労働安全衛生総合研究所

着火火災の原因となる液体の静電気帯電現象

1.はじめに


 近年でも、可燃性有機溶剤を取り扱う施設において、液体の静電気帯電が原因とみられる火災・爆発事故が後を絶ちません。液体が帯電することで様々なかたちの静電気放電が発生し、周囲に存在する可燃性混合気を着火させ、火災・爆発を引き起こす可能性があります。ここでは、液体を輸送、充填する際にどのような静電気帯電現象が起こるのか解説します。


2.静電気帯電について


 静電気は様々なメカニズムで発生しますが、ここでは接触・分離による帯電現象について説明します(図1)。ある物体が他の物体と接触すると、その接触界面で何らかの作用(未だ十分に解明されていません。)が生じて電荷(電子やイオン)の移動が起こります。その結果、それぞれの物体表面において、正負電荷のどちらかが多い状態となります。ここで、両者が接している場合は外部に電界が漏れないため帯電した状態にはなりませんが、両者を引き離すと、電界が外部に漏れるため帯電した状態になります。つまり、「接触して離れる」ことで物体(固体、液体)は帯電します。なお、接触した物体同士を引き離す際、電界の作用によって一部(または殆ど全て)の電荷がもとの物体に引き戻され中和が起こります。以下に、液体の輸送、充填時に発生する代表的な静電気帯電メカニズムを説明します。



図1 接触・分離による帯電

・流動帯電

 液体が配管内を流動する際に、液体-管壁の接触界面において、正負どちらかの電荷(イオン)が壁面に吸着されて、液体には逆極性の電荷が残ります。流動により両者が引き離されるために液体、管壁の双方が帯電します(図2)。帯電量は、管内流速、配管の材質、液体の導電率に大きく依存するといわれています。なお、配管の途中にフィルタが存在すると、接触面積が増加するため、より大きく帯電します。
 流動帯電は、導電率10-8 S/m以下の導電性の低い液体において起こり、10-11 S/m前後で帯電量がピークを示します。これは、導電率が高いほど中和が起こりやすく、導電率が低いほど液体内の電荷が少なくなり帯電が起こりにくくなることが原因と考えられます。



図2 流動帯電

・噴出帯電

 液体はノズル等から噴出する際に帯電液滴を作ります(図3)。導電性が比較的高く(中和しやすく)、流動帯電では帯電しにくい液体でも帯電します。ノズル管壁との接触により電荷を持った液体は、ノズル吐出口において高い圧力を受け、極めて短時間のうちに引き離されて(ちぎれて)絶縁性の高い空気に囲まれる(液滴となる)ため、中和されずに電荷を保つと考えられます。
 噴出帯電においても、液体の導電率が帯電量に大きく影響するものと考えられます。我々の実験では、導電率10-8 S/m前後において帯電量がピークを示すことが確認されました1)(図4)。



図3 噴出帯電



図4:液体の噴出帯電量と導電率の関係(比電荷:液体の単位質量あたりの電荷量)

 導電率の低い液体については、ここで説明した流動帯電を含む様々なメカニズムで帯電します(例:撹拌時の粉体等分散層の沈降または浮上による帯電など)。一方で、導電性の高い液体についても、噴出帯電など、液滴が形成されるような状況であれば帯電します(他の物体との接触は必ずしも必要ありません)。また、導電性の高い液体については、金属のように静電誘導による帯電も起こります。


3.おわりに


 取り扱う液体の導電率を参考に、どのような帯電が起こる可能性があるか検討したうえで、流速制限、帯電防止剤の添加など、帯電量を低減する適切な対策を取りましょう。なお、ほとんどの静電気災害(火花放電による災害)は、導体の接地・ボンディングで防止できますので、まずはこれを徹底することが重要です。静電気災害の防止対策について詳しく知りたい方は、当研究所が発行する静電気安全指針2)をご覧ください。


参考文献


  1. 遠藤雄大, 山隈瑞樹:有機溶剤の取扱いにおける静電気危険性に関する研究–ボールバルブからの液体小分け時の電荷量測定および電荷軽減策の検討–, 安全工学, Vol. 56, No. 5, pp.362-373, 2017
  2. 労働安全衛生総合研究所技術指針:静電気安全指針2007, JNIOSH-TR-No.42, 2007

(電気安全研究グループ 任期付き研究員 遠藤雄大)

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