労働安全衛生総合研究所

労働者の睡眠問題と勤務間インターバル

1.はじめに(労働者の睡眠と疾病、病欠・退職リスクの関係)


 労働者にとって、量的・質的に十分な睡眠を取ることは、とても重要なことです。経験的にご存じの方も多いと思いますが、睡眠の重要性は科学的なデータでも示されています。例えば、睡眠時間が短いと、風邪1)のような身近な病だけでなく、その他の様々な疾患(循環器疾患2, 3)や精神疾患4)等)の罹患リスクも高くなることが報告されています。また睡眠の質についても同様で、不眠症状(入眠困難、睡眠維持の困難・中途覚醒、早朝覚醒)や睡眠障害が、循環器疾患5)や精神疾患4)等の罹患リスクと関連することが報告されています。これらのリスクは労働者に限ったものではありませんが、労働者の場合には、病欠や退職につながる事が予想されます。実際に、睡眠の量・質と短期(1~3日)、中期(4~14日)、長期(15日以上)の病欠6)や、就業不能による退職7)との関連を検討した研究があります。図1は、睡眠の量・質と退職との関連を示したものです。7時間睡眠かつ不眠無しもしくは低頻度を基準とした場合、不眠の頻度が高い群は全ての睡眠時間の群で就業不能による退職のリスクが有意に高く、特に5時間未満の群でリスクが最も高くなっています。つまり、睡眠の量・質に問題が生じると様々な疾患の罹患リスクが増大し、病欠や就業不能から退職につながる可能性があるようです。

睡眠の量・質と就業不能による退職の関連.7時間睡眠かつ不眠無しもしくは低頻度を基準としたときのハザード比と95%信頼区間(縦棒).ハザード比は年齢と性別にて調整.(Haaramo et al., 2012. の表を元に作成)

図1 睡眠の量・質と就業不能による退職の関連.7時間睡眠かつ不眠無しもしくは低頻度を基準としたときのハザード比と95%信頼区間(縦棒).
ハザード比は年齢と性別にて調整.(Haaramo et al., 2012. の表を元に作成)


2.労働者の睡眠時間と睡眠の質の実態


 次に、労働者の睡眠時間や質に関するデータを紹介します。睡眠時間には個人差がありますが、米国の国立睡眠財団(National Sleep foundation)は、成人(26~64歳)では7~9時間の睡眠をとるよう推奨しており、6時間未満は推奨しないとしています8)。しかし、日本の労働者で7時間以上の睡眠をとっている者は少なく、平成24年労働者健康状況調査9)によると、わずか15.3%でした。また、睡眠の質について本研究所の研究員が実施した日本の労働者を対象にした調査によると、入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒のいずれかの睡眠問題を有する日勤労働者の割合は全体の2~3割10-12)に上っています。つまり、睡眠不足や睡眠の質の悪さは様々な悪影響を及ぼすにも係らず、睡眠時間が足りない、もしくは睡眠の質が良くない労働者が少なからず存在するという問題があるようです。


3.勤務間インターバルと睡眠問題


 勤務間インターバルとは、勤務終了後、一定時間以上の「休息期間」を設けることで働く方の生活時間や睡眠時間を確保するものです13)。現在、「労働時間等設定改善法」により、この勤務間インターバルの導入が事業主の努力義務として規定されています。本研究所ではこの勤務間インターバルに関する研究を実施していますが、本コラムでは睡眠問題との関連に焦点をしぼり、これまでに得られた知見をご紹介いたします。
 まずは、日勤労働者の勤務間インターバルと睡眠時間、睡眠の質、通勤時間、余暇時間の関連を検討した研究です14)。この研究では、WEB調査により、国内在住の日勤労働者約3,800人の勤務間インターバル(始業、終業時刻から計算)、睡眠時間、睡眠の質(ピッツバーグ睡眠調査票)、通勤時間、余暇時間(勤務間インターバル内の睡眠時間と通勤時間を除いた時間)を算出しました。図2は、勤務間インターバルの長さと睡眠時間、睡眠の質、余暇時間、通勤時間との関連を示したものです。トレンド分析の結果、勤務間インターバルが長い群ほど、睡眠時間と余暇時間が長く、さらに睡眠の質もよい事が示されました。一方で、勤務間インターバルと睡眠時間との関係(相関)は、勤務間インターバルと余暇時間との関係よりも弱いことが明らかになりました14)。つまり、勤務間インターバルが長いほど睡眠時間は長いのですが、労働者は勤務間インターバル内において睡眠時間よりも余暇時間を優先している、あるいは優先しなければならない状況にあるといえます。

図2 勤務間インターバルと睡眠時間、睡眠の質、余暇時間、通勤時間の関連性(Ikeda et al., 2018).睡眠の質は、ピッツバーグ睡眠調査票による得点.

