労働安全衛生総合研究所

働く人の健康に関する研究施設公開(登戸研究施設)

 4月24日の日曜日に、登戸地区の平成23年度研究施設一般公開を開催いたしました。前日の雨雲が過ぎ去った穏やかな日和の下、開始予定の30分前から参加者が続々と集まり始め、午後1時半の開始時刻には、主会場の研究本館の各部屋へと向かわれる方の姿がそこかしこにあり、終了予定の午後四時半になっても各部屋で研究員の説明に聞き入られる方、顕微鏡で御自分の細胞組織の特徴を御覧になられる方など、活況な研究施設の一般公開風景が続きました。最終的には150名の方々が一般公開にお越しになり、過去最高の参加者数を記録することができました。企業の安全衛生担当の方々に限らず、近隣にお住まいの方々、近くの学校の生徒さんなど、研究所の立地の特徴を反映した様々の世代、職業の方々に研究所を御覧いただいたことで、案内、説明を担当した職員一同、御来場の皆様と共に充実した一般公開日の一時を過ごすことができたことを感謝申し上げます。

 今回の一般公開では、講演、施設公開、研究体験、ポスター展示等の内容を設けました。以下順番にその様子をご紹介いたします。

 講演1の「ふだんからのメンタルヘルスケア」では、関心の高いメンタルヘルスへの取組と始め方は難しいものではなく、ふだんから実践できることを紹介しました。
 講演2の「足場からの墜落防止実験」は、多数の写真、ビデオ影像を通しても迫力が伝わる興味深い内容で、最近の地震対策を考える上でも参考になるものでした。
 講演3の「ブルーライトにご注意 -日食の見方はそれで安全?」は、ブルーライトが網膜に与える影響を解説するとともに、来年5月に多くの地域で見られる金環食を観察する際には、直視せず間接的な反射光で見ることが必要であることを伝えました。

写真:「足場からの転落防止実験」の講演
「足場からの転落防止実験」は清瀬地区の
高橋弘樹さん(建設安全研究グループ)に
講演していただきました。

写真:ブルーライトに関する講演
ブルーライトは労働衛生上、注目が集まっているだけでなく、
天文ファンにとって重要な関心事のようでした。

施設公開・研究体験
 「産業化学物質による作業従事者への生体影響」と題した病理実験室では、化学物質の生体影響をラットの学習行動を通して調べる研究説明をビデオ映像を交えて行う一方で、生体組織を実際に観察するため、自分の口内細胞を採り、染色し、光学顕微鏡で観察するまでの体験を行うなど、趣向を凝らした興味深い体験型の展示、紹介を行いました。初めて自分の体の一部を顕微鏡下で目の当たりにした生徒さんは、御自身の染色細胞のスライドグラスを大切にあるいは得意げに持ち帰られました。

写真:ラットを使った細胞の説明
自分の細胞を見てみようという体験型の展示は
人気が高く、常に長蛇の列でした。

 病理実験室ではほかに「化学物質に影響される精子の運動」と題して説明を行いました。化学物質によって動物精子の動きがどのように異なるか、撮影した画像を使って説明しました。

写真:動物精子の説明
有害化学物質動に曝露した動物精子の動きについて
解説する大谷さん(有害性評価研究グループ)。

 「心拍から知る体の状態」と題した実験室では、聴診器、心拍モニター計などを使い、心臓の働きについて理解してもらいました。御自身の心拍機能に関心を持たれる参加者が多く、次から次へと訪れる方が絶えない状況でした。

写真:心臓の働きについての説明
心臓の働きについて熱心に解説する田井さん
(作業条件適応研究グループ)。

 「高年齢者の転倒災害防止」と題した実験室では、認知行動が加わると歩行に乱れが生じ転倒することがあることを、実験装置の前で説明しました。立ち止まったままでも、モニター上で変化する課題に反応するためにバランスをくずざれる方も多く、どんな時に転倒しやすいか御理解いただけたものと思います。

写真:高年齢者の転倒災害防止についての説明
「歩行中に考え込むと歩行のリズムが乱れてしまう」
「意外にもこのようなことが転倒につながりうる」
と解説する清瀬地区の大西さん(人間工学・リスク管理グループ)。

 「電子顕微鏡で知るミクロの構造」と題した電子顕微鏡室では、走査型電子顕微鏡で観察した様々な物体の微細構造を写真で説明し、実際に手にした試料を顕微鏡の中に入れて、その場で観察していただきました。普段なにげなく口にするとろろ昆布の表面にグルタミン酸のきれいな針状結晶が多数付着することを知って驚かれた方も多いようです。

