労働安全衛生総合研究所

特別研究報告 SRR-No.44 の抄録

  1. 従来材及び新素材クレーン用ワイヤーロープの経年損傷評価と廃棄基準の見直し
  2. 非電離放射線等による有害作業の抽出及びその評価とばく露防止に関する研究
  3. 発がん性物質の作業環境管理の低濃度化に対応可能な分析法の開発に関する研究

No.1 従来材及び新素材クレーン用ワイヤーロープの経年損傷評価と廃棄基準の見直し

序論

SRR-No44-1-0
本田尚, 山際謙太, 山口篤志, 佐々木哲也
 クレーンに使用されるワイヤロープが切断し、吊荷の落下やジブの折損による労働災害が後を絶たない。細い鋼線(素線)を数多く束ねたワイヤロープは、使用しているうちに少しずつ素線が断線し、強度が低下する。しかし、ワイヤロープはその複雑な構造のために、断線のメカニズムは十分に解明されていない。そこで、クレーンに使用されるワイヤロープを動索と静索に分類し、それぞれ用途に適した方法で経年損傷評価を行った。動索は、天井クレーンの巻上ロープや移動式クレーンのジブ起伏ロープに多く使用される2種類の鋼心ワイヤロープについてS 字曲げ疲労試験を行い、経年損傷のメカニズムと経年損傷に及ぼす張力の影響を調査した。その結果、いずれのワイヤロープもワイヤロープ内部から断線が進行し、張力が小さいほど、内部から断線が進行する傾向にあることが判明した。また、静索は、移動式クレーンのペンダントロープとして炭素繊維ロープの使用が検討されている。しかし、国内には炭素繊維ロープに対する安全基準がなく、安全基準策定の基礎となる強度データが求められている。そこで、炭素繊維ロープの引張疲労試験を行い、疲労強度を明らかにするとともに損傷メカニズムの解明を行った。疲労試験の結果、炭素繊維ロープの疲労限度は引張強さの約1/3 であり、従来の鋼製ワイヤロープと同等の疲労強度を有していることが判明した。これらの成果はクレーン構造規格、移動式クレーン構造規格およびJIS 規格原案といった国内の規格改正はもとより、ISO 規格の改正に資する。

動索の経年損傷評価

SRR-No44-1-1
本田尚, 山口篤志, 山際謙太, 佐々木哲也
 クレーンに使用されるワイヤロープのうち、巻上ロープやジブ起伏ロープといった動索には、高強度化と形崩れ防止を目的として鋼心ワイヤロープが使用される。本研究は、これら動索の経年損傷特性を明らかにするために、代表的な鋼心ワイヤロープIWRC 6×Fi(29)とIWRC 6×WS(31)の2 種類について、2 つの シーブ間で180°折り返すS 字曲げ疲労試験を行い、ロープに掛かる張力が可視断線数と総断線数に及ぼす影響について調査した。その結果、IWRC 6×Fi(29)は可視断線が発生した時点で、すでにクレーン構造規格の廃棄基準である総素線数の10%を超える素線断線が発生し、張力が小さくてもシーブを通過する回数が多いと、破断荷重が低下する傾向がある。一方、IWRC 6×WS(31)は張力によって可視断線数と総断線数の関係に変化はみられないが、可視断線が総素線数の4%に達すると、ほぼ半数の素線が断線し、張力が大きくなるほど急激に断線が進行する傾向がある。このように、ワイヤロープの種類および張力によって経年損傷特性は大きく異なることから、素線断線数だけで評価する現在の廃棄基準は危険である。そこで、張力の大きさとシーブを通過する回数から余寿命を評価する新たな損傷評価法を提案した。この評価法は、張力を縦軸に、破断までにシーブを通過した回数の対数を横軸として、疲労試験結果を片対数グラフ上で整理することで、ワイヤロープの余寿命を簡易に評価できる。
キーワード:クレーン,鋼心ワイヤロープ,動索,疲労,非破壊検査

