化学物質の毒性作用メカニズムの解明
-肝障害早期発見のためのバイオマーカーを中心に-
最近では、事故等の場合を除いて、作業環境で明らかな健康障害が出るような高濃度の化学物質にばく露されることは大変少なくなっています。それにもかかわらず化学物質のばく露による新たな中毒例が少数ながら報告されています。例えば、樹脂の溶媒等に使用されているN, N-ジメチルアセトアミドは、許容濃度以下の作業環境でのばく露により肝障害が発生したとの事例が数例報告されています。
現在、私はこのN, N-ジメチルアセトアミドのばく露による肝毒性発現メカニズムについて研究を行っています。今回のコラムでは、この物質の毒性ではなく、私が行っている肝臓での毒性影響に関する研究が、労働者の健康障害の予防にどのように貢献できるかを述べたいと思います。そして、肝臓における有害物の代謝や炎症反応に関わる生体反応の研究が労働衛上なぜ重要なのかを理解していただくとともに、肝臓での炎症反応にはNF-ΚBというタンパク質が重要なのだということを記憶にとどめていただければ幸いです。
労災補償の対象となる業務上の疾病については、労働基準法施行規則別表第1の2に規定されています。その中の第4号の1には「厚生労働大臣の指定する単体たる化学物質及び化合物(合金を含む。)にさらされる業務による疾病であって、厚生労働大臣が定めるもの」が定められ、具体的には、それを受けた告示において、様々な化学物質に起因する疾病が一覧表として列挙されています。この表には、脂肪族炭化水素類、アルコールやエーテル類、芳香族化合物類に分類される各種の化学物質が含まれていますが、例えば四塩化炭素のように、「起因する症状又は障害」として「中枢神経系抑制」と「肝障害」が記載されているものが多数存在します。
高濃度のばく露による「中枢神経系抑制」は重大な労災事故につながる可能性がある一方で、低濃度でも反復したばく露により「肝障害」が生じる可能性があるため、有機化合物の肝毒性は労働衛生上重要な研究対象と考えられます。
お酒を例として考えてみます。アルコール飲料は嗜む程度なら問題はありませんが、一度に大量に飲むと急性アルコール中毒になり、運動失調や意識障害、さらには昏睡、呼吸抑制、血圧低下といった状態が生じ、重症の場合には死亡することもあります。また、大量ではなくても長期にわたる習慣的な飲酒は、依存症につながり、アルコール性肝炎、肝硬変などの肝障害の発症リスクが高まることも知られています。
肝臓が、アルコールをはじめとする各種の有機化合物を分解・解毒する働きを持つ器官であることは御存知と思いますが、体内に取り込まれた化学物質は肝臓に運ばれ、様々な酵素の働きにより無害で排出されやすい形へと変換(いわゆる代謝)され、体外へと排泄されていきます。しかし、この代謝の過程で肝臓に過剰な負荷がかかれば肝障害につながりますし、代謝の過程で元の物質よりも毒性の高い代謝物が生じることもあります。
このような化学物質による肝障害を防止するためには、各化学物質の代謝経路を明らかにするとともに、肝障害の発症につながる生体の一連の反応を捕らえることにより、毒性発現のメカニズムを把握し、各物質の有害性を評価することが重要です。また、このような研究によって、肝障害に共通し、早期に発現するバイオマーカー(生物学的変化を定量的に把握するための指標)が見つかる可能性もあります。私の研究も、代謝を含めて化学物質による肝障害発生に共通するメカニズム(特に炎症反応)に注目することが重要と考えています。
肝臓は生体にとって不可欠ないくつかの機能をもっています。その一つは、「生体内の化学工場」として、摂取した栄養素を代謝や合成により、生体維持に必要な形に変換する機能です。もう一つは、アルコールなどの有害物質を解毒し体外に排出しやすくする機能です。アルコールの大部分は、肝臓でアルコール脱水酵素(ADH)の働きによりアセトアルデヒドに分解されます。このアセトアルデヒドが悪酔いや二日酔いの原因となります。そして、アセトアルデヒドは、アルデヒド脱水素酵素(ALDH)の働きにより分解され酢酸となり、最終的には二酸化炭素と水となり体外へ排泄されます。
