労働安全衛生総合研究所

特別研究報告 SRR-No.49 の抄録

  1. 諸外国における労働安全衛生に関する施策や規制の動向調査と展開の検討
  2. 防護服着用作業における暑熱負担等の軽減策に関する研究

諸外国における労働安全衛生に関する施策や規制の動向調査と展開の検討

研究全体の概要

SRR-No49-1-0
大幢 勝利,山隈 瑞樹,梅崎 重夫,日野 泰道,吉川 直孝,外山 みどり,吉川 徹
 本研究は、第12次労働災害防止計画に記載された対策の視点として諸外国の労働安全衛生管理に目を向け調査分析し、欧米等の制度で日本においても労働災害の減少が見込めるものについては、日本の優位な点を考慮して新たな対策として厚生労働省等に提言し、施策や規制の国際的整合性を担保することに貢献することを目的とした。研究の成果としては、建設業における英国やシンガポールの安全衛生の最新の制度について、日本に導入可能な制度として厚生労働省等に提言し、法令や第13 次労働災害防止計画に反映されるなどの成果を得るとともに、アジア各国やこれらの国に進出している日本企業に情報提供した。

諸外国における建築物等の設計段階から考える安全衛生管理手法の調査

SRR-No49-1-1
吉川 直孝,大幢 勝利,平岡 伸隆,高橋 弘樹,日野 泰道,豊澤 康男
 建設業では、発注、設計、施工の担当が組織を異にしていること、充分な資金と工期が得られない場合があること等から、設計段階から施工中の安全衛生を考慮することが難しい現状がある。一方、建設業の安全の成績が良い英国及びシンガポールの取り組みを調査すると、施工者だけでなく、発注者及び設計者に対しても安全衛生における役割と責務を規定している。また、基本(概略)設計、実施(詳細)設計、施工前の各段階において、安全衛生を含めたデザインレビューを取り入れている。このように発注者、設計者、施工者が一体となって、設計段階から施工中の安全衛生を考慮するような社会的なシステムが日本の建設業においても必要である。
キーワード:リスク,安全衛生,発注者,設計者,建設工事

諸外国における建設業の労働安全衛生の現状調査

SRR-No49-1-2
大幢 勝利,吉川 直孝,高橋 弘樹,平岡 伸隆,豊澤 康男
 本研究では、米国とドイツにおける建設業の労働安全衛生制度を調査してその特徴を述べるとともに、アジア各国の労働安全衛生の現状を調査した。その結果、米国では、建設プロジェクトのリスクやハザードについて設計段階から検討することにより、これらを最小限にできるという考え方、PtD(Prevention through Design)を提唱していることがわかった。ドイツでは、EU 指令に基づき、建設現場での安全衛生保護施行規則により、複数の雇用主の従業員が使用されている建設現場については安全衛生調整者の任命が必要であることが明らかとなった。また、アジア各国の労働災害発生状況を分析し、死亡災害は墜落・転落と車両事故(交通事故)が多く発生し、死傷災害はこれらの事故の型に加え転倒も多く発生していることを明らかにした。
キーワード:Prevention through Design,安全衛生調整者,労働災害,統計

防護服着用作業における暑熱負担等の軽減策に関する研究

研究全体の概要

SRR-No49-2-0
時澤 健,齊藤 宏之,岡 龍雄,井田 浩文,横田 真一,引田 重信,高津 衛,内海 夕香,香村 勝一,篠﨑 大祐,城戸 克也,土基 博史,志牟田 亨
 職場における熱中症死傷者数は近年減る傾向になく、新たな対策が求められている。有害物質に対応した防護服の着用は、着用することにより熱放散を大きく抑制することから暑熱負担が増し、作業による熱中症発症リスクを高める恐れがあるが、近年、原発復旧作業や感染症対応、また廃棄物取扱いや塗装など多くの作業に用いられている。本研究では、暑熱負担を軽減するための実用的な身体冷却方法の開発、および暑熱負担をリアルタイムにモニタリングするためのウェアラブル深部体温計の開発に取り組んだ。まず、防護服内に装備可能な水循環ベストの評価、および手足のプレクーリングとの併用効果を検証し、加算的な暑熱負担の軽減効果となることを明らかにした。さらに実用的な手足の冷却方法として、12℃の融解温度となる相転移型蓄冷材料の効果を検証し、水による冷却と同等の効果を確認した。最後に、暑熱負担モニタリングに必須となるウェアラブル深部体温計を、胸部におけるパッチ型センサとして開発し、双熱流法を改良した新たな深部体温推定アルゴリズムによって推定した。作業着または防護服着用時の暑熱下作業における深部体温を食道温と直腸温でモニターし、推定値との誤差を算出した結果、±0.2℃の標準偏差内に収まった。

