労働安全衛生総合研究所

技術資料 TD-No.8 の抄録

化学物質の危険性に対するリスクアセスメント等実施のための参考資料
— 異常反応による火災・爆発を防止するために —

TD-No.8
佐藤嘉彦,島田行恭,板垣晴彦

 2011 年以降、大規模化学工場を含む事業場において、連続して発生した異常反応をきっかけとした火災・爆発による重大災害の原因・背景に係る共通点として、取り扱う物質の化学反応に対する理解不足等により、当該物質を取り扱う際のリスクアセスメントが不十分であったこと等が指摘されている。このことから、化学物質のリスクアセスメント等を的確に実施するためには、取り扱う物質の化学反応に対する理解も促進していく必要がある。
 しかし、化学反応による熱やガスの発生挙動等についての情報は、実測が必要になることが多い等から入手が困難である。また、論理的で効果的なリスク低減措置を検討することができる詳細なリスクアセスメント手法では、多くの専門的知識や労力が必要となるために、 シナリオやリスク低減措置の検討等が的確になされない可能性がある。さらに、反応特性等の把握とシナリオ同定、リスク低減措置の検討のそれぞれに専門的知識が求められるため、 化学物質そのものの特性等についてのみ着目し、設備や装置の不具合、作業者による不適切な作業・操作を見逃す可能性や、化学反応の反応特性等の情報が引き継がれず、重要なシナリオ等が見逃される可能性がある。その結果、的確なリスクアセスメントが妨げられる可能性がある。そのため、リスクアセスメント等を的確に実施し、より安全な作業環境を構築するためには、化学反応に関する危険性の特定を支援する情報や、災害につながる化学反応に関係するシナリオ及びシナリオの進展を防止するためにリスク低減措置の例等の情報を、 論理的なリスクアセスメント等の進め方に沿って提供する必要がある。
 本資料は、医薬を含むファインケミカルプラントで多く採用されているバッチ/セミバッチプロセスを対象として、暴走反応及び混合危険を考慮したリスクアセスメント等を検討する際に参考になる情報を提供することを目的としている。労働安全衛生総合研究所で取りまとめた火災・爆発等防止のためのリスクアセスメント等の進め方(安衛研手法)14に沿ってリスクアセスメント等を実施することを前提として、安衛研手法に沿って、暴走反応及び混合危険に関する検討を行う際に参考となる情報、典型的なシナリオや、シナリオを検討する際の着眼点、リスク低減措置の例等の具体的な情報をまとめている。また、暴走反応及び混合危険に関する危険を特定する際に参考となる支援ツールやデータベース、災害事例を紹介している。


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