労働安全衛生総合研究所

リスクアセスメント等の実施を支援するために
–異常反応を考慮した手法の開発–

1.異常反応が原因となった爆発・火災が発生しています


 平成23年以降、大手化学工場において、爆発・火災などが連続して発生しました。これらの事故に共通する背景要因として、注意を要する危険物などの危険源や取り扱う物質の化学反応に対する理解不足により、当該物質を取り扱う際のリスクアセスメントが不十分であったと指摘されています1)
一方、取り扱う物質の異常反応が原因と考えられる爆発・火災などは、化学工場に限らず、一般の事業場でも発生しています。中災防安全衛生情報センターでまとめられた労災関連ニュース2)から、平成23年から平成27年の異常反応が原因となった爆発・火災などの発生状況を表1に示します。災害は、化学工場だけではなく、様々な事業場で発生していることが分かります。また、爆発・火災だけではなく、異常反応によって有毒なガスが発生する災害も起こっており、多様な危険性・有害性があると分かります。このような災害を防止するには、取り扱う物質の化学反応に対して十分に理解した上でリスクアセスメントを実施し、的確なリスク低減措置を実施することが必要なのです。

表1 異常反応が起因となったと考えられる爆発・火災などの災害の発生状況
発生場所 概要 死者 負傷者
2017 7 化学工場 化学物質を保管する「過酸化物倉庫」で爆発火災が発生した 0 4
7 花火工場 花火店の工場で爆発があった 0 2
6 研究機関 研究棟で作業中に薬品が爆発した 0 1
1 石油精製工場 クリーニングのために開放された原油タンクの底板上に堆積していたスラッジに含まれる硫化水素が自然発火し、スラッジ中の軽油成分などに着火、火災に至った 0 0
2016 12 花火工場 試作花火を作るため火薬を成形していた際に爆発した 1 1
7 自動車部品工場 ニッケルめっき液が入ったタンクに誤って硝酸を混ぜたため、二酸化窒素が発生した 0 4
4 ガソリンスタンド 地下水の浄化装置に溶剤を補充していたところ、誤って別の溶剤を流し込んだため、塩素ガスが発生した 0 2
3 機械器具工場 廃液を貯蔵していた2本のドラム缶が爆発した 0 2
1 金属加工工場 タンクに付着した銀を硝酸で溶かし、洗浄する作業を行っていたところ、タンクのガラス窓が爆発音とともに破損した 0 0
2015 11 化学工場 過酸化水素水製造設備の化学薬品などが入っているタンクが爆発した 0 0
8 花火打ち上げ 打ち上げ作業中の花火が地上で爆発した 0 3
8 花火工場 花火の原料となるマグネシウムや炭酸ストロンチウムなどの薬品を保管していた倉庫から出火した 0 0
2 化学工場 シリコンを塩酸で溶かす設備から約30センチほどの炎と白煙が上がり、一部がこげた 0 0
2014 7 火薬庫 ダイナマイト用の雷管の廃棄処理中に爆発した 0 3
7 廃棄物処理場 廃油や汚泥が入ったドラム缶をフォークリフトでピットに移し替えていた際、有毒ガスが発生した 0 7
7 化学工場 調合作業中に誤った薬品を混合し、有毒ガスが発生した 0 2
1 化学工場 プラントから取り外した水素精製設備の熱交換器の洗浄作業を行うため、熱交換器の蓋(チャンネルカバー)を取り外したところ、爆発がおきた 5 12
2013 11 環境調査会社 分析機器室で爆発が起きた 同室では試薬の実験が行われていた可能性がある 0 2
10 機械器具工場 工場研究棟の研究室で硝酸液の廃液作業中に樹脂容器の爆発が起きた 0 1
8 化学工場 容器の弁を閉め忘れたためトリエチルアルミニウムが漏洩し、空気中の水分と反応して発火した 0 0
5 化学工場 硝酸槽に半導体製品を入れたステンレス製のかごを入れて洗浄する作業中に何らかの原因で爆発した 0 1
1 工事現場 残留した不発ダイナマイトが掘削作業中に爆発した 0 2
1 化学工場 アクリル酸エステル入りのドラム缶から白煙が発生した 0 0
1 化粧品製造研究所 ハンドクリーム、エタノール、発煙硝酸を混ぜて試験管で熱したところ爆発した 0 2

