労働安全衛生総合研究所

爆発の中の爆発

1.はじめに


 爆発が恐れられるのは、ものが壊れるとともに破片が飛んでくることや、大きな音が発生すること、その音の原因となる爆風が周囲のものを壊すことでしょう。一口に爆発といっても、様々な種類に細かく分けることができます。爆発とは、爆風=圧力波を放出する現象として定義できます。例えばタイヤがパンクするような場合、溶けた金属が水に触れて突然沸騰する場合などは、物理的な爆発と呼ぶことができます。一方、皆さんがよくご存じの燃焼を伴う爆発などは化学的な爆発と呼ばれます。化学的な爆発が発生するのは、一般に物が混じる速度に比べて圧力波の放出する時間の方が短いため、化学物質が自分自身のみで反応する、いわゆる自己反応性物質や、酸化する物質と燃焼する物質が混合された状態の場合に限られます。化学的な爆発は、燃える物質の種類によって、気体が爆発すればガス爆発、固体が空気と混じって爆発すれば粉じん爆発、先に挙げた自己反応性物質であれば分解爆発と細かく分類していくことができます。爆発は、物理的な爆発であれば内部に蓄えられた圧力によるエネルギ、化学的な爆発であれば化学反応によって得られるエネルギを圧力波の形で放出する現象なのです。ここでは化学的な爆発の中でも、伝わる速度で分けた際の呼び方である、爆ごうについてご紹介いたします。


2.爆ごう


 爆発の伝わる速度で分けたと書きましたが、音速よりも速く伝わる爆発を爆ごう、音速よりも遅い速度で伝わる爆発を爆燃と言います。なぜ音速で分類するかといいますと、はじめにのところで述べました爆発の定義が関係いたします。爆発は圧力波が出る現象ですが、通常の圧力波は、音と同じで音速で伝わります。爆ごうが、圧力波よりも速く伝わるということは、圧力波を追い抜くということになります。そのため爆発のエネルギは外へ放出されず、爆発が進行する面に大きなエネルギが集中し、この面で圧力が突然上がる衝撃波となります。爆ごうは気体に限らず、固体や液体の中でも起こる場合があり、その際は固体内の音速を超えた速度で伝わります。爆ごうが化学反応する物質の境界まで来た後、衝撃波のみが爆風となって周囲へ伝わります。また、衝撃波は反射が起こると圧力や温度が高くなるという特殊な性質を持ちますので、配管などでの爆ごうでは管の壁での反射で小さな強い爆発が連続して起きます。これを「爆発の中の爆発」(Explosion in Explosion)と研究者は呼んでいます。
 下の動画は過去の一般公開でお見せした、メタンの爆燃を2回、水素の爆ごうを1回、計3回の爆発を別々の配管で行った実験です。管の端をアルミホイルでふさいで、中の空気を各々のガスと空気の混合気で置換してあり、見えている側の反対からスパークプラグで着火しています。初めの実験では、管の端のアルミホイルをグリースで貼り付けただけですので、メタンの爆燃で圧力が少し上昇しただけで簡単にはがれてしまいます。そのため小さな音がしただけで、大きな爆発には感じられません。二つ目の実験では、アルミホイルを金具で固定しているため、アルミホイルが破れるまでは管の中の圧力が上がりますので、先ほどよりも高い圧力から爆風が放出され、大きな音がします。三つ目の実験では、管の内部で爆ごうが発生するように工夫がしてあります。先に書きましたとおり、爆ごうは高い圧力の衝撃波がアルミホイルに届き、小さな強い爆発がアルミホイルの上でも起こるため、アルミホイルは細かく引きちぎられます。この時、衝撃波が周囲へ伝わり、非常に大きな音がします。
 同じ混合気でも爆ごうで発生する圧力は、密閉容器内での爆燃で発生する圧力の2~3倍になり、しかも、爆ごうが通過して壊れた場所から圧力が抜けても、圧力の低減が伝わる速度も音速なので、先行する爆ごうは影響を受けません。化学プラントなどで、一度爆ごうが起きれば、大変なことになるというのがお分かりいただけると思います。


【※動画のリンク先は、外部サイト(YouTube)になります。】

3.弊所との関連


 弊所の前身となる労働省産業安全研究所では、発生した爆ごうを中断させるために管を一旦拡げて衝撃波と燃焼とを分離した後に消炎する方法を考案して様々なガスについてのデータを取りました。このことで、国際燃焼シンポジウムで論文賞1を得ております。この研究でも示されておりますが、爆ごうは物質によって起こりやすさが異なります。水素は爆ごうしやすいことでも知られており、昨今の水素利用の推進を受けて、詳細な実験が行われております。その中でも、弊所では多数の穴をあけた板を用いて、衝撃波と燃焼とを分離する実験2や、水素と空気の混合気が何%であれば、爆ごうが起こるのかについての実験3を行った実績があります。
 液体の爆ごうでは、ヒドロキシルアミンが爆ごうすることが知られており、災害調査を通じて、労働安全衛生規則の改正に寄与した事例4もあります。


4.おわりに


 爆ごうは圧力が高いこともあり、消炎することが難しい現象です。現在芝浦工大の斎藤研究室と消炎できる条件を探る研究を行っております。その結果も近いうちにご紹介できるよう、努力してまいります。


参考文献

  1. H. Matsui and J. H. Lee, On the measure of the relative detonation hazards of gaseous fuel-oxygen and air mixtures, Seventeenth Symposium (International) on Combustion(1979), pp. 1269-1280
  2. J. Chao, T. Otsuka and J. H. S. Lee, An experimental investigation of the onset of detonation, 30th Symposium (International) on Combustion(2005), pp. 1889-1897
  3. T. Otsuka, S. Tsuge, and N. Yoshikawa, Hydrogen-air detonability limits in long tubes obtained using detonative driver gases, Science and Technology of Energetic Materials, Vol.73, No.2 (2012), pp. 29-34
  4. 厚生労働省平成13年11月16日基発第1004号通達 https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb2214&dataType=1&pageNo=1

(化学安全研究グループ 上席研究員  大塚 輝人)

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