静索の経年損傷評価–炭素繊維複合材料を活用した静索の繰返し軸荷重特性–

SRR-No44-1-2
山際謙太, 本田尚, 山口篤志, 佐々木哲也
 クレーンのジブ起伏に使用されている静索(ペンダントロープ)に、軽量化と工期短縮を目的として、炭素繊維複合材料ケーブル(Carbon Fiber Composite Cable、 CFCC)を応用したCFペンダントの利用が期待されている。CFCCは現在のところジブの起伏といった変動荷重下での使用については実績が無いことから、CFペンダントの繰返し軸荷重試験を行い、荷重範囲と破断に至る繰返し数の関係を求めた。CFペンダントは破断荷重400kN全長500mm(以下、400kN試験片)と、破断荷重200kN 全長1200mm(以下、200kN 試験片)の2種類を用意した。試験の応力比は0.1、室温大気中、試験打ち切り繰返し数は200万回の条件で荷重一定の試験を行った。200万回でも破断しない最小の荷重範囲は最大荷重が破断荷重の約30%の時であった。すなわち、400kN試験片では荷重範囲が108kN、200kN試験片では54kN以下では破断しない。また、CFペンダントの損傷の進行を確認するため、端部の変位量と繰返し数の関係を求めた。その結果、変位量が初期より5%ほど増えると破断に至っていた。最後に破断部の観察により、CFペンダントの損傷メカニズムの推定を行った。その結果、炭素繊維とテフロンシートの摩耗が進行し、次に炭素繊維とシンブルが摩耗しあって破断に至ると推定された。これらの結果はCF ペンダントの廃棄基準などを決めるための基礎的な資料として活用できる。
キーワード:クレーン,ロープ,炭素繊維複合材料


No.2 非電離放射線等による有害作業の抽出及びその評価とばく露防止に関する研究

序論

SRR-No44-2-0
奥野勉
 非電離放射線とは、電磁波のスペクトルのうちの電離作用を持たない領域であり、その中には、静電磁場、振動電磁場、電波、マイクロ波、赤外放射、可視光、短波長の可視光であるブルーライト、紫外放射が含まれる。非電離放射線は、多くの作業者がばく露されているが、体感として捉えにくいため、事業所による管理、および、監督行政機関による規制が難しい。一方、その特殊性のため、労働衛生関連研究機関においても、非電離放射線に関する本格的な調査・研究はあまり行われていない。このため、一般に、作業者のばく露や健康影響の実態は不明であり、その防止対策も確立されていない。また、多くの場合、ばく露防止のための適切な許容基準や指針なども確立されていない。本プロジェクト研究では、関係各方面から現場の情報を収集し、非電離放射線を伴う作業を抽出、その問題点を明確化した。既知および抽出作業について、非電離放射線の実験的測定と現場測定、および、健康影響についてのアンケート調査を行った。また、動物実験、培養細胞実験によって、非電離放射線のリスク管理の基礎となる障害の閾値などのデータを求めた。その結果、非電離放射線について、発生する作業、有害性の程度、問題点、有害性の評価方法、ばく露防止対策などに関する貴重な知見と技術を蓄積することができた。今後は、これを基に、非電離放射線に関する研究をさらに進め、また、現実の労働衛生の問題に、より迅速、的確に対応することができると思われる。

産業機械より発生する磁界の測定事例

SRR-No44-2-1
山口さち子, 奥野勉
 近年、欧州の職業電磁界ばく露規制(Directive 2013/35/EU)に端を発して、職業磁界ばく露の定量化が求められている。そこで本研究では、mTレベルの比較的高い磁界発生が予見される産業用機械を選定し、装置から発生する磁界環境の測定を実施した。測定対象は、1.手持ち式抵抗溶接装置、2.定置式抵抗溶接装置、3.高周波電気炉、4.アーク炉、5.磁気探傷装置の5 種類とした。測定装置は直交3軸コイル、コイル面積100㎠のプローブを有する交流磁界測定装置を使用した。特定の測定ポイントで発生磁界を記録し、磁界の周波数成分と強度を分析したのち、国際非電離放射線防護員会(International Commission on Non-Ionizing Radiation Protection:ICNIRP)の2010年の低周波ガイドラインとの適合性を周波数ごとに比較を行った。その結果、最大磁界が観察されたのは手持ち式抵抗溶接装置のケーブル部分であり、また、一部の産業用機械では作業場所によってはICNIRPガイドラインを超過することが示された。このような場合、事業者および作業者側が取りうるアクションとしては、1.磁界ばく露の少ない別の作業方法の提案、2.磁界発生の少ない機器の選択、3.シールド対策、4.適切な区画割及び立ち入り対策、5.作業機器等の適切な保守プログラムの実施、6.作業場及び作業ステーションの設計と配置の検討、7.ばく露期間及び強度の制限(記録)があげられる。一方で今後の課題として、一部の機械を除き磁界測定のための規格が立案されていないことから、これらの規格化や適切な測定ガイダンスの制定が待たれる。
キーワード:産業用機械,磁界測定,職業磁界ばく露,ICNIRP