防護服着用時の暑熱負担軽減対策—手足プレクーリングと水循環ベストの併用効果—

SRR-No49-2-1
時澤 健,岡 龍雄
 防護服着用作業では、熱放散が抑制されるため暑熱負担が増大する。作業を行っている最中には作業に支障が出ない範囲で対策を行う必要があるため、作業前に身体を冷やすプレクーリングが実用的であることを報告してきた。しかしその効果にも限度があるため、作業中のクーリングと組み合わせて行うことで効果の増大が期待された。本研究では、すでに効果を検証した作業中の水循環ベストの着用および作業前の手足の冷却を組み合わせることによって、暑熱負担の軽減が増大するか否かを検証した。室温33℃・相対湿度60%の環境において防護服着用歩行を1 時間行うと深部体温(直腸温)は0.8±0.1℃上昇したのに対して、水循環ベスト着用では0.6±0.1℃、水循環ベストと手足プレクーリングの併用は0.2±0.1℃と、併用により抑制効果は増大した。局所発汗率や体重減少率も同様の抑制が見られ、脱水への効果も確認された。温熱感覚には併用効果は認められなかった。以上のことから、防護服を着用し作業を行う暑熱負担が増大するような状況では、作業前から身体冷却を行い、さらに引き続き作業中にも冷却処置を続けることで、加算的に負担軽減につながり熱中症予防に寄与する可能性が示唆された。
キーワード:暑熱環境,深部体温,クールベスト

相転移型蓄冷材料を用いた手足冷却

SRR-No49-2-2
時澤 健,岡 龍雄
 手足を冷却する方法として、水以外で簡便に行える技術を検証した。一般的な保冷剤では、0℃以下の温度で凍らせるため、冷却刺激として強すぎるデメリットがあった。そこで12℃の融解温度となる相転移型蓄冷材料(PCM)を用いて作業前に手足を冷却し、その後に防護服を着用し、暑熱環境下で1 時間の歩行を行った。作業前の冷却がない場合には深部体温(直腸温)が0.9℃上昇したのに対して、PCM で作業前冷却を行うと0.5℃の上昇に抑えられた。これは手足を浸水させる冷却方法と同程度の効果であった。したがって、水の代わりにPCM を用いた手足冷却でも暑熱負担軽減効果があることが示唆された。
キーワード:暑熱環境,深部体温,冷却剤

ウェアラブル深部体温計の開発

SRR-No49-2-3
時澤 健,土基 博史,志牟田 亨
 本研究では、パッチ型で皮膚表面の熱流束データを用い、双熱流法の原理を応用して深部体温を推定し、侵襲的な測定による深部体温と比較すること目的とした。 健常成人男性を対象に、室温35℃(相対湿度50%)において、5 km/h の歩行を1 時間行った。食道温(Te)を侵襲測定としてモニターし、パッチ型センサを左鎖骨下3cmに貼り付けた。パッチ内のデータ(2 点の熱流束、4 点の温度)から最適なアルゴリズムを決定し推定深部体温(Tp)を求めた。1 時間の運動によりTe は37.1±0.1℃(平均値±標準偏差)から38.0±0.3℃まで、Tp は37.3±0.2℃から37.9±0.2℃まで上昇した。運動時5 分毎にプロットしたTe とTp の誤差は0.04±0.18℃であった。シンプルなウェアラブル機器として優れており、作業に支障のない形態での熱中症リスク管理システムに貢献する可能性がある。
キーワード:暑熱環境,深部体温,ウェアラブル


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