経口摂取や吸入により体内に摂取・吸収された化学物質はいくつかの経路で体外に排出されますが、その一部は、肝臓の代謝酵素の働きにより代謝されて尿中へ排泄されやすい形に変換されます。この代謝は化学物質の毒性発現に関して次の2点から重要な意味を持っています。
みなさんも健康診断を受けた時に肝機能を示す項目を目にしたことがあると思います。法令により、事業者は労働者に対し、医師による健康診断(一般健康診断)を実施すること、そして、労働者は健康診断を受診することが義務づけられています。また、一定の化学物質を取り扱う場合には、特殊健康診断を行う義務も定められています。法定の健康診断では、肝機能の評価項目としてGOT、GPT、γ-GTPの3項目が実施されており、これらの項目は一般的な健康診断でも肝機能評価値として使用されているためよく知られていると思います(下表参照)。
近年、細胞内で行われている化学反応をより正しく表現するため、GOTはAST、GPTはALTと名称が変更されつつありますが、それは単に名称が変更されただけで、それぞれ同一の酵素を示すものです。通常、ASTとALTは肝細胞の中のエネルギーを作る化学反応に関与しています。ASTはほとんどの組織に存在していますが、特に肝臓、心筋、骨格筋などに高濃度に存在しています。ALTは多くの組織に存在しますが、肝細胞に高濃度で存在しています。しかし、肝細胞が何らかの原因で炎症を起こし破壊されると、肝細胞の中に存在していた酵素が血液中に流出(逸脱)します。そのため、壊れた肝細胞の数に比例してAST、ALTの量が増えることから、肝機能検査の項目として広く測定されています。また、γ-GTPは、肝臓の解毒作用に関わる酵素で、アルコールの多量摂取によって増加することは御存知と思いますが、胆汁の流れに障害を生じたときにも増加するため、γ-GTPの上昇は、肝障害だけでなく、胆汁(肝臓で作られる消化酵素)成分の停滞や胆石により胆道がふさがっている可能性が疑われます。
以上述べたように、現在の健康診断では、これら3種の指標が肝機能の評価項目として利用されています。しかし、疾病の早期発見、早期予防の観点から、現在の3指標より早期に影響を捕らえることが可能な鋭敏なバイオマーカーが期待されています。化学物質による肝障害に関しては、肝毒性発現のメカニズムを詳細に解明することが、新しいバイオマーカーの開発につながる可能性があると考えています。
肝障害としては、肝細胞の変性、脂肪肝、黄色肝委縮、肝臓壊死などがみられます。しかし、このような状態になる前には生体防御反応として炎症・免疫反応が惹起されています。炎症反応は、細胞の変性などの病理学的変化よりも先行して生じるものですから、この炎症を制御する因子に着目することにより、肝臓における早期の変化をとらえることが可能になるかも知れません。そこで、炎症を制御する因子としてNuclear Factor-kappaB (NF-ΚB)について御紹介します。
NF-ΚBは、遺伝子の発現を制御するタンパク質の一つで、サイトカインなど、炎症・免疫反応・細胞死に関わるシグナル伝達物質の遺伝子発現を調節しています(下図参照)。そのため、炎症の進展において重要な役割を持っています。労働衛生分野においても、プラスチック可塑剤(フタル酸ビス2-エチルヘキシル)の長期ばく露によりNF-ΚBの活性化がみられ、腫瘍の形成へと進展するという報告や、金属の脱脂洗浄に使用されるトリクロロエチレンでは、代謝過程で生成される活性酸素種がNF-ΚBを活性化し、肝障害を誘発することが報告されています。
