労働安全衛生総合研究所

災害時のメンタルヘルスに関する情報のリスト

 東北地方太平洋沖地震に被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。地震と津波,またそれに起因した原子力発電所のトラブルと電力不足などにより,首都圏においてもいまだに多くの方々の生活に影響が出ている所です。
 災害はいつ襲ってくるか分かりません。被災地の支援ではもちろんのことですが,ストレスやメンタルヘルスに関する対策は,普段からよく知り備えておくことも必要です。
 今回の震災により,多くの機関や専門家からこれまで蓄積されてきた災害時におけるメンタルヘルスの対応法の情報が次々に示されています。本記事では,こうした情報をまとめて把握しやすいように,一覧にして一言簡単な解説を加えてみました。
 直接労働安全衛生に関わる情報ばかりではありませんが,参考にできる部分も見つかることと思います。これまで心理学や公衆衛生の分野で職場のメンタルヘルスや精神保健疫学に関する研究に従事してきた小生から見て,信頼できそうな情報を集めています。皆様の参考になれば幸いです。

注:下記の情報は,2011/03/25時点の情報であるため,今後新しく追加や削除が行われる可能性があります。

【マニュアル,ガイドライン類】


  • 職場における災害時のこころのケアマニュアル((独)労働者健康福祉機構)
    https://www.johas.go.jp/sangyouhoken/johoteikyo/tabid/140/Default.aspx
     [対象]:企業の産業医,保健師等の専門職や,事業主,衛生管理者,労務担当者,同僚労働者等
     [内容]:心身に強いストレスを受けた労働者や家族等にどのように接するべきか,企業においてどのような対応をとるべきか等についての一般的な指針。「トラウマティックストレス反応への事業場としての対応」,「こころのケアの危機介入システムづくり」という章や,事業場外の医療機関・相談機関リストが掲載されていることが特色。
  • サイコロジカル・ファーストエイド 実施の手引き 第2版(兵庫県こころのケアセンター*)
    https://www.j-hits.org/document/pfa_spr/page1.html
     [対象]:被災者に関わるすべての支援者,救援者
     [内容]:災害発生直後(直後-4週間程度)の時期に適切とされている心理的な支援法。治療を目的とした介入法ではなく,基本的態度と,被災直後の苦痛を和らげるための介入方法をまとめたもの。
    *阪神・淡路大震災後に開設された,「こころのケア」に関する調査研究,人材育成・研修,相談・診療,情報の収集発信・普及啓発,連携・交流など,多様な機能を有する全国初の拠点施設
  • 災害時地域精神保健医療活動ガイドライン
    (平成13年度厚生科学研究費補助金(厚生科学特別研究事業) 主任研究者:国立精神・神経センター精神保健研究所成人精神保健部部長 金吉晴)
    http://www.ncnp.go.jp/pdf/mental_info_guide.pdf ((独)国立精神・神経医療研究センターのpdfファイルへの直接リンク)
     [対象]:地方自治体,保健所,精神保健福祉センター等を中心とする地域精神保健医療上の業務に従事する医師,保健師,看護師,精神保健福祉士,その他の専門職,行政職員
     [内容]:(1)一般の援助活動の一環として,地域全体(集団)の精神健康を高め,集団としてのストレスと心的トラウマを減少させるための活動,(2)個別の精神疾患に対する予防,早期発見,治療のための活動,の2点に大別される,災害時の地域精神保健医療活動のガイドライン