図2 勤務間インターバルと睡眠時間、睡眠の質、余暇時間、通勤時間の関連性(Ikeda et al., 2018).
睡眠の質は、ピッツバーグ睡眠調査票による得点.

 さらに、私たちは勤務間インターバルと健康に悪影響を及ぼす2つの睡眠問題(「睡眠負債」と「社会的時差ぼけ」)との関連について検討を行いました15)。なお、「睡眠負債」は睡眠不足が積み重なっている状態のことをいい、「社会的時差ぼけ」は労働者であれば社会的制約を受ける勤務日と受けない休日における睡眠のタイミングのずれのことをいい、どちらも健康への悪影響が報告されています16, 17)。図3の左の図は、勤務間インターバルと睡眠負債(勤務日と休日の睡眠時間の差)との関係を、右の図は勤務間インターバルと社会的時差ぼけ(勤務日と休日における就床・起床時刻の中央値の差)との関係を示しています。これらのトレンド分析の結果、勤務間インターバルが長い群ほど睡眠負債や社会的時差ぼけが少ないことが示されました15)

勤務間インターバルと睡眠負債、社会的時差ぼけの関連性(Ikeda et al., 2020).

図3 勤務間インターバルと睡眠負債、社会的時差ぼけの関連性(Ikeda et al., 2020).

 以上から、勤務間インターバルが長いほど、睡眠問題(睡眠不足、質の悪い睡眠、睡眠負債、社会的時差ぼけ)は小さいと考えられます。ただし、上記2つの研究は横断的な研究なので、因果関係は分かりません。そのため、今後、勤務間インターバル制度を新たに導入する事業所等で調査を実施し、「勤務間インターバル制度の導入」や「勤務間インターバルの延長」が睡眠時間や睡眠の質、睡眠負債、社会的時差ぼけを改善できるかを検討する必要があります。しかし、本制度の導入により一定の休息期間を確保できることは間違いなく、それが睡眠時間を延長し、ひいては労働者の健康につながることは十分に考えられます。


4.おわりに


 休息期間を十分に確保できる勤務間インターバル制度の導入は、労働者の睡眠問題の解決に役立つ可能性があります。しかし、厚生労働省の就労条件総合調査18)によると、勤務間インターバルを制度として導入している企業は、平成31年でわずか3.7%、導入予定または検討している企業は15.3%と非常に少ないのが現状です。これに対し、厚生労働省は導入事例集を作成し、新たに導入した事業所には補助金を出すなど、本制度の導入を促しています13)。これらを利用し、今後、勤務間インターバル制度を導入する企業が増えることで睡眠時間が確保され、より健康に働ける労働者が増えると期待されます。

参考文献

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  9. 厚生労働省 (2014) 平成24年労働者健康状況調査.
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  11. Takahashi M, Iwakiri K, Sotoyama M, Higuchi S, Kiguchi M, Hirata M, Hisanaga N, Kitahara T, Taoda K, and Nishiyama K. Work schedule differences in sleep problems of nursing home caregivers. Appl Ergon 2008; 39: 597-604.
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  13. 厚生労働省 (2018) 勤務間インターバル, Available from: http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/jikan/interval/index.html(厚労省のサイトへ)
  14. Ikeda H, Kubo T, Sasaki T, Liu X, Matsuo T, So R, Matsumoto S, Yamauchi T, and Takahashi M. Cross-sectional Internet-based survey of Japanese permanent daytime workers' sleep and daily rest periods. J Occup Health 2018; 60: 229-235.
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  18. 厚生労働省 (2019) 平成31年就労条件総合調査の概況. Available from: https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/19/dl/gaikyou.pdf[PDF](厚労省のサイトへ)

(人間工学研究グループ 研究員  池田 大樹)

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