.おわりに


 労働災害の原因として意図的な不安全行動の発生がある。意図的な不安全行動とは、意図した結果が得られることから、ヒューマンエラーには分類されないという考え方もあるが、労働災害の発生原因としては少なくない現状がある。機械の設計・製造段階で、本質的安全設計方策や安全防護の採用後に残るリスクに対して、支援的保護システムの適用を考える場合には、適用したICT機器等が、対象となる作業者にとって、精神的・肉体的負荷となっていないか、また採用されたICT機器等に対して、作業者のWell-being(持続的な幸福感)が高まっているかを確認することで、評価どおりのリスク低減効果が得られることが期待されることから、今後は、労働安全を検討する上で、ハード側の検討ととともに、人間工学的アプローチも併せて行うことが求められている。



(建設安全研究グループ 部長 清水 尚憲)

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