労働安全衛生総合研究所

第11回労働衛生に関するWHO協力センターのグローバルネットワーク会議(11th Meeting of the Global Network of WHO Collaborating Centres for Occupational Health)に参加して

1. 会議の概要


 2018年4月27、28日に行われた第11回労働衛生に関するWHO協力センターのグローバルネットワーク会議(11th Meeting of the Global Network of WHO Collaborating Centres for Occupational Health)に、過労死等防止調査研究センターの吉川徹と人間工学研究グループの時澤健が参加しました。労働安全衛生総合研究所(以下、安衛研)は世界保健機構の協力センター(WHO Collaborating Centre)に指定されています。毎回、グローバルネットワーク会議は国際産業保健会議(International Congress on Occupational Health, ICOH)の直前に行われています。今回のICOHはアイルランド・ダブリン市で開催されましたので、それに合わせた形です。世界各国の労働衛生に関するWHO協力センターが集まり、活動の現状と今後について議論します。会場はアイルランド王立医師会(Royal College of Physicians of Ireland、RCPI)でした(写真1)。RCPIは1654年に設立された歴史のある医学会です。


会場の外観

写真1 会場(アイルランド王立医師会、Royal College of Physicians of Ireland、ダブリン市)の外観

2. 会議の内容


 今回の会議では、2012年から2017年までの七つの優先課題からなる労働衛生に関するGMP(Global Master Plan)の総括や、2019年から2023年にわたる13th Global Programme of Work of WHOの草案に関わる議論が主な議題となりました。
 初日にはWHOの本部長(写真2、ビデオレター)および今回のホストであるアイルランド王立医師会のブランエイド・ヘイズ産業医学部長からの挨拶があり、その後、各国からの参加者の自己紹介が行われました。日本からは、産業医科大学と安衛研が参加しました。
WHOの本部長によるビデオレター

写真2 WHOの本部長によるビデオレター


 初日には、以下の報告と討議が行われました。
  • 2015年に行われた前回の会議からの進捗と協力センターの「労働者の健康に関する世界活動計画(Global Plan of Action on Workers’ Health; GPA)」の現状
  • 各地域(アフリカ、北米南米、地中海東岸、ヨーロッパ、東南アジア、西太平洋地域)からの進捗報告および各協力センターへのサポートの呼びかけ
  • GPAに基づいた活動の報告
    • 職業疾病リストの更新(米国、イリノイ大学)
    • 基本産業保健サービス(BOHS)(タイ、保健省職業環境疾患部門)
    • 医療従事者の産業保健(Health/WISEプログラム)(南アフリカ、WHO)

 二日目も引き続き下記のテーマで各分野からの報告と議論が行われました。
  • 勤労者の健康マトリックスの開発:非感染性疾患に対するICOHからの提言に関連して(イタリア、イタリア労働者補償協会)
  • 発展途上国における脆弱な職場環境における対策(カナダ、ローベル・ソウベ研究所)
  • 大気汚染など環境因子によるリスク低減に関する協力センターの貢献状況(WHO欧州事務局)
  • 気候変動による様々な労働衛生への影響とその対策(WHO西太平洋事務局)

3. GMPの総括


 2012年から2017年までのGMPは下記の七つの優先課題からなっていました。

  1. がん、けい肺、アスベスト関連疾患など、非伝染性疾患(NCDs)に対する地域・国家プログラム
  2. 医療従事者の労働安全衛生に関する国家プログラムと好事例
  3. 健康職場のためのツール、標準規格、人材
  4. 勤労者の健康のための保健システム、ガバナンス、能力、サービス提供の強化
  5. 新技術に対する職業保健
  6. 職業病の分類、診断、ばく露基準
  7. ハイリスク業種と弱い立場の労働者集団のための労働安全衛生情報ネットワーク

 このうち3番と6番の進捗状況が思わしくないことが今回の報告を通して認識されました。何れも規格や基準に関わるため、ISO等との調整に時間がかかることや、各国独自の基準を世界的な基準に当てはめることの困難さが原因であると考えられます。2019年からの13th Global Programme of Work of WHOの草案に生かされることが提案されていました。


4. まとめ


 今回の会議は総括がメインであったため、グループに分かれての議論ではなく、全体での議事進行のみとなりました。しかし、各国および各分野からの意見は活発で、協力センターのWHOへの献身的な姿勢が垣間見られました。協力センターがいくら良い研究成果や研究事例を持っていても、それが活かされないことには意味がないことを多くの参加者が感じており、WHO主導に限界がある場合には、協力センター同士のネットワークをこれまで以上に有効活用することが期待されます。安衛研は現在、WHO協力センターとして、「疲労を簡便に測定するための評価ツールの開発」と、「職場での暑熱リスクに対する予防戦略とツール開発」の2テーマで研究を進めています。しかし刻々と変わる世界情勢の中で、労働衛生のどの分野が国際的に求められるかは予測が困難です。したがって安衛研が協力センターに名を連ね、各国と情報の共有や発信ができる環境にあることは労働衛生に関わる国際貢献のために重要であると感じました。 安衛研でのWHO協力センターとして、私(時澤)は職場での暑熱リスクに対する予防戦略とツール開発の担当ですが、国際的な観点から見ると「気候変動」に関連するテーマです。気候変動というと温暖化が真っ先に思い浮かび、暑熱リスクの問題が最優先と考えていました。しかし今回の会議で気候変動に関して報告された事例は、雨量増加による感染症のリスク、風や湿気によるインフラへの影響、地表オゾン増加による呼吸器系への影響、海上労働者の健康被害などで、何れも暑熱リスクと同等の問題として取り上げられました。気候変動自体が複雑な因子の絡み合いから生じることもあり、その影響も多岐にわたることを改めて知りました。シンプルな対策はメリットが多いこともありますが、様々な影響が及んでいる状況を見極めつつ対策を講じる必要があると感じました。
 次回の第12回は、第33回産業保健国際学会に先立つ2021年3月に、オーストラリア・メルボルン市で開催される予定です。


日本が所属する西太平洋地域(Western Pacific Region,WPRO)Rok Ho Kim代表(左から2番目)と日本のメンバー

写真3 日本が所属する西太平洋地域(Western Pacific Region, WPRO)の労働環境保健担当専門官のRok Ho Kim代表(左から2番目)と日本のメンバー(時澤、Rok Ho Kim、吉川、森本)

(人間工学研究グループ 主任研究員   時澤 健)
(過労死等防止調査研究センター 統括研究員   吉川 徹)

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