MR検査業務従事者の職業ばく露磁界の測定と作業内容との関連性

SRR-No44-2-2
山口さち子, 中井敏晴, 今井信也, 井澤修平, 奥野勉
 磁気共鳴画像検査(Magnetic Resonance Imaging:MRI、MR検査)は、地磁気の数万倍に相当する数テスラの静磁界を利用した画像診断手法であるが、MR検査業務従事者(主にMR検査担当の診療放射線技師)の漏洩磁界へのばく露が問題とされている。MR検査時の漏洩磁界ばく露は、めまい、吐き気等の一過性の症状を生じさせることが報告されているが、その労働衛生対策は確立していない。そこで筆者らは、MR検査業務従事者の労働衛生対策の第一歩として、MR検査業務従事者の職業磁界ばく露の実態調査を行った。診療上最も標準的なMR装置である1.5T装置と、高性能機である3T装置のMR検査業務従事者のばく露磁界を測定した結果、1.5T装置では最大ばく露磁界(Bmax) が70~427mT、その平均(Average Bmax)が132±37mT であり、3T装置ではBmax が最大1250mT、Average Bmaxが428±231mTであった。漏洩磁界測定結果からは、1.5T装置はMR装置本体に付属のパネル操作部位が最も高く(645±2mT)、3T装置においては、操作部位でなく装置近傍で強い磁界勾配が観察された。作業内容とばく露磁界の関連性について検討を行った結果、特に3T装置では、作業場所が最もMR装置に近くなる頭部MR検査において他の作業内容と比較して有意に高いAverage Bmax が観察された(p<0.05 v.s. 患者誘導、p<0.01 v.s. その他)。これらのことから、装置近傍の磁界勾配が大きく、MR検査業務従事者のわずかな体動変化で高磁界ばく露の可能性が高まる3T装置においては、特に頭部MR検査時に一過性症状が生じないよう、ゆっくり動く等の動作コントロールが必要であると考えられる。
キーワード:MRI,磁気共鳴画像検査,MR検査業務従事者,静磁界ばく露

アルミニウムのミグ溶接が発生する紫外放射の有害性

SRR-No44-2-3
奥野勉, 海津幸子, 谷戸正樹, 大平明弘
 一般に、アーク溶接が行われている作業場では、多くの作業者が角結膜炎、皮膚炎(日焼け)を経験している。アーク溶接が発生する強い紫外放射へのばく露がその原因である。アーク溶接の中でも、特に、アルミニウムのミグ溶接の場合には、溶接の関係者の間で一般に紫外放射による障害を受けやすいと言われており、強い紫外放射を発生することが考えられる。急性障害(角結膜炎、皮膚炎)に関する紫外放射の有害性は、一般に、ACGIHの評価基準に従って評価される。本研究では、アルミニウムのミグ溶接を実験的に行い、発生する紫外放射を測定、その有害性の強さを評価した。有害性の強さを表す量である実効放射照度の測定値は、条件によって異なり、溶接作業者の位置であるアークから50cmの距離において0.330mW/㎠~9.71mW/㎠であった。これに対する1 日あたりの許容ばく露時間の計算値は、わずか0.310秒~9.10秒となる。したがって、たとえわずかな時間であっても、溶接作業者がアルミニウムのミグ溶接が発生する紫外放射へ直接ばく露することは、危険であると考えられる。さらに、アルミニウムのミグ溶接が発生する紫外放射は、溶接電流の増加に伴って強くなること、および、母材およびワイヤのマグネシウムの含有量が多いと、紫外放射が強くなる傾向があり、特に、母材よりもワイヤのマグネシウムの影響が大きいことなどを明らかにした。
キーワード:アルミニウム,ミグ溶接,紫外放射,ACGIH

