労働安全衛生総合研究所

技術指針 TR-No.42 の抄録

静電気安全指針

TR-No.42

はしがき

 静電気災害防止の基本は 1.接地・ボンディング,2.不導体の排除,3.不導体の静電気対策,4.作業者の帯電防止・接地,5.爆発性雰囲気の防止,6.安全管理 である。ここに挙げている個々の静電気対策自体は必ずしも難しいものではない。それにも拘わらず,未だに静電気に因る災害は起きている。この災害の由来は静電気が危険であるという認識不足か,あるいはその危険性を十分に把握して静電気対策を施しているが,その対策あるいは管理が不十分であることにある。

 この指針の目的は静電気災害の防止であることはいうまでもないが,管理者から作業者までが静電気の危険性を把握し,静電気安全の基礎を理解して,安全で安心な労働環境の構築を支援することである。換言すれば,我が国の静電気安全のレベルのボトムアップである。この目的のために本指針では

  1. 静電気の基礎的理解(静電気リスクアセスメント実施のための基礎)
  2. 静電気危険性の把握と評価(危険源の特定,リスクの見積)
  3. 静電気災害防止対策(リスク低減策)
  4. 安全維持・管理

 の項目を示す。基礎を十分に理解することが静電気対策の基本であり,基礎があっての対策でなければならない。そうすれば,対策の意味を理解できるようになり,事故の原因となる作業者が効率化などのため行う静電気対策としては誤った行動も防止することができる。また,静電気リスクアセスメントの実施にはこの基礎が不可欠である。静電気安全の理解レベルの向上は最終的にこの指針の目標の事故の未然防止につながると考える。

 従来の指針が出版された当時は安全基準遵守の管理方式に基づいて指針・規格が作成されていた。しかしながら,どのように対策しても物質が存在する限り多かれ少なかれ静電気は発生するので,可燃性物質を取り扱っているかぎり絶対安全はありえない。このような考えから,あらかじめ危険源を特定して,そのリスクを見積り,そのリスクが許容可能なリスクであるかを評価し,そうでなければ,許容可能なリスクとなるまでリスク低減策(静電気対策)を講ずるというリスクアセスメントが誕生した。これがリスク低減管理方式であり,欧州で数十年の試行錯誤の後に確立された安全技術である。我が国でも平成18年4月の改正労働安全衛生法の施行により,第28条の2にリスクアセスメントを講ずるように努めなければならないことが明示されるようになった。この指針でもこれに対応して,リスクアセスメントが実施されることを前提として静電気対策(リスク低減策)を述べている。この点が従来の指針と大きく異なる点である。各種の工程で危険源の特定に参考となる静電気の危険性評価と普遍的なリスク低減策を示しているので,この指針の利用者それぞれが異なるであろう許容可能なリスクにするリスクアセスメントを実施する際,また,リスクマネージメントに基づいた社内規定(マニュアル)を作成する際の参考としてこの指針を利用されたい。

 まず,第1章では指針の適用範囲と目的,第2章ではこの指針で用いられている用語の定義,記号および単位を示している。次に,第3章では,静電気がいかにして帯電し,静電気放電が起こり,可燃性物質を着火しているのかという現象とその危険性の把握および対策の意味を理解するため,静電気安全の基礎を詳細に説明している。第4章では,静電気の危険性の把握と一般的な静電気対策の要点を簡潔にまとめている。第5章から第7章では,静電気対策の基幹である導体の接地・ボンディング,作業者の静電気対策および不導体の静電気対策を述べている。第8章から第11章では,液体,粉体,固体および気体に分けて,各種の工程の静電気対策を示している。付録では,静電気対策が困難な場合に実施される爆発性雰囲気の形成を防止するための対策,各種の静電気対策用の材料・用品,静電気の安全管理とリスクアセスメント,リスクアセスメントに必要とされる管理指標,基本的な静電気の測定方法,静電気災害防止対策に関連する出版物のリストと法規,リスク分析に必要な種々の数値データを示している。さらに,今回の改訂では,新たな知見を追加・補充するとともに静電気に起因した事故が多い工程についてはその対策を工程ごとに詳述している。また,リスクアセスメントの参考となるので,対策等の科学的根拠を解説するとともに引用文献も示している。

 静電気対策には多少複雑な点もある。この指針が必ずしも個々の工程に適用できない,あるいは静電気対策が困難な場合もあるであろう。このようなときは誤った対策などを避けるため専門家のアドバイスを求めることも必要である。

 指針には補充的な参考として別冊の静電気用品構造基準と応用編追補がある。静電気用品構造基準はこの指針に示した対策を実施する場合に必要となる用品,機器等の構造上の基準を示したものであり,構造,性能,試験方法等が示されている。応用編追補は指針の活用例を示したものであり,設備,作業等の対象別に対策の応用例が示されている。


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