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溝掘削工事の土砂崩壊災害

 道を歩いているときに片側通行規制をしており、なにやら穴を掘っている工事を見かけたことがあるかと思います。これは、溝掘削工事と呼ばれ、電話・通信線、電力線、上下水道管、農業用・工業用水管、ガス管、送油管等を地盤内に敷設・改修するために地面を掘削する工事です。この他にも貯水槽等の埋設物の設置や建築物の基礎工事において地盤を掘る工事が行われます。これら溝掘削工事において側壁の土砂が崩壊し、作業者が死傷する労働災害が多発しており、これらの実態や対策について紹介します。

1.災害発生状況と掘削の基準について


 公開されているデータ1) 2)を元に、著者が分類した土砂崩壊による労働災害による死亡者数(1985年から2018年)を図1に示します。死亡者数は長期的には減少傾向にあるものの、2005年以降は横ばい状態が続き、さらなる労働災害防止対策が求められます。土砂崩壊による死亡者数の工事別の内訳は、溝掘削工事が51.8%、斜面掘削工事(道路工事や土地造成工事等で地山や盛土を掘削する工事)が38.2%、トンネル建設工事が6.3%であり、溝掘削工事中の死亡者数が最も多い割合を占め、溝掘削工事が危険な作業であることが分かります。

図1 工事別の土砂崩壊による労働災害の死亡者数の推移(1985-2018)

図1 工事別の土砂崩壊による労働災害の死亡者数の推移(1985-2018)


 土砂崩壊が発生するか否かは、地盤の形状、地盤の重量、地盤の強度で決まります。特に地盤の形状に関する「掘削深さ」と「掘削勾配」がとても大切な情報になります。道路での埋設物敷設工事は、溝掘削、埋設物敷設・改修、埋戻しの施工手順で工事が行われますが、作業時間短縮と掘削範囲の縮小を目的として、掘削勾配は最も危険な90度、いわゆる「直掘り」のところが数多く見受けられます。
 掘削勾配90度の場合、労働安全衛生規則第356条により、「岩盤又は堅い粘土からなる地山では深さ5 m未満」、「その他の地山では深さ2 m未満」と掘削深さに制限があります。これは手堀り掘削での規定になりますが、逐条解説3)には「パワーショベル等機械によって地山の掘削の作業を行う場合には掘削面のこう配及び高さについて規制はないが、機械掘削により形成された法面であっても仕上げ、修正作業等を手掘りで行う場合には本条(第356条)及び安衛則第357条の適用がある。」と記載されており、機械掘削のみの作業以外では、第356条の掘削勾配を遵守する必要があります。また、第361条では、明かり掘削の作業を行う場合において、地山の崩壊又は土砂の落下により労働者に危険を及ぼすおそれのあるときは、あらかじめ、土止め支保工を設けなければならないことが明記されています。これらの法律は1965(昭和40)年に制定されたものですが、1990年代の溝掘削工事における労働災害事例では、土止め支保工が未設置の溝内作業中あるいは溝内での土止め支保工の組み立て又は解体作業中の災害が9割を超えていました4)。これを背景に、2003年12月に厚生労働省労働基準局長から「土止め先行工法に関するガイドライン」が発出され、溝内に作業員が立ち入る前に先行して土止め支保工を設けることが推奨されました。このガイドラインの対象は、掘削深さが概ね1.5 m以上4 m以下で、掘削幅がおおむね3 m以下の溝をほぼ鉛直に掘削する作業をいい、掘削方法は機械掘削、手掘りのいずれも含みます。したがって、1.5 m以上の深さの掘削では、土止め支保工を設置することが求められます。
 土止め先行工法には、軽量鋼矢板工法(建込み方式・打込み方式)と建込み簡易土止め工法(スライドレール方式・縦ばりプレート方式)等があります。軽量鋼矢板工法は、矢板、腹起し、切梁で構成され(図2参照)、これらを正しく設置しなければ、その効果が発揮されません。特に矢板が地盤に差し込まれている長さである「根入れ深さ」は土止めの強度に大きく関わるので重要です。

図2 土止め先行工法の概略図

図2 土止め先行工法の概略図


 図3は1986年から2017年までの掘削深さ0.25 mごとの死亡者数1)です。このグラフは、死亡者数の傾向が変化した三期間に分けて色分けした積み上げ棒グラフになります。全体の傾向として深さ2.0 m程度での死亡災害が最も多く、浅いところではわずか0.5 mの掘削深さでも死亡災害が発生しています。また、2003年に発出されたガイドラインによって、1.5 m以上の掘削では土止め先行工法が推奨されたことなどにより、2008年~2018年の死亡者数は大幅に減っています。ただし、1.5 mより浅い掘削時の死亡者数の割合は、むしろ近年の方が増えています。
 厚生労働省「職場のあんぜんサイト」で公表されている2006年から2016年までの死傷災害のうち、溝掘削工事中の土砂崩壊によって発生し、掘削深さが判明している69件について分析した結果を図4に示します。死傷災害は全数が公表されているわけではなく、毎年全数の約4分の1程度が公表されているので、ここでは数ではなく傾向に注目します。死傷災害でみると、掘削深さ1.5 m~1.75 mでの災害が突出して多く、2011年以降では1.0 m未満の溝掘削工事における死傷者数の割合がそれ以前と比べて高いことがわかります。
 これらのことからガイドラインの掘削深さの対象にかかわらず、地盤の状態を調査して、必要な場合は深さ1.5 m未満の掘削であっても土止めを設置することが望ましいと考えます。