水晶体混濁を引き起こす赤外放射の照度の閾値とその曝露時間依存性

SRR-No44-2-4
奥野勉, 小島正美, 石場義久, ハサノワ ナイリャ, 山口さち子
 ガラス工業、鉄鋼工業に従事する作業者の間で白内障が多く発生する。高温の物体が発生する強い赤外放射へ曝露するためだと考えられている。ACGIHは、白内障を防止するための赤外放射の許容基準を発表しているが、この許容基準は、適切ではない可能性がある。本研究では、許容基準の基礎となるデータを提出するため、水晶体混濁を引き起こす赤外放射の照度の閾値とその曝露時間依存性を動物実験によって求めた。波長808㎚または1550㎚の半導体レーザーのビームを、有色家兎の眼に照射し、その1日後以降に細隙灯顕微鏡を用いて水晶体を観察した。曝露時間は、波長808㎚では4秒~6分、波長1550㎚では6分とした。各波長の各曝露時間について、照度の閾値を求めるため、異なった照度の赤外放射を動物へ照射した。赤外放射の照度が十分高い場合、水晶体の皮質に混濁が現れた。水晶体混濁を引き起こす照度の閾値は、波長808㎚では、曝露時間が長くなるほど低くなり、特に、曝露時間1分以下では、その0.35乗に反比例していた。また、曝露時間6分における波長1550㎚の閾値は、波長808㎚の閾値のほぼ2倍であった。ACGIHの許容基準は、照度のTLVが曝露時間の0.75乗に反比例するとし、また、波長には依らないとしている。TLVの曝露時間依存性と波長依存性について再検討する必要があると思われる。
キーワード:赤外放射,白内障,閾値,許容基準

培養細胞に対する紫外放射の殺細胞効果の作用スペクトル

SRR-No44-2-5
奥野勉, 宇高結子, 青木馨代, 中西孝子
 紫外放射は、角膜炎、結膜炎、白内障、翼状片、紅斑(日焼け)、皮膚の老化、皮膚がんなど多くの障害を引き起こす。作業現場における紫外放射のリスクマネジメントの前提として、それぞれの障害に関して、紫外放射の許容基準を制定することが望まれる。紫外放射の許容基準では、紫外放射の波長によって有害性の強さが異なることを考慮に入れる必要がある。本研究では、培養ヒト表皮角化細胞および培養ヒト結膜上皮細胞に対する紫外放射の殺細胞効果の作用スペクトル(波長依存性)を求めた。培養細胞に異なった波長と量の紫外放射を照射し、その2日後に、細胞のクリスタルバイオレット染色の濃度、および、乳酸脱水素酵素の培地への放出量を測定し、細胞生存率を評価した。各波長について、細胞生存率と照射量の関係から、細胞生存率50%に対応する照射量(50%致死量)を求めた。この50%致死量が有害性の強さを表すとした。紫外放射の有害性の相対的な作用スペクトルは、ヒト表皮角化細胞とヒト結膜上皮細胞のどちらに対しても、また、どちらの測定指標を使用して求めた場合にも、ほぼ同じであった。紫外放射の有害性は、約250㎚から約280㎚までの波長域でもっとも高く、それより波長が長く、または、短くなるにつれて、急速に低下した。本研究の結果は、皮膚障害および結膜障害に関する紫外放射の許容基準を制定する際の基礎データになると思われる。
キーワード:紫外放射,作用スペクトル,許容基準,50%致死量,波長依存性