2.これまでの化学物質の危険性に着目したリスクアセスメント等実施手法


 化学プラントの安全性評価手法として、HAZOP,FTA等の種々の手法が開発されてきています。しかし、それらの手法は対象とするプラントや関連する作業・操作などに関する豊富な知識と経験が求められ、特に中小事業場にとっては活用することが難しいのが現状です。そのような課題を解決するために、化学物質の危険性に着目したリスクアセスメント等を実施するためのいくつかの手法が、厚生労働省などにより開発され、公開されています。その概要を表2に示します。
 初期的な評価を行う手法では、あらかじめ準備された質問に答えるなどすると、一定の結果が得られる一方、質問項目以外に潜在する危険性などは見逃される可能性があります。かたや、詳細なリスク評価手法では、論理的で効率的なリスク低減措置を検討することができますが、専門的な知識等や多くの労力が必要となります。また、いくつかの手法で異常反応の危険性を喚起しているものの、異常反応のどのようなポイントを理解すれば的確なリスクアセスメント等を実施できるか、というところまではフォローできていません。
異常反応を考慮した上で、的確なリスクアセスメント等を行うことができる状況にするには、上記の課題を解決するような支援策を考えていく必要があります。

表2 化学物質の危険性に着目したリスクアセスメント等を実施するための手法またはツール
詳細程度 概要
化学物質の危険性初期リスク評価ツール 初期評価 法規制項目(労働安全衛生法令、化学物質の取り扱い状況に応じて消防法、高圧ガス保安法、石油コンビナート等災害防止法)の確認による評価
爆発・火災等のリスクアセスメントのためのスクリーニング支援ツール 初期リスク評価 「化学物質の危険性」「プロセス・作業の危険性」「設備・機械の危険性」「リスク低減措置の導入状況」の4種類のチェックフローにより代表的な発火・爆発等の危険性などを評価
爆発・火災等のための化学物質リスクアセスメント手法(中災防方式) 主に化学物質の取り扱いに関するリスク評価 化学物質の危険性のランク、燃焼の3要素、異常の発生頻度、影響の重大性の4つの観点からリスクレベルを評価
プロセスプラントのプロセス災害防止のためのリスクアセスメント等の進め方 詳細なリスク評価 チェックリストで爆発・火災危険性の有無を把握するとともに、危険な状態を顕在化させる事象(引き金事象)として作業・操作の不具合、設備・装置の不具合、外部要因などを想定し、網羅的にシナリオを同定
化学プラントにかかるセーフティ・アセスメント(労働省方式) 詳細なリスク評価 5段階の情報整理、相対的危険評価、プロセス安全性評価(HAZOP、FMEA、FTA、What-if等)などにより、プラントの安全対策を総合的に評価
危険性評価方式(チェックリスト方式) 火災・爆発等の潜在的危険要因の分析 業種共通としてソフト面(経営トップの取り組み等)についての項目、9業種に関して業種固有のソフト・ハード面(事故頻度・規模の高い工程における設備安全対策等)についての項目をチェックリストにより評価
リスクアセスメント・ガイドライン(Ver.2) 詳細なリスク評価 設備のシャットダウン、スタートアップ、保全作業中などの非定常時に固有の危険源を洗い出すために非定常HAZOP等により評価

3.異常反応に着目したリスクアセスメント等実施支援手法・ツールの調査


 理解が不足しがちな異常反応による危険性を踏まえた上で、的確なリスクアセスメント等を行う際のポイントなどを抽出することを目的として、米国や欧州で提案されたリスクアセスメント手法などを調査し、それらの評価手法の内容を比較検討しています。調査結果を基にして、異常反応を考慮したリスクアセスメント等の実施を支援する際に必要な事項として、以下の検討が必要とわかってきました。

  1. 取り扱う反応の危険性を把握するための必要なデータを明確にし、危険性を的確に把握することを促すようなチェックリスト等の開発
  2. 潜在する危険性や災害に至るシナリオを、上級者でなくても検討できるようなチェックリスト等の開発
  3. 検討した災害に至るシナリオを踏まえて、的確なリスク低減措置を検討するための手引きの作成

4.利用しやすい実施手法を目指して


 労働安全衛生総合研究所では、化学物質による火災・爆発事故を防止するためのリスクアセスメント等の進め方を技術資料(JNIOSH-TD-No.5)3)としてまとめ、普及活動を行ってきています。今後、上記の検討事項を具体化し、リスクアセスメント等の進め方に組み込んでいくことで、より利用しやすいリスクアセスメント等の実施手法を構築していきたいと思います。


(研究推進・国際センター (併)化学安全研究グループ  主任研究員   佐藤 嘉彦)

参考文献

  1. 内閣官房,総務省消防庁,厚生労働省,経済産業省,石油コンビナート等における災害止対策検討関係省庁連絡会議報告書,平成26年5月.
  2. 中央労働災害防止協会安全衛生情報センター,労災関係ニュース,http://www.jaish.gr.jp/syasin/ansy00.htm#rou
  3. 労働安全衛生総合研究所技術資料、プロセスプラントのプロセス災害防止のためのリスクアセスメント等の進め方,JNIOSH-TD-No.5 (2016).

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