図3 溝掘削の深さごとの死亡者数 図4 溝掘削の深さごとの死傷者数(公表されている死傷災害で分析)
図3 溝掘削の深さごとの死亡者数 図4 溝掘削の深さごとの死傷者数
(公表されている死傷災害で分析)

2.掘削地盤の自立高さの簡単な計算方法


 地盤の強度と重量がわかれば、掘削した溝の側壁が自立するかどうかは、簡便な式によって算定できます。地盤の強度を表す指標の代表的なものとして「粘着力c」と「内部摩擦角φ」があります。このうち粘着力を持つ土で構成された地盤であれば直立した穴を掘ることが可能です。粘着力がない土、つまり砂浜の砂のようにサラサラとした乾燥した砂で構成された地盤では直立した溝を掘ることはできません。
 地盤を掘削し、仮想的壁体を設置した場合の模式図を図5に示します。土の圧力である「土圧」には主働土圧と受働土圧とがあり、図5では右側の地盤が主働土圧を発揮し、左側の地盤が受働土圧となります。主働土圧は粘着力がない場合は単純に地表面から深さ方向へ三角形分布となりますが、粘着力cがある土の場合は、単位幅あたりの主働土圧が地表面付近では見かけ上マイナスになります。土圧の分布を地表面から積分して考えると、主働土圧の合力がゼロになる深さまでは土止めに圧力が加わりません。主働土圧がマイナスである高さをZcとすると、土止めがなくても崩壊しない自立高さHcはその2倍の深さとなります。したがって、詳しい導出方法は省略しますが、自立高さHcは以下の式で求まります5)

Hc=2Zc=4c/γt・tan(45°-φ/2)

 ここに、c [kN/m2]は粘着力、φ[deg]は内部摩擦角、γt [kN/m3]は土の単位体積重量です。例えば、掘削する地盤の土の粘着力c = 3.0 kN/m2、内部摩擦角φ= 30°、単位体積重量γt = 18.0 kN/m3であった場合、自立高さHcは1.15 mとなります。ただし、実際の地盤では、亀裂の存在や地盤が不均一な状態では粘着力が働かないことがあり、また、水によって粘着力が大幅に減少することもあるので注意が必要です。

図5 自立高さと土圧の関係

図5 自立高さと土圧の関係


3.特に気をつけなければいけないケース


 最後に、これまでの溝掘削工事による労働災害に共通してみられる特に注意した方がよい場合について、いくつか紹介します。

  • 土止めをしていない、または誤った方法で土止めをしている場合
    土止めをしていないのはもちろん危険ですが、誤った方法で設置している場合も危険です。土止め代わりに溝壁に立て掛けた鉄板が倒れてきて被災するといった事例もあります。
  • 土止め支保工の設置中の場合
    土止めを「先行」させる必要があり、完成して初めて効果を発揮します。支保工が組み上がってから中に入るように徹底する必要があります。
  • 地盤が埋戻し土で構成されている場合
    埋戻し土は自然地盤に比べて弱く、崩れやすい特徴があります。一度舗装された道路を再掘削する場合、ほとんどが埋戻し土になります。
  • ブッロク塀や構造物、高い斜面が溝のすぐ近くにある場合
    掘削深さ1.0 m未満で発生した死亡災害のほとんどがこれに該当します。これら構造物の重量も土圧の重量に加算されます。地表面付近のアスファルトやコンクリートも塊となって溝内に落下するため危険です。
  • 掘削土砂を溝のすぐ近くに置いている場合
    掘削土を溝のすぐそばに積み上げてしまうと、この土砂の重量も土圧に加算されます。例えば、掘削深さ1.5 mの溝の側に1 mの土砂を積むと、高さ2.5 mと同等の土圧がかかります。掘削土の置き場所は、少なくとも掘削深さと同等以上の距離を溝の肩から離すべきです。
  • 地下水や漏水等により湧水が確認された場合
    土は水を含むと重量が増えるため土圧が増加し、さらに強度が大きく低下します。湧水が確認された場合は、土止めを設置した上で、しっかり排水する必要があります。
  • 隅角部があるような溝を掘った場合
    溝を上から見てT字状やL字状に掘ると90度に地盤が張り出したコーナーが生じます。未掘削の地盤が張り出した格好になるので崩れやすくなります。この場合も土止めを設置する必要があります。

参考文献

  1. 建設業労働災害防止協会,建設業安全衛生年鑑 昭和61年版から平成30年版.
  2. 建設業労働災害防止協会,建設業災害統計資料集,2019年版.
  3. 労働省労働基準局安全衛生部:実務に役立つ労働安全衛生規則の逐条詳細(第5巻),pp. 6-7, 1993.
  4. 豊澤康男,堀井宣幸,玉手聡,溝掘削工事における土砂崩壊による死亡災害の分析,産業安全研究所特別研究報告書RIIS-SRR-No. 14, pp. 7-18, 1995.
  5. 石原研而,「土質力学」,丸善株式会社,p. 237, 1995.

(建設安全研究グループ 主任研究員 平岡 伸隆)

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