私の行っているN, N-ジメチルアセトアミドの吸入ばく露実験により、肝機能指標値(AST、ALT)の上昇、肝細胞の変性、NF-ΚBの活性化を観察しました。また、NF-ΚBの活性化には、代謝過程で生成された活性酸素種が作用している可能性を示す結果も得ています。将来的には、炎症を制御するNF-ΚBの活性化、または、NF-ΚBの活性化に伴い調節されるタンパク質を観察することによって、労働者の健康影響(特に肝障害)の早期発見の可能性があると考えています。当面は、肝細胞の変性といった病理学的な変化やAST、ALTといった従来の肝機能指標よりも、これらの変化に先行して生じていると考えられるNF-ΚBの活性化に注目し、これが従来の指標よりも低いばく露レベルで生じるか、早い段階で生じるかといったことを動物実験で綿密に解析することが重要です。実験結果が、より低いばく露レベルでの健康影響を示唆するものとなれば、リスク評価で利用可能な有害性情報としても利用できると考えています。
化学物質のリスク評価では、ヒト又は動物実験から得られた情報を基に毒性影響の無い濃度(最大無毒性量)や毒性影響の出る最小の濃度(最少毒性量)を求め、種差、ばく露期間などの不確実係数を考慮してリスク評価値(労働者の健康障害発生を適切に抑えられると考えられる作業環境濃度でばく露状況を評価するための基準値)を算出することが一般的です。このときに必要な情報の多くは動物実験により導かれます。
毒性作用のメカニズムの解明という基礎研究が、実際の労働者の健康管理にどのように貢献しているのか、なかなか想像がつきにくいものかも知れません。しかし、私たちの行う研究のゴールは各化学物質の許容濃度の策定やリスク評価のための適切な評価の指標を提示するものであり、このリスク評価が基となり、適切な労働衛生管理につながっていくものと考えています。引き続き、化学物質の毒性発現のメカニズムについて詳細な調査研究を行い、未知の化学物質、化学物質の混合使用、作業過程で発生する副産物など多くの化学物質の中で作業する労働者の健康管理に有用な知見を収集していくことが必要不可欠です。
以上でご紹介させていただいたことを通じ、引き続き労働者の健康障害予防のための毒性研究に邁進していく所存です。これらの研究成果がわが国の労働衛生管理の向上につながるよう努めていきたいと思います。
現在、私はこのN, N-ジメチルアセトアミドのばく露による肝毒性発現メカニズムについて研究を行っています。今回のコラムでは、この物質の毒性ではなく、私が行っている肝臓での毒性影響に関する研究が、労働者の健康障害の予防にどのように貢献できるかを述べたいと思います。そして、肝臓における有害物の代謝や炎症反応に関わる生体反応の研究が労働衛上なぜ重要なのかを理解していただくとともに、肝臓での炎症反応にはNF-ΚBというタンパク質が重要なのだということを記憶にとどめていただければ幸いです。
1 肝毒性と肝障害発生のメカニズム
労災補償の対象となる業務上の疾病については、労働基準法施行規則別表第1の2に規定されています。その中の第4号の1には「厚生労働大臣の指定する単体たる化学物質及び化合物(合金を含む。)にさらされる業務による疾病であって、厚生労働大臣が定めるもの」が定められ、具体的には、それを受けた告示において、様々な化学物質に起因する疾病が一覧表として列挙されています。この表には、脂肪族炭化水素類、アルコールやエーテル類、芳香族化合物類に分類される各種の化学物質が含まれていますが、例えば四塩化炭素のように、「起因する症状又は障害」として「中枢神経系抑制」と「肝障害」が記載されているものが多数存在します。
高濃度のばく露による「中枢神経系抑制」は重大な労災事故につながる可能性がある一方で、低濃度でも反復したばく露により「肝障害」が生じる可能性があるため、有機化合物の肝毒性は労働衛生上重要な研究対象と考えられます。
お酒を例として考えてみます。アルコール飲料は嗜む程度なら問題はありませんが、一度に大量に飲むと急性アルコール中毒になり、運動失調や意識障害、さらには昏睡、呼吸抑制、血圧低下といった状態が生じ、重症の場合には死亡することもあります。また、大量ではなくても長期にわたる習慣的な飲酒は、依存症につながり、アルコール性肝炎、肝硬変などの肝障害の発症リスクが高まることも知られています。