【情報サイト・リンク集】


 現在様々な所でメンタルヘルスに関する情報サイトやそのリンク集が作られていますが,目的別に列挙してみました。

  1. 「災害に関するメンタルヘルスの専門家・専門機関からの情報を知りたい」
    • 東北地方太平洋沖地震メンタルヘルス情報サイト((独)国立精神・神経医療研究センター)
      http://www.ncnp.go.jp/mental_info/index.html(リンク切れ)
       ペルー大使公邸人質事件,和歌山カレー毒物混入事件,新潟中越大地震,などの様々な自然及び人的災害に専門家を派遣してきた経験を反映した,支援医療関係者向けのメンタルヘルスに関する情報サイト。わが国の精神・神経分野のナショナルセンターが開設しています。「災害精神保健医療マニュアル:東北関東大震災対応版」や,子どもの支援などに関する文書が公開されています。
    • 日本トラウマティック・ストレス学会:大震災支援情報サイト
      http://jstss.blogspot.com/
       心的トラウマに関わる研究や治療・ケアに従事する多様な専門職により構成される学会による,心理的支援(こころのケア)を行うために必要な情報を集めたサイト。救援チームの「惨事ストレス対策」,「放射能災害がもたらす不安への対処」など独自の情報が集約されています。
    • 津波・地震において自分,家族,同僚,地域の健康を守るヒント集
      http://kojiwada.blogspot.com/
       産業医大などの有志と産業医学推進研究会の助成により作成されているサイト。産業衛生学会のWebサイトからもリンクが張られています。現場ですぐに活用できるヒントを提供。災害時の安全衛生全般についての情報が集約されていますが,ハリケーン・カトリーナや2004年インド洋津波の教訓,復旧作業従事者や被災者の生活について,ストレス・メンタルヘルスに関する情報も提供されています。
    • ジャーナリストの惨事ストレスに関するホームページ
      http://www.human.tsukuba.ac.jp/~ymatsui/index.html
       ジャーナリストの惨事ストレスケアに関する研究や実践活動を紹介するサイト(研究会代表:筑波大学人間総合科学研究科 松井豊 教授)。ジャーナリスト向けだけでなく,「災害派遣組織や職員向け」,「県や市の職員向け」,「消防職員向け」の惨事ストレスマニュアルを提供しています。
    • 東北関東大震災ページ(日本心理学会)
      http://www.psych.or.jp/jishinjoho/index.html(リンク切れ)
       「被災地での臨床的ケアの実施」「被災地での臨床や研究に関する情報交換」に,心理学者からの投稿により情報提供がされ,日々更新されています。
    • 東北地方太平洋沖地震と心のケア(日本心理臨床学会・支援活動委員会)
      https://www.ajcp.info/heart311/
       被災地の方々への心のケア活動について阪神淡路大震災・インド洋大津波・四川大地震などでの支援経験から,今考えうる最善の知識と方法を提供する,臨床心理学の学会による情報サイト。「災害と子どもの心のケア」「教師・心理職等(対人援助職)のみなさんへ」などの情報があります。
    • 東北地方太平洋沖地震で被災された皆様へのお見舞いと心のケア情報(日本認知療法学会)
      http://jact.umin.jp/conv1/index.shtml(リンク切れ
       本記事で紹介した情報と同様のリンク集。職場のメンタルヘルス対策において,労働者のセルフケアで最も有効だとされている方法が認知行動療法であり,日本認知療法学会はその専門学会の1つです。
  2. 「災害時のうわさや風評,報道との付き合い方を知りたい」
    • 東北地方太平洋沖地震関連ページ(日本社会心理学会)
      https://sites.google.com/site/jsspjishin/home
       被災者や非被災者,あるいはさまざまな組織がいかに対応するべきかについて,社会心理学を研究する個人あるいは関連団体が自身を含むこれまでの研究成果にもとづいて提言を行っているサイトを集めたリンク集。災害後にはうわさや風評などによる問題も発生します。社会心理学はこうした問題も研究対象としておりますので,専門家からの人々の行動の特徴に関する冷静な意見が集められています。特に,「提言:全般(一般市民向けのもの)」で解説されている記事は,多くの方に読んでもらいたいものばかりです。テレビの震災報道との付き合い方などが参考になります。

(作業条件適応研究グループ 任期付研究員 土屋政雄)

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