労働安全衛生総合研究所

放射線を正しく怖がるための、放射線防護の三原則

1.放射線について


 放射線は、主に電離放射線を示し、原子の電子等を弾き飛ばし、電離する作用を持つ高エネルギーの電磁波又は物質粒子を言います。この電離する作用が、細胞の中にあるDNAやRNAを傷つけ、がんを含む様々な健康障害を引き起こす可能性があり、その点で危険視されています。しかし、放射線は、特殊なものではなく、食品にも含まれ、大気中のラドン・トロン、大地及び宇宙からの放射線及び放射性物質により、日本では年間平均2.1mSvの自然放射線を受けていると報告されています。さらに、レントゲン撮影やCT等で平均3.87mSvの医療放射線を受けていると報告1)されています。


2.放射線防護の三原則


 放射線防護について議論が繰り返される中で、当初は「許容できる被ばく線量の上限値」が示されていました。一方で「線量制限は、それ以上リスクを低減することが困難である程度まで低いレベルに設定されるべき」2)とも示されていました。その時点では「被ばく線量は上限値を超えなければ許容されるのか」と「線量制限を低くしないと許されないのか」の相反する見解について、一貫した考え方は示されていませんでした。
 そこで、段階的に整理され、放射線防護の三つの基本原則として、行為の正当化、防護の最適化、及び個人の線量限度が示されること3)となりました。これにより、自然放射線以上の放射線被ばくを受ける場合は、被ばくを受ける行為が正当であり、十分に被ばく防護を行い、それでも被ばくが必要なら線量限度を超えないようにするという一貫した考えが示されました。


3.行為の正当化


 行為の正当化という考えは、放射線を使う行為により得られるメリットが、放射線によりもたらされるデメリットを上回る場合のみ認められるという考え方です。例えば、医療の検査で放射線を扱う場合、検査することで得られるメリットが、検査をしなかった際のデメリットを上回り、さらに、放射線によりもたらされるデメリットも上回る場合に検査の正当性が認められることになります。より具体的にいうと、がんを強く疑っている場合、検査することで早期治療できるメリットがあれば、検査をしないで放置し致死的になるデメリットに比べてメリットは大きく、さらに、放射線を照射されたことにより発がんの可能性が上昇したとしても、がんを早期治療するメリットに比べれば、そのデメリットは十分に小さいといえます。


4.防護の最適化


 放射線を伴う行為のメリットが放射線のデメリットを上回る場合は、合理的に達成可能な限り被ばく量を減らして、放射線を利用します。この原則は、As Low As Reasonably Achievableの頭文字から「ALARAの原則」と呼ばれています。防護の最適化とは、社会的・経済的要因を考慮に入れながら合理的に達成できる限り低く被ばく線量を制限することで、必ずしも被ばくをゼロにするということではありません。
 具体的な対策としては、放射線源から離れる、放射線源との間に遮蔽物を設置する、放射線源に近づく時間を短くする、といった防護策があります。こういった対策を、防護の効果とコストを比較して、必要十分な対策を行うことが重要です。


5.個人の線量限度


 防護の最適化を行っても被ばくする可能性は十分にあります。そこで、被ばくの線量の上限を定めたのが個人の線量限度になります。国際放射線防護委員会2007年勧告では、放射線作業(緊急時の作業を除く)を行う職業人の実効線量の限度は5年間で100mSv、特定の1年間に50mSvと定められています。さらに、一般公衆の場合、自然放射線の影響を超えて被ばくする実効線量限度が年間1mSvと定められています。
 個人の線量限度は、「被ばく線量は上限値を超えなければ許容されるのか」という考えに基づくものではなく、行為の正当化と防護の最適化に十分に取り組んだ後に、それでもなお超えてはいけない線量限度となっています。原則は、可能な限り被ばく線量を低くすることが重要です。


6.おわりに


 放射線は、高エネルギーの電磁波又は物質粒子であることから、眼に見えるものではありません。従って、その取扱いに不安はつきものです。ただし、放射線から得られるメリットも多分にあります。そこで、放射線防護の三原則が定められ、その考えに基づき法令等が定められています。
 放射線防護の三原則は、放射線を適切に怖がるための基本的な考え方になります。


(参考資料)
  1. 国連科学委員会(UNSCEARE)2008年報告
  2. 国際放射線防護委員会(ICRP)1954年勧告
  3. 国際放射線防護委員会(ICRP)1977年勧告

(労働者放射線障害防止研究センター 特定業務研究員 朝長 健太)

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