マウスの網膜に対する光の有害性の波長依存性

SRR-No44-2-6
奥野勉, 海津幸子, 谷戸正樹, 大平明弘
 強い光(可視光)への眼のばく露は、網膜の障害を引き起こす。実際、適切な遮光をせずに溶接アークまたは太陽を見た場合に、多くの網膜障害が発生している。光による網膜障害を防止するための基礎データとして、さまざまな条件下における光の有害性の強さ(ハザード)を知る必要がある。本研究では、マウスを使用し、網膜に対する光の有害性の波長による違いを調べた。中心波長約420、440、460、500、540、580㎚、半値幅約20㎚、網膜における照射量170J/㎠または500J/㎠の光をマウスの眼に照射した。照射後14日目に網膜電図を測定した。その後、眼球を摘出してパラフィン切片を作製、HE染色を行った。網膜電図のa波とb波の振幅、および、切片における網膜外顆粒層の厚さを指標として、網膜の障害を評価した。波長540㎚および580㎚の光を照射した場合には、指標の変化は見られなかった。一方、波長500㎚よりも短い波長の光を照射した場合には、網膜電図のa波とb波が減弱、網膜外顆粒層の厚さが減少する傾向が見られた。その傾向は、波長が短いほど強く、また、照射量が多い方が強かった。本研究の結果は、マウスの網膜に対する光の有害性は、いわゆるブルーライトの波長域(約400㎚から約500㎚)において強いこと、さらに、その波長域の中では、波長が短いほど強いことを示している。
キーワード:光,網膜障害,マウス,ブルーライト

MR検査室での作業に関するアンケート調査

SRR-No44-2-7
山口さち子, 井沢修平, 原谷隆史, 今井信也, 奥野勉
 MRI検査(Magnetic Resonance Imaging:MRI、MR検査)は撮像に強力な静磁界を利用し、かつ、検査時以外にも磁界が残存する(漏洩磁界)特殊な作業環境下で行われることから、職業ばく露と健康影響に関して注目されている。そこで本研究では、MR検査業務従事者(主にMR検査担当の診療放射線技師)の労働衛生調査として、非電離放射線へのばく露機会やMR検査室での作業に関連した体調変化の発生程度に関するアンケート調査を行ったので報告する。調査対象者は、一地方自治体(政令指定都市2 市を含む)より、地域基幹病院に相当する16施設(MR装置のない施設も含む)217名に郵送調査を実施した。その結果、124名から回答が得られ、回収率は57.1%であった。基本属性については、男性76.1%、女性23.9%で、30-40代が3分の2を占めた。普段の自覚症状は、身体愁訴については、他業種(18.2±5.2)と比較した場合高い傾向が示された(19.4±4.8:いずれの値も男性のみ対象)。続いて、MR検査を現在取り扱う対象者82 名のみ抽出し、MR検査室での作業に関連した体調変化について解析を行った結果、「めまい(17.1%)」、「耳鳴り(13.4%)」、「頭痛(14.6%)」、「睡眠不足と関係ない不意の眠気(16.9%)」、「疲労感(26.5%)」、「筋肉の不随意収縮(10.8%)」の6 項目で有意に増加した(「増加した」v.s.「変化なし」、ノンパラメトリック符号検定、p<0.01)。上記6 項目について、Pearsonのカイ二乗検定(又はFisher の直接確率検定)を行ったところ、「検査件数」との間で最も有意な関連が観察された。一方で、日常業務では約90%の回答者は特段の影響を訴えておらず、MR検査室での作業に関連した体調変化が業務に与える影響は限定的であると示唆された。また、普段の安全対策として安全規格や漏洩磁界の把握程度は十分ではなく、今後これら事項についても啓蒙活動が必要になると考えられる。
キーワード:MRI,MR検査業務従事者,静磁界ばく露

液晶式自動遮光溶接面の切換え時間

SRR-No44-2-8
奥野勉, 小林憲弘
 近年、アーク溶接作業現場では、液晶式自動遮光溶接面(液晶面)が普及しつつある。液晶面は、その液晶フィルタプレートを、アークが点灯している場合には暗く、消灯している場合には明るくなるよう自動的に変化させる。したがって、液晶面は、アークの点滅にかかわらず、常に着用していることができる。アークの点灯から、液晶面がこれを検知し、液晶フィルタプレートを暗くするまでの時間が切換え時間である。切換え時間は、着用者の光への曝露を減らすため、短い方が望ましい。本研究では、液晶面の切換え時間の試験装置を開発し、これを用いて、現在、我国で市販されている液晶面の製品を評価した。調査した液晶面の切換え時間は、すべて規定値の60分の1 以下であり、EN379 の規定を満たしていた。しかし、切換え時間の逆数として求めた切換え速度は、カタログなどに記載されている切換え速度の公称値と、一般に、異なっていた。特に、一部の製品では、測定値が公称値よりかなり小さかった。その理由としては、液晶面を製造または販売する個々の会社が、切換え時間とは無関係に独自に切換え速度を定義し、その値を公表していることが考えられる。本結果は、切換え速度の公称値によって、切換え性能に関する製品の優劣を判断できないことを示している。液晶面を製造、販売するすべての会社が、同一の基準に従って切換え速度を評価し、その値を公表することが望まれる。
キーワード:液晶式自動遮光溶接面,切換え時間,アーク溶接,遮光保護具