肝臓が、アルコールをはじめとする各種の有機化合物を分解・解毒する働きを持つ器官であることは御存知と思いますが、体内に取り込まれた化学物質は肝臓に運ばれ、様々な酵素の働きにより無害で排出されやすい形へと変換(いわゆる代謝)され、体外へと排泄されていきます。しかし、この代謝の過程で肝臓に過剰な負荷がかかれば肝障害につながりますし、代謝の過程で元の物質よりも毒性の高い代謝物が生じることもあります。
このような化学物質による肝障害を防止するためには、各化学物質の代謝経路を明らかにするとともに、肝障害の発症につながる生体の一連の反応を捕らえることにより、毒性発現のメカニズムを把握し、各物質の有害性を評価することが重要です。また、このような研究によって、肝障害に共通し、早期に発現するバイオマーカー(生物学的変化を定量的に把握するための指標)が見つかる可能性もあります。私の研究も、代謝を含めて化学物質による肝障害発生に共通するメカニズム(特に炎症反応)に注目することが重要と考えています。
2 肝臓の機能と化学物質の毒性
肝臓は生体にとって不可欠ないくつかの機能をもっています。その一つは、「生体内の化学工場」として、摂取した栄養素を代謝や合成により、生体維持に必要な形に変換する機能です。もう一つは、アルコールなどの有害物質を解毒し体外に排出しやすくする機能です。アルコールの大部分は、肝臓でアルコール脱水酵素(ADH)の働きによりアセトアルデヒドに分解されます。このアセトアルデヒドが悪酔いや二日酔いの原因となります。そして、アセトアルデヒドは、アルデヒド脱水素酵素(ALDH)の働きにより分解され酢酸となり、最終的には二酸化炭素と水となり体外へ排泄されます。
経口摂取や吸入により体内に摂取・吸収された化学物質はいくつかの経路で体外に排出されますが、その一部は、肝臓の代謝酵素の働きにより代謝されて尿中へ排泄されやすい形に変換されます。この代謝は化学物質の毒性発現に関して次の2点から重要な意味を持っています。
- 摂取された化学物質が、代謝の過程で活性代謝物や活性酸素種を生成することにより、毒性が発現するかどうか。
- 摂取された化学物質の体内からの排泄に要する時間が長いか短いか。
3 健康診断で指標とされている肝機能の評価項目と新たなバイオマーカー
みなさんも健康診断を受けた時に肝機能を示す項目を目にしたことがあると思います。法令により、事業者は労働者に対し、医師による健康診断(一般健康診断)を実施すること、そして、労働者は健康診断を受診することが義務づけられています。また、一定の化学物質を取り扱う場合には、特殊健康診断を行う義務も定められています。法定の健康診断では、肝機能の評価項目としてGOT、GPT、γ-GTPの3項目が実施されており、これらの項目は一般的な健康診断でも肝機能評価値として使用されているためよく知られていると思います(下表参照)。
近年、細胞内で行われている化学反応をより正しく表現するため、GOTはAST、GPTはALTと名称が変更されつつありますが、それは単に名称が変更されただけで、それぞれ同一の酵素を示すものです。通常、ASTとALTは肝細胞の中のエネルギーを作る化学反応に関与しています。ASTはほとんどの組織に存在していますが、特に肝臓、心筋、骨格筋などに高濃度に存在しています。ALTは多くの組織に存在しますが、肝細胞に高濃度で存在しています。しかし、肝細胞が何らかの原因で炎症を起こし破壊されると、肝細胞の中に存在していた酵素が血液中に流出(逸脱)します。そのため、壊れた肝細胞の数に比例してAST、ALTの量が増えることから、肝機能検査の項目として広く測定されています。また、γ-GTPは、肝臓の解毒作用に関わる酵素で、アルコールの多量摂取によって増加することは御存知と思いますが、胆汁の流れに障害を生じたときにも増加するため、γ-GTPの上昇は、肝障害だけでなく、胆汁(肝臓で作られる消化酵素)成分の停滞や胆石により胆道がふさがっている可能性が疑われます。
