労働安全衛生総合研究所

特別研究報告 SRR-No.39 の抄録

  1. 過重労働による疲労蓄積の予防に関する研究
  2. 石綿の職業性曝露経路及びそのリスクに関する研究
  3. 労働衛生保護具着用時の作業負担と機能性・快適性に関する研究
  4. 法尻掘削における斜面崩壊の予測・検知手法に関する研究

No.2 過重労働による疲労蓄積の予防に関する研究

プロジェクト研究全体の概要

SRR-No39-2-0
岩崎健二,高橋正也,佐々木毅,久保智英,岡龍雄,大塚泰正,毛利一平,久永直見,中田光紀,堀匡
 日本では過重労働対策が喫緊の課題となっており、その実施方法が整備されてきているが、一次予防に関するエビデンスと方法の提案が十分とは言えない。本プロジェクト研究は、過重労働(特に長時間労働)による疲労蓄積を予防するための方策を探るための研究として平成 18~20 年度に行われ、2 つのサブテーマ(I:蓄積疲労等に関する質問紙調査、 II:ゆとり勤務プログラムによる介入調査)を実施することにより、長時間労働の健康影響についての科学的根拠を更に充実させ、健康影響軽減のための方策を提案することを目的とした。
 実施した調査結果から、1)労働時間の上限の目安は週労働 50 時間(時間外労働月 45 時間)であり、週労働 65 時間(月時間外労働 100 時間)超では、うつ症状にも注意する必要があること、及び、長時間労働者の健康管理においては、上司・同僚のサポートなどの長時間労働の健康影響の緩衝要因の状況に十分注意を払う必要が示唆された、2)労働時間を短縮させることや週末の睡眠を充実させることは、労働者の疲労・眠気の軽減、パフォーマンスの向上、免疫機能の向上に効果があることが介入研究から示唆された。
キーワード: 過重労働,疲労蓄積,一次予防,睡眠不足,昼間の過度な眠気,うつ症状


No.3 石綿の職業性曝露経路及びそのリスクに関する研究


プロジェクト研究全体の概要

SRR-No39-3-0
森永謙二,菅野誠一郎,篠原也寸志,芹田富美雄,古瀬三也,戸谷忠雄,中村国臣,輿貴美子,神山宣彦,高田礼子,工藤光弘
 国内でも、石綿曝露による健康障害が、労働者のみならず石綿製品製造工場周辺住民にまで及ぶことが明らかとなり、石綿曝露の実態について社会的関心が高まった。本プロジェクト研究は、石綿曝露経路の実態を把握し、リスクコミュニケーションのもととなる基礎データを作成することを目的として、平成 18~20 年度に実施された。
 本研究においては、職場における石綿曝露の形態を記述するとともに、肺がんの原因となる石綿曝露の証拠となる石綿小体の評価に必要な石綿小体計測マニュアルを編集した。また、リスクコミュニケーションのもととなる基礎データとして国内の石綿製品製造・加工工場一覧を整備し、関係機関に配布した。
キーワード:石綿,曝露経路,中皮腫,肺がん,リスクコミュニケーション,石綿製品

No.4 労働衛生保護具着用時の作業負担と機能性・快適性に関する研究


プロジェクト研究全体の概要

SRR-No39-4-0
澤田晋一,前田節雄,奥野勉,上野哲,柴田延幸,石松一真,榎本ヒカル
 労働現場で使用されている労働衛生保護具には現在いくつかの重大な問題点がある。防護服では、市販の防暑・防寒服(具)の客観的性能が不明であり使用選択基準は作業現場の経験に依存している。防振手袋では、通達で防振手袋の使用が推奨されているが、どのような防振効果を持った防振手袋を使用すればいいかの規定はなく、国内外で販売されている防振手袋の振動軽減効果も明確になっていない。遮光保護具では、現行JIS規格の使用標準は障害防止の観点からは充分な科学的根拠に基づいているとは言えない。結果として、作業現場では労働衛生保護具着用に起因する種々の健康問題(特に暑熱寒冷障害、振動障害、眼障害等)が生じている可能性がある。そこで本研究は、防護服については、発汗歩行型サーマルマネキンにより防火服のサイズ、材質などが熱特性(顕熱抵抗)に及ぼす影響および防暑クールベストの冷媒の効果を解析した。また、足のサーマルマネキンを用いて、防寒靴、安全靴、静電靴などの温熱特性を定量的に評価した。いずれも、サーマルマネキンによる科学的、客観的な数値に基づいて労働衛生保護具の温熱特性を評価することの重要性が示された。防振手袋については、新しく制定・発行されたJIS T 8114(防振手袋)に準拠した防振手袋の振動軽減効果の評価システムを構築するとともに、国内外で入手できる防振手袋の振動軽減効果を新JIS規格準拠の装置を用いて明らかにした。また、指先振動感覚閾値を指標として防振手袋の振動軽減効果について検討し、事業者や作業者が振動障害を予防する為の防振手袋選択方法を提案することが出来た。遮光保護具については、市販の遮光めがねの金属製フレームからのニッケル溶出量を測定評価したところ、約60%に規制値を超えるニッケルが検出され、接触皮膚炎を引き起こしている可能性が示唆された。
 また、保護めがねの視認性・快適性に影響するオキュラ(フィルター)の散乱に関してISOと日本の試験法を実験的に比較し互換性を検討したところ、両者に相関なく、ISO規格改定のための重要なデータを提出できた。
キーワード:労働衛生保護具,防護服,防護靴,防振手袋,遮光めがね,サーマルマネキン,振動感覚閾値,ニッケル溶出,オキュラ


No.5 法尻掘削における斜面崩壊の予測・検知手法に関する研究

プロジェクト研究全体の概要

SRR-No39-5-0
伊藤和也,豊澤康男,玉手聡,武山峰典,村山盛行,小板橋琢馬,末政直
 斜面崩壊による労働災害は毎年繰り返し発生し、これらの中には一時に 3 人以上の死傷者を出す重大災害が多く含まれる。特に道路拡張工事や急傾斜地対策工事では、重力式擁壁などの対策工を実施するために法面勾配を従前より一時的に急勾配とする切土掘削作業が行われており、この施工中における労働者が被災する事故が報告されている。本研究は、平成 19~20 年度の 2 年間「イノベーション 25 研究」として実施し、法尻掘削時における斜面崩壊の予測・検知手法について、(1)法尻掘削による斜面崩壊の変形挙動および対策工の検討、(2)廉価で高精度な計測機器システムの開発についての研究を行ったものである。
キーワード:労働災害,斜面崩壊,法尻掘削,動態観測,土圧

刊行物・報告書等 研究成果一覧