No.3 発がん性物質の作業環境管理の低濃度化に対応可能な分析法の開発に関する研究


序論

SRR-No44-3-0
小野真理子, 菅野誠一郎, 古瀬三也, 萩原正義
 化学物質は従来の規制の対象外の物質でも、使用量や使用法によっては労働者の安全や健康に害を及ぼすおそれがある。そこで、厚生労働省は発がん性が疑われる物質に対してリスク評価を行い、発がんリスクが一定レベル以下になるような管理濃度あるいは管理の目標とすべき指標値を新たに示してきた。発がんリスクを考慮した場合には管理濃度等が低い値になることが想定される。すなわち、これまで多くの化学物質の管理濃度がppmレベルであったものが、発がん性物質についてはppbレベルに、すなわち2~3桁低くなる可能性がある。本研究では、低い管理濃度が設定される場合に備えて、新たな分析方法を開発する際に重要となる視点について、必要に応じて実験を追加しつつ既存の知見とともに整理し取りまとめることを目的とした。感度向上に関わる重要な視点として、1)目的成分の気体と固体が共存する場合の捕集法、2)捕集試料をガスクロマトグラフ(GC)に導入するための加熱脱着法、3)低濃度試料について溶媒脱着を行う際の留意点、4)質量分析装置を導入する際の留意点、の4点について整理した。対象とする化学物質は、厚生労働省が発がん性を考慮して管理する必要のあるものとして指針に示した物質のうち、GC法により分析可能な有機化合物を選定した。最終的には本研究の成果と既知の情報を整理しガイダンスとして公開していく。平成26年6月に労働安全衛生法の一部が改正されたことから、安全データシートの交付が義務づけられている640物質について、事業者が危険性又は有害性等の調査(リスクアセスメント)を実施し、必要に応じて作業環境測定をする際に有用な情報を提供可能である。

作業環境における低濃度の発がん性物質の分析法の開発に関する研究

SRR-No44-3-1
小野真理子, 菅野誠一郎, 古瀬三也, 萩原正義
 化学物質は、危険・有害な物質に対する規制対象外の物質でも使用量や使用法によっては労働者の安全や健康に害を及ぼすおそれがある。厚生労働省はこれまでも発がん性が疑われる物質に対してリスク評価を行い、過剰発がんリスクレベルが一定値以下となるような値を基に、管理濃度あるいは管理の目標とすべき指標値を設定してきている。発がんリスクを考慮した場合、管理濃度等は低い値になることが想定される。すなわち、多くの化学物質の管理濃度はppmレベルであるが、発がん性物質については2~3桁低くなる可能性がある。本研究では、低い管理濃度が設定されて、低濃度で管理することが求められ、かつガスクロマトグラフ法で測定可能な物質について、作業環境で使用可能な分析方法を開発する際に重要となる視点について、実験データと既存の情報を整理した。低濃度分析のための感度向上に関わる重要な視点は、1)適切な捕集法、2)加熱脱着法の導入、3)溶媒脱着を適用する際の注意点、4)感度向上のために質量分析装置を導入する際の注意点、の4点である。本研究の成果として、試料捕集時にろ過捕集法と固体捕集法を同時に使用することの重要性と、低濃度測定に使用する捕集剤として活性炭は適当でないことが明らかとなった。最終的には本研究の成果と既知の重要な情報をまとめてガイダンスとして公開することにより、より広範囲の物質を低濃度で測定する際に有用な情報を提供可能である。
キーワード:ガスクロマトグラフ法,GC/MS,作業環境,有機化合物,発がん性物質

刊行物・報告書等 研究成果一覧