労働安全衛生総合研究所

生産設備の安全対策について考える

1.はじめに


 生産設備は、機械メーカや電機メーカなどで作られ、使用する事業場(ユーザ事業場)に設置されます。生産設備をつくるメーカにおいては、この設計でいいか、この材料でいいか、この安全対策でいいか、このマニュアルでいいかなどを考えて販売することになります。また、生産設備を使用する事業者(生産設備を労働者に使用させる事業者)においては、生産設備の安全対策はこれでいいか、作業者への安全教育はこれでいいか、保護具はこれでいいか、作業環境への影響はないかなどを考えて設備を導入することになります。これらの判断のよりどころの1つが規格(産業標準)です。
 アジアを含む諸外国では、規格に適合しない製品は流通してはいけないことになっており、メーカ自らまたは第三者によってチェックと判断が行われます。自己宣言の場合でもエビデンスの提出や市場監視の制度がありますから、いいかげんなことはできません。ユーザ事業場は、認証や自己宣言のマークを見て購入しないと、いい加減なものを労働者に使用させているということになりかねません。この仕組みは自国のユーザを守るとともにきちんとしたモノづくりをするメーカを守ることにもつながります。さらには流通の促進にもつながるとされています。ちなみに日本製の家電が規格に適合しないとして東南アジアの国に輸出できない事態になったことがテレビに取り上げられていました(2001年6月25日NHKクローズアップ現代)。これは、当時、日本のメーカが諸外国の認証制度やグローバルな安全設計の考え方を十分に理解していなかったことで生じたとされていますが、日本と諸外国で制度が異なっていることにも関連していると思われます。規格は守らなくてもいいと考えるようでは円滑な流通が阻害されることになります。
 また、米国などでは、労働災害が起きたときにしばしば生産機械メーカが訴えられます。規格に適合しない粗悪な機械を販売していたとしたら多額の賠償を支払うことにもなりかねません。


2.リスクアセスメント


 判断のよりどころとしてリスクアセスメントが用いられることもあります。この場合も規格を無視することはできません。規格がない機械については類似の機械の規格やA規格(ISO12100)を参照します。
 労働安全衛生法第28条の2のリスクアセスメントは、ユーザ事業場(労働者を使用する事業者)で行うリスクアセスメントについて規定されています。会社(事業者)は、所定の設備や原材料や作業方法で労働者に作業させます。労働者にその機械設備を使わせていいか、原材料や作業方法はこれでいいかなどを会社(事業者)の責任で考えて、大丈夫と言えるように、設備的な安全対策を行ったり、保護具を使わせたり、作業標準を定めて教育を行ったりしてくださいという条文です。当然、法令を下回ることはできません。もし、労働災害が発生したら、「大丈夫だと判断したことが間違っていたのではないか(設備対策が不備だったり、作業方法が誤っていたり、伝わるように安全教育を行っていなかったりした)」となりかねません。指揮系統の川上側が適切なプロセスで責任をもってリスク低減方策を行い、川下側に情報提供(説明)を行う必要があります。例えば、労働安全衛生規則第35条では労働者を雇ったときや作業内容を変更したときに、機械や原材料の危険性・有害性などを教えなければならないとされています。どんな危険性や有害性があり、どう対処したらいいのかなど、きちんとした安全教育を行うためにもリスクアセスメントが重要となります。
 ところが、機械や原材料の危険性は、メーカに聞かないと分からないことがあります。労働安全衛生規則第24条の13に、機械譲渡者等(機械メーカ等)はユーザに危険情報等を通知することが規定されていますのでこの情報を用いることになります(化学物質については労働安全衛生法第57条などに別途規定があります。)。機械譲渡者等には法令ではリスクアセスメントは義務付けられていませんが、この通知をきちんと行うためには、リスクアセスメントを行うことが必要になります。先の述べたように、機械譲渡者のリスクアセスメントは、機械をユーザに譲渡してよいかを判断するために行うと言えます。
 このように、リスクアセスメントは、自らの判断を責任もって行うためであるとともに、前工程の者が後工程の者に対して(メーカがユーザに対して、また、生産ラインの設置者がその生産ラインで作業する労働者に対して)危険性や対処方法について説明するため(説明責任を果たすため)に行うといってもいいでしょう。
 労働者を労働災害から守る直接的な責任は、労働者を使用する事業者にありますが、機械メーカも製造した機械で労働災害が発生しないようにする責任があります(労働安全衛生法第3条)。


3.おわりに


 リスクアセスメントは事前に危険を予知する手法です。本当の事故が起きる前に、机上で事故を発生させて防止対策を講じます。「事故は現場で起こすんじゃない、事前に会議室で起こすんだ」です。エレベータの非常止めスイッチや圧力容器の安全弁と同じように、本物の事故が起きる前に事故を予見して止める仕組みといえるでしょう。ただし、会議室に集まって「危ないと思ったところをみんなで言おう」だけでは危険源を見落とします。危険源リストに照らして行う、立場の異なる人が集まって多面的に行う、安全計画に反映する、安全に責任と権限をもつ人が最終判断するなど、組織的、系統的に行います。
 このことは、自動運転など新たな技術を用いた生産設備においても基本的な仕組みは同じです。ロボットやAI自体は労働災害の責任をとってくれませんから、ロボットを使用させた事業者(ユーザ事業場)やロボットの製造者が各々の責任を果たすことになります。この場合の責任とは、労働災害を発生しないように事前に講ずる責任であり、この責任が講じられないときは刑事責任や賠償責任を負うおそれがあります。



(新技術安全研究グループ 部長 芳司 俊郎)

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