写真:ミクロの構造の説明
電子顕微鏡で見える世界を熱心に解説する齊藤さん
(環境計測管理研究グループ)。

 昨年の一般公開では体験コーナーとした、小規模実験装置を使った体験・デモンストレーションを1室で行いました。室内スペースが十分でなく、順番待ちをお願いすることになった時間帯があったことをおわびいたします。

写真:唾液を用いたストレスの評価に関する説明
「唾液であなたのストレスの度合いが評価できます」と
説明する三木さん(作業条件適応研究グループ)。

 「唾液を用いたストレス評価」と題したコーナーでは、唾液中のα-アミラーゼ酵素を簡単に計測する小型機器を使い、ストレス度のチェックを行ってもらいました。次の順番待ちの人の視線を背中に感じながら行う1けたの足し算作業で上昇したストレスは、モニターの数字に表れたでしょうか。参加者の中からは簡便なストレス度判定法をもっと開発してもらいたいという声も上がりました。
 「何が血圧を変動させるか」と題したコーナーでは、血圧計がなければ意識することのない血圧の変動を、パソコン上のゲームを行いながら実感してもらいました。担当者の丁寧な説明の言葉と難解で専門的な解説パネルの文字ので、体験者の血圧は微妙に変化していたかもしれません。

写真:血圧の変動の説明
「普段あまり意識しませんが、人の血圧って
上がったり下がったりします」と簡単なゲームで
血圧の変動を解説する劉さん(有害性評価研究グループ)。

 「DNAの調べ方」と題したコーナーでは、普段よく耳にするDNAがどのように測定され、労働衛生分野で応用されているかを説明しました。実際の分析装置を前にした具体的な説明に多くの方の理解が得られたようです。

写真:DNAの説明
よく耳にするDNA。でもDNAはどうやって調べるのか、
調べると何がわかり、労働衛生の分野でどのように
応用されているのか、について解説する三浦さん
(健康障害予防研究グループ)。

 「直径1万分の1mm、見えない粒子をとらえる」と題したコーナーでは、ナノレベルの大きさの粉じん粒子が測定できる計測器による実演と説明を行いました。使用する装置によって大きさの定義も異なり、目に捉えられないナノ粒子がそこかしこに漂い、その状況をモニターすることができることを実感いただけたことと思います。

写真:ナノレベルの粉じんの説明
「目に見えないナノレベルの粉じんって測れるの?」
「具体的にどんなものがあるの?」「それって人体に有害なの?」
等の質問に応える鷹屋さん(環境計測管理研究グループ)。

 「低周波音の心理的影響」と題した低周波音室では、無音の世界、低周波音を体感すると共に、これらの音が及ぼす心理的影響を中心に説明を行いました。

耳には聞こえない低周波音って何?
耳には聞こえない低周波音って何?
「百聞は一見にしかず」是非、体験してください。
高橋幸雄さん(環境計測管理研究グループ)の実験室。

 「人体振動」と題した、振動実験室では、手腕振動と全身振動を計測する装置の交互実演を行いました。大型の全身振動測定装置への階段を上るのは一瞬たじろぐところですが、椅子に体を固定し制御された振動を体験することで、揺れに対する理解が深まったことと思います。

写真:振動実験室の説明
写真:全身振動の体験
階段を上がり、自由に揺れを作り出せる椅子に
座っていただき、全身振動を体験していただきました。
柴田延幸さんの振動実験室(人間工学・リスク管理グループ)。

 研究ポスター展示会場では、「労働現場における電磁界」、「労働安全衛生マネジメントシステム(OSHMS)」、「化学物質による健康影響の個人差」、「オフィス環境に潜在する健康有害因子」「重金属ばく露した女性労働者への健康影響」など、8枚のパネル展示を行いました。CTなどの医療検査機器の放射線影響、OSHMS等について、関心が多く持たれたようでした。

写真:ポスター展示
この会場は休憩所として使用されましたが、
同時に研究ポスターも展示されており、
専門的な発表内容にも研究員との熱心なやり取りがみられました。

 参加者の方々からは「わかりやすく丁寧な説明で、研究内容がよくわかった」などのお声を多くいただき、アンケート調査では、今回の一般公開は、よかった、非常によかったというご意見がほとんどでした。一方で「このような公開の場をもっと増やしてほしい」「一般と専門向けに公開内容を区分けしてはどうか」など、貴重な御指摘もいただきました。
 今回の一般公開は、自由に各会場へ移動、参加していただく方式で行いましたが、参加いただいた皆様には、安心して楽しく館内を見学していただき、御満足いただけたことと存じます。今年度の一般公開を盛況のうちに終えました事ことを御報告するとともに、皆様の御協力と温かい励ましに厚く御礼申し上げます。

刊行物・報告書等 研究成果一覧