労働安全衛生総合研究所

建築物の解体工事における死亡災害の調査

1.はじめに


 老朽化した建築物の解体工事は全国各地で行われており、建築物の解体工事における労働災害も少なからず発生していると考えられます。そこで、建築物の解体工事における労働災害の現状を把握するため、建築物の解体工事における死亡災害の調査を行いました。本報告では、その調査結果と災害事例の原因・対策の一例を示します。なお、調査は平成22–26年の5年間について行い、本報告で示している災害発生件数については、厚生労働省ホームページで公開している「職場のあんぜんサイト」1)を参考に作成しました。


2.災害の発生状況と特徴


2.1 事故の型別による分類

 建築物の解体工事における死亡災害の発生件数を事故の型別に分類すると、図1 のようになります。図1より、① 墜落・転落、② 崩壊・倒壊、③ 飛来・落下、④ 激突され、⑤ はさまれ・巻き込まれの順に災害が多く発生しています。特に墜落・転落による災害が多く、全体の約52%を占めました。一方で図1には示されていませんが、調査の結果より、災害の約半数は1–9名の小規模な事業所で発生していました。


図1 平成22–26年に発生した建築物の解体工事における死亡災害件数(事故の型別)

2.2 墜落・転落について

 事故の型別で災害件数が最も多かった墜落・転落による災害のうち、建築物の躯体からの墜落・転落の災害の特徴を建築物の構造別に検討すると、以下のようになると考えられます。
【スレート屋根】
 ① 踏み抜きによる墜落が多かった。
 ② 防網等の安全対策が講じられていないために災害が発生した事例が多かった。
【木造】
 ① 建築物の解体中に梁柱等の骨組みの上から墜落する事例が見受けられた。
 ② 瓦の撤去作業中に屋根端部から墜落する事例が見受けられた。
【鉄骨造】
 ① 建築物の解体中に梁柱等の骨組みの上から墜落する事例が見受けられた。
 ② エレベータの開口部から墜落等、建築物の一部を解体したことで生じた開口部から墜落する事例が見受けられた。
【鉄筋コンクリート造】
 ① コンクリートの破片を投下するために床に設けた開口部から墜落する事例が見受けられた。

2.3 倒壊・崩壊について

 事故の型別で災害件数が2番目に多かった倒壊・崩壊の災害の特徴を検討すると、以下のようになると考えられます。
 ① 鉄筋コンクリート造の壁等の鉄筋を切断中に壁が倒れて下敷きになる例が見受けられた。
 ② 天井を解体中に梁が崩壊して下敷きになる等、不安定になった上部構造物が崩壊して下敷きになる事例が見受けられた。

3.災害事例


 事故の型別で災害件数が多かった墜落・転落と倒壊・崩壊の災害事例を以下に示します。

3.1 解体材の投下用開口部から墜落(事例1)

【概要】
 作業員が重機から降りた時、コンクリート片等を投下するために床に設けた開口部から墜落した(図2)。


図2 床の開口部から墜落
【原因】
 ① 開口部の周囲に手すり等の墜落防止措置がされていなかった。
 ② 重機から降りる時、作業員が周囲の状況を確認していなかった。

【対策】
 ① 開口部があることを周囲に分かるように明示する。
 ② 重機に昇降する時は、周囲の状況を確認する。
 ③ 開口部の周囲に手すり等を設置する。一時的に手すりを取り除いた場合は、速やかに復旧する。
 ④ コンクリート片等を投下する場合は、安全帯を使用する。

3.2 重機で倒した壁の下敷きになる(事例2)

【概要】
 重機により鉄筋コンクリート造の1 スパンの外壁を倒そうとした際、梁の鉄筋が完全に切断されていなかったため、隣のスパンの壁も倒壊し、散水中の作業員が下敷きになった(図3)。


図3 外壁の倒壊
【原因】
 ① 外壁の倒壊範囲を立入り禁止にしていなかった。
 ② 梁の鉄筋が完全に切断されていなかった。
 ③ 作業員が不安定な外壁の倒壊範囲内に立ち入った。

【対策】
 ① 外壁の倒壊範囲は立入り禁止にする。
 ② 鉄筋の切断やコンクリートのはつりは適切に行う。

参考文献

  1. 厚生労働省労働基準局安全衛生部:職場のあんぜんサイト,厚生労働省ホームページ,( http://anzeninfo.mhlw.go.jp/index.html ) .

(建設安全研究グループ 上席研究員  高橋 弘樹)

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