労働安全衛生総合研究所

過労死等調査研究センターにおける調査・研究、最近の情報
–脳心臓疾患・精神障害の労災認定事案のデータベースを構築中–

1.過労死等調査研究センターとは


 過労死等調査研究センターは、平成26年6月に成立した「過労死等防止対策推進法」を受けて研究所内に新たに設置されたセンターです。過労死等の過重な業務負担による健康障害の防止対策に貢献できるよう、調査研究を行っています。具体的には(1)過労死等事案の分析、(2)疫学研究、(3)実験研究の3本柱の研究で進めており、過労死等の調査研究を行っている研究機関と連携して、調査研究成果や情報を共有、収集、整理、分析することで、過労死等の防止対策の推進に資することもできる医学面、保健面での調査研究を継続しています。詳しくは過労死等調査研究センターのホームページに紹介していますのでご参照下さい。

過労死等調査研究センター
https://www.jniosh.johas.go.jp/groups/overwork.html

2.過労死等事案の分析の状況


 過労死等の実態を多角的に把握するため、平成27年度の調査研究では全国の都道府県労働局・労働基準監督署より、平成22年から26年の過去5年間(平成22年1月?平成27年3月、約3,500件)の脳・心臓疾患と精神疾患の労災認定事案の調査復命書を収集しました(図1)。これらの調査復命書を統計的に分析するため、その記載内容の電子化を行い、過労死等事案データベース(以下データベース)を作成しました。これまで入力データの検証・修正等の処理を行い、統計処理が可能なデータベースを構築しています。平成27年度の調査研究報告書は平成28年5月に取りまとめられ、厚生労働省に提出し、現在公開に向けての確認作業が行われているところです。
 平成28年度からは、データベースを用いて「過労死等の防止のための対策に関する大綱」(平成27年7月24日閣議決定)に定められた具体的な解析が行われる予定です。例えば、労災認定等の事案の多い職種・業種等の特性をはじめ、時間外・休日労働協定の締結及び運用状況、裁量労働制等労働時間制度の状況、労働時間の把握及び健康確保措置の状況などです。また、休暇・休息(睡眠)の取得の状況、出張(海外出張を含む。)の頻度等労働時間以外の業務の過重性、また、疾患等の発症後における各職場における事後対応等の状況についても、過労死等事案の調査復命書より得られるものに留意しながら、その解析作業を行っていきます。さらに、平成28年度においては、平成22年から26年の過去5年間に労災申請され、業務外として不支給決定された脳・心臓疾患と精神疾患の事案等に係る労災調査復命書等を収集し、データベース化する予定です。


図1 過労死等の実態解明に関する調査研究の概要(事案分析)


3.疫学研究


 過労死等のリスク要因とそれぞれの疾患、健康影響との関連性や職場環境改善対策について、過労死等の防止の効果を把握するため、過労死等調査研究センターにおいて(1)職域コホート研究、(2)職場環境改善対策、の2つのアプローチによる疫学調査等の研究を実施しています。
(1)職域コホート研究
 過労死等の発生の実態解明を進めるため、労働時間や労働負荷などの労働要因と、睡眠時間、運動習慣やオフの過ごし方、肥満などの個人要因を広く長期間かけて調べ、どのような要因が過労死等のリスク要因として影響が強いのかを調査します。また、過労死等のリスク要因とさまざまな疾患、健康影響の関連性、過労死等の予防に有効な労働環境、生活環境などについて、長期的な観点から検討していきます。
(2)職場環境改善対策
 上記(1)の調査と平行して、過労死等の発生を防ぐための有効な対策を図るために、職場の環境を改善するための取り組みを、調査協力の得られた職場において実施し、その効果を検証します。本テーマでは、科学的な根拠として信頼性の高い成果の提供を目指して、職場において、毎日の労働時間や余暇時間、客観的な疲労度やストレス度、睡眠などを連続的に測定し、職場環境改善対策の効果を検証します。最近、終業時刻から翌日の始業時刻までの時間間隔を適切に空けるための「勤務間インターバル制度」などが社会の関心となっていますが、それらを含めて検討予定です。

4.実験研究


 過労死等防止のためのより有効な健康管理の在り方の検討に資するため、2つのテーマを掲げて実験研究に取り組んでいます。1つは長時間労働と循環器負担のメカニズムの解明、もう1つは労働者の体力を簡便に測定するための指標開発です。平成27年度は予備実験が進み、平成28年度から本格的な実験研究がスタートします。
 図2は心肺持久力測定の実験風景です。図3には心肺持久力測定に用いる各種機器を紹介しています。労働者の体力を評価するための指標、検査方法の開発を行い、過労死等の防止につながる労働者の健康管理に生かすことを目指しています。


図2 心肺持久力測定の実験風景(左からランニングマシン、自転車、ステップ台)

ランニングマシンによる測定中の画面 心肺持久力の測定評価システム 日常の心拍数や活動量を計測する機器

図3 心肺持久力測定に用いる各種機器

5.センター体制の強化と研究成果や情報の発信


 過労死等調査研究センターでは継続的に研究体制の強化を図っています。平成27年6月から新たな研究員として、池田大樹研究員(疫学研究)、蘇リナ研究員(実験研究)が加わりました。さらに、平成28年6月から過労死等の事案解析に関連して、山内貴史研究員(精神障害事案担当)、松元俊研究員(過労死等事案担当)が研究チームに加わり、本分野の新進気鋭の研究者が集まっています。研究所のなかでも過労死等調査研究センターは大所帯となりました。また、昨年度から、過労死等の調査研究を行っている研究機関と連携して、過労死等の防止対策の推進に資することもできる医学面、保健面での調査研究を継続しています。脳・心臓疾患の労災認定事案が最も多い運輸業においては、公益財団法人大原記念労働科学研究所との連携により、また疫学研究は国立国際医療研究センターとの連携により研究を進めています。なお、過労死等調査研究センターでは過労死等に関わる論文等国内外の最新情報を労働安全衛生総合研究所のホームページで紹介するなどしています。
 今後とも過労死等調査研究センターをよろしくお願いいたします。

(過労死等調査研究センター センター長代理 吉川 徹 )

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