以上述べたように、現在の健康診断では、これら3種の指標が肝機能の評価項目として利用されています。しかし、疾病の早期発見、早期予防の観点から、現在の3指標より早期に影響を捕らえることが可能な鋭敏なバイオマーカーが期待されています。化学物質による肝障害に関しては、肝毒性発現のメカニズムを詳細に解明することが、新しいバイオマーカーの開発につながる可能性があると考えています。
4 肝臓での毒性発現に関わるNuclear Factor-kappaB (NF-ΚB)
肝障害としては、肝細胞の変性、脂肪肝、黄色肝委縮、肝臓壊死などがみられます。しかし、このような状態になる前には生体防御反応として炎症・免疫反応が惹起されています。炎症反応は、細胞の変性などの病理学的変化よりも先行して生じるものですから、この炎症を制御する因子に着目することにより、肝臓における早期の変化をとらえることが可能になるかも知れません。そこで、炎症を制御する因子としてNuclear Factor-kappaB (NF-ΚB)について御紹介します。
NF-ΚBは、遺伝子の発現を制御するタンパク質の一つで、サイトカインなど、炎症・免疫反応・細胞死に関わるシグナル伝達物質の遺伝子発現を調節しています(下図参照)。そのため、炎症の進展において重要な役割を持っています。労働衛生分野においても、プラスチック可塑剤(フタル酸ビス2-エチルヘキシル)の長期ばく露によりNF-ΚBの活性化がみられ、腫瘍の形成へと進展するという報告や、金属の脱脂洗浄に使用されるトリクロロエチレンでは、代謝過程で生成される活性酸素種がNF-ΚBを活性化し、肝障害を誘発することが報告されています。
私の行っているN, N-ジメチルアセトアミドの吸入ばく露実験により、肝機能指標値(AST、ALT)の上昇、肝細胞の変性、NF-ΚBの活性化を観察しました。また、NF-ΚBの活性化には、代謝過程で生成された活性酸素種が作用している可能性を示す結果も得ています。将来的には、炎症を制御するNF-ΚBの活性化、または、NF-ΚBの活性化に伴い調節されるタンパク質を観察することによって、労働者の健康影響(特に肝障害)の早期発見の可能性があると考えています。当面は、肝細胞の変性といった病理学的な変化やAST、ALTといった従来の肝機能指標よりも、これらの変化に先行して生じていると考えられるNF-ΚBの活性化に注目し、これが従来の指標よりも低いばく露レベルで生じるか、早い段階で生じるかといったことを動物実験で綿密に解析することが重要です。実験結果が、より低いばく露レベルでの健康影響を示唆するものとなれば、リスク評価で利用可能な有害性情報としても利用できると考えています。
5 おわりに
化学物質のリスク評価では、ヒト又は動物実験から得られた情報を基に毒性影響の無い濃度(最大無毒性量)や毒性影響の出る最小の濃度(最少毒性量)を求め、種差、ばく露期間などの不確実係数を考慮してリスク評価値(労働者の健康障害発生を適切に抑えられると考えられる作業環境濃度でばく露状況を評価するための基準値)を算出することが一般的です。このときに必要な情報の多くは動物実験により導かれます。
毒性作用のメカニズムの解明という基礎研究が、実際の労働者の健康管理にどのように貢献しているのか、なかなか想像がつきにくいものかも知れません。しかし、私たちの行う研究のゴールは各化学物質の許容濃度の策定やリスク評価のための適切な評価の指標を提示するものであり、このリスク評価が基となり、適切な労働衛生管理につながっていくものと考えています。引き続き、化学物質の毒性発現のメカニズムについて詳細な調査研究を行い、未知の化学物質、化学物質の混合使用、作業過程で発生する副産物など多くの化学物質の中で作業する労働者の健康管理に有用な知見を収集していくことが必要不可欠です。
以上でご紹介させていただいたことを通じ、引き続き労働者の健康障害予防のための毒性研究に邁進していく所存です。これらの研究成果がわが国の労働衛生管理の向上につながるよう努めていきたいと思います。
(健康障害予防研究グループ 任期付研究員 柳場 由絵)