労働安全衛生総合研究所

個人ばく露測定用ポンプの装着位置と形状について

1.はじめに


 有害な化学物質や粉じんなどのばく露が懸念される労働現場では、環境濃度を測定する作業環境測定が行われてきました。しかし、作業環境測定のみでは、十分にリスクを把握できない場合があります1-4)。このことから、近年では欧米諸国と同様に我が国においても、作業者自身に捕集装置(サンプラー)を取り付けて作業者へのばく露を測定する個人ばく露測定の必要性が高まっています。



2.個人ばく露測定


 個人ばく露測定は、小型のサンプラーを作業者の呼吸域に装着し分子拡散を利用して捕集するパッシブサンプリング法と、サンプラーとポンプをチューブで繋いで強制的に空気を吸引するアクティブサンプリング法の二つに大別されます(図1)5,6)。アクティブサンプリング法で使用される個人ばく露測定用ポンプは、メーカーや用途により形状が異なり、また装着位置も様々です。しかし、個人ばく露測定用ポンプの装着位置や形状が、作業のしやすさに及ぼす影響については明らかではありません。
 そこで我々は、個人ばく露測定用ポンプの装着位置および形状が作業のしやすさに及ぼす影響について検討しました7)。以下では、当研究所のプロジェクト研究で実施した実験結果をご紹介します。


図1 アクティブサンプリング法の例

3.ポンプの装着位置と形状


 実験では、成人男性18名を被検者として募り、ポンプの装着位置3条件(腰回りの体の前面、左側面、背面)とポンプの形状5条件(図2)における、6つの模擬作業中(図3)の主観的な作業のしやすさを評価しました。


図2 模擬ポンプの形状



図3 模擬作業

(1)立位姿勢での粉体投入作業

 立位姿勢での粉体投入作業(右手のみ使用)では、ポンプを体の左側面に装着した場合、左手の位置にポンプがあったため、全ての形状においてポンプが作業のしやすさの障害(邪魔)になりました。しかし、ポンプを体の前面と背面に装着した場合は、いずれの形状においても、ポンプは作業の邪魔になりませんでした。このことから、この作業でのポンプは、形状に関わらず、体の前面または背面に装着するのが適切と考えられます(表1)。

表1 立位姿勢での粉体投入作業におけるポンプの推奨位置と形状


(2)立位姿勢での正面研磨作業

 立位姿勢での正面研磨作業(作業位置は肩の高さ)では、両腕を肩の位置まで上げた姿勢で作業をするため、装着位置に関わらず、ポンプは作業の邪魔になりませんでした。このことから、この作業におけるポンプの形状および装着位置は、どの条件であっても推奨できるものと考えられます(表2)。

表2 立位姿勢での正面研磨作業におけるポンプの推奨位置と形状


(3)座位姿勢での運転作業

 座位姿勢での運転作業では、ポンプを体の背面に装着した場合、ポンプが椅子の背もたれと体に挟まれるため、全ての形状においてポンプが作業の邪魔になりました。また、ポンプを体の前面に装着した場合、縦長の①20cm×10cmと②15cm×10cmのポンプも、ポンプが腹部や大腿部を圧迫するため、作業の邪魔になりました。しかし、縦10cmの③〜⑤のポンプは、体の前面に装着しても、①と②のポンプほど作業の邪魔にはなりませんでした。ポンプを体の側面に装着した場合は、いずれの形状においても、ポンプは作業の邪魔になりませんでした。このことから、この作業でのポンプは、形状に関わらず、体の側面に装着するのが適切と考えられます(表3)。

表3 座位姿勢での運転作業におけるポンプの推奨位置と形状


(4)座位姿勢での座面研磨作業

 座位姿勢での座面研磨作業では、ポンプを体の前面に装着した場合、ポンプが腹部や大腿部を圧迫するため、全ての形状においてポンプが作業の邪魔になりました。また、前側にたわんだチューブも視界に入り、邪魔になりました。一方、ポンプを体の側面と背面に装着した場合、いずれの形状においても、ポンプは作業の邪魔になりませんでした。このことから、この作業でのポンプは、形状に関わらず、体の側面または背面に装着するのが適切と考えられます(表4)。

表4 座位姿勢での座面研磨作業におけるポンプの推奨位置と形状


(5)しゃがんだ姿勢での正面研磨作業

 しゃがんだ姿勢(左片膝付き)での正面研磨作業(作業位置は肩より低い位置)では、ポンプを体の前面に装着した場合、縦長の①20cm×10cmおよび②15 cm×10cmのポンプが作業の邪魔になりました。一方、縦10cmの③〜⑤のポンプでは、ポンプを体の前面に装着しても、①のポンプほど作業の邪魔にはなりませんでした。ポンプを体の側面と背面に装着した場合は、いずれの形状においても、ポンプは作業の邪魔になりませんでした。このことから、この作業でのポンプは、形状に関わらず、体の側面または背面に装着するのが適切と考えられます(表5)。

表5 しゃがんだ姿勢での正面研磨作業におけるポンプの推奨位置と形状


(6)しゃがんだ姿勢での床面研磨作業

 しゃがんだ姿勢(左片膝付き)での床面研磨作業では、「(5)しゃがんだ姿勢での正面研磨作業」と同様の結果を示しました。このことから、この作業においても、ポンプは形状に関わらず、体の側面または背面に装着するのが適切と考えられます(表6)。

表6 しゃがんだ姿勢での床面研磨作業におけるポンプの推奨位置と形状


4.おわりに


 以上の結果より、縦10 cmを超える縦長のポンプは、体の前面に装着して座位やしゃがんだ姿勢で作業すると、作業の邪魔になることが分かりました。しかし、それ以外の位置に装着すれば、ポンプの形状は、作業のしやすさに影響しませんでした。これらのことから、縦長のポンプを体の前面に装着して座位やしゃがんだ姿勢で作業する場合を除き、作業のしやすさは、ポンプの形状よりも装着位置の及ぼす影響が大きいため、ポンプを使用する際は装着位置を適切に設定することが重要と考えられます。ただし、この結果は、極端に身長の低い作業者や腹囲の大きな作業者、さらにはポンプを肩から吊り下げるなど、本実験とは異なる方法でポンプを装着する場合には当てはまらない可能性があり、別途検討する必要があります。


参考文献

  1. 保科一. 作業環境測定士のための個人ばく露濃度の測定と評価①作業環境測定と個人ばく露濃度測定. 作業環境. 2013: 34(1): 85-89.
  2. 小西淑人. 個人ばく露測定の手法と活用. 働く人の安全と健康. 2001: 52(8): 743-746.
  3. 名古屋俊士. 作業環境における個人ばく露測定に関する実証的検証事業. 第53回日本労働衛生工学会・第34回作業環境測定研究発表会抄録集. 2013: 198-203.
  4. 田吹光司郎. 個人ばく露測定の実施状況及びばく露測定定着のための課題について. 労働衛生工学. 2015: 54: 77-83.
  5. 産業衛生学会産業衛生技術部会. 化学物質の個人ばく露測定のガイドライン. 産業衛生学雑誌. 2015: 57: A13-A60.
  6. 橋本晴男. 化学物質の個人ばく露測定ガイドラインについて. 労働衛生工学. 2016: 55: 43-48.
  7. 岩切一幸, 他5名. 個人ばく露測定用ポンプの装着位置および形状と作業のしやすさ. 作業環境. 2019: 40: 37-47.

(産業疫学研究グループ 部長 岩切 一幸)

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