労働安全衛生総合研究所

特別研究報告 SRR-No.37 の抄録

橋梁架設中の不安定要因の解明と安全施工技術の開発

序論

SRR-No37-01
大幢勝利
 橋梁の架設工事において,鋼製の橋桁等は架設地点の地形や周囲の状況により仮設構造物等で地上より支持することができず,完成するまでは不安定な構造となることが多い。このため,これらの架設作業の安全には非常に注意を要するが,経験豊富な熟練労働者の不足等により危険性が増大しており,架設中の橋桁等の倒壊により一度に多数の死傷者を出す重大災害がたびたび発生している。また,橋桁の架設・解体や補修時においては,コスト的な面や地上から足場を設置することができない等の理由により,橋桁の下につり足場を設置することが多いが,つり足場からの墜落災害も多く発生している。そこで,これらの災害を防止するため,橋桁の架設時におけるジャッキや支持台の不安定要因,橋桁架設工法の安全性,ケーブルエレクション等で使用するワイヤグリップの管理方法,つり足場の設置・解体時における不安全要因について技術的な面から検討していく研究を実施した。
(図1,写真3)

送出し工法における橋桁の安定性に関する研究

SRR-No37-02
高梨成次,大幢勝利
 鋼橋の架設工法の一つに送り出し工法がある。本工法によれば,短時間での架設が可能となる一方,送出し作業中に橋桁に局部荷重が作用する。橋桁完成時には,この荷重は作用しないため,設計段階で,見落とされることがある。そのため,十分な補強が施されないで,施工が行なわれることがある。そのため,施工時に橋桁の一部が損傷をうけ,橋桁全体の安定性を欠き,事故に発展することがある。そこで,本研究では,実際に橋梁架設現場で使用されている支持装置を用いた実験により,架設時に橋桁に生じる応力を確認すると共に,橋桁と支持装置の間に偏心が発生した場合に,それが橋桁の腹板応力に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。また,施工時荷重に対する橋桁の補強方法は,いくつか提案されているが,代表的な3種類の補強方法に対して,それらの有効性を破壊実験によって確認した。
(図32,表7,写真3)

サンドルの水平安定性に関する実験的検討

SRR-No37-03
大幢勝利,高梨成次,高橋弘樹
 橋桁の送り出し工法などにおいて,橋桁の仮受け台として小型のH形鋼などを井桁状に組み上げた,サンドルを使用する場合が多い。サンドルには,橋桁の自重などによる鉛直荷重と送り出し架設などによる水平荷重が作用するが,後者に対する水平安定性については,これまで作業員や技術員の経験や勘によって保たれてきた部分が多くある。このような状況の中,近年はコスト削減などの理由により少主桁が多用されているため,桁高が高くなる傾向にあり,必然的にそれを支えるサンドルの高さも高くなっているが,熟練労働者の減少からこれまでの経験や勘に頼った架設では,サンドルの水平安定性が保てなくなる恐れがある。しかし,サンドルの水平安定性について,実験や解析によって検討した研究はほとんど見受けられない。そこで本研究では,1列および2列の基本的な構造に組み上げたサンドルのタワーに対し鉛直–水平加力実験を行い,サンドルの水平安定性を保つ使用限界高さを明らかにした。
(図12,表1,写真8)

サンドルの安定性に及ぼす残留変形の影響

SRR-No37-04
高橋弘樹,大幢勝利,高梨成次
 橋梁工事において,橋桁の仮受け台として,サンドルと呼ばれる仮設構造物が使用される場合が多い。サンドルは,高さと幅が150mmのH形鋼に平鋼を部分的に溶接して補強した部材を,井桁状に組み上げて使われている。サンドルには,橋桁の自重などにより鉛直方向の荷重が作用するが,荷重を除去した後もH形鋼部材に変形が残ることもある。この変形は残留変形と呼ばれているが,サンドルは繰り返し使用されることが多く,中には残留変形のあるH形鋼部材が使われることもある。本研究では,サンドルの性能を確かめる基礎的な研究として,H形鋼部材の残留変形がサンドルの安定性に及ぼす影響を検討した。検討した結果,残留変形の存在がサンドルの1部材のみであれば,残留変形がサンドル全体の安定性に及ぼす影響は僅かであり,サンドルに橋桁などを載せても転倒するなどの可能性は少ないことがわかった。ただし,念のため,リブプレートの設置位置を中心としてリブプレートの厚さ(9mm)の3倍(27mm)程度より平らな部分が少ないサンドル材は、使用しない方が良い。
(図16,参考文献2)

ワイヤグリップの使用基準に関する検討

SRR-No37-05
佐々木哲也,本田 尚, 山際謙太
 ケーブルエレクション工法ではワイヤグリップが多用されるが,グリップ部分でワイヤロープが滑ることによる労働災害がしばしば発生している。本研究ではこのような労働災害を防止することを目的として,ケーブルエレクション工法で主に使用されるワイヤロープ形式に対して現状のワイヤグリップ使用基準の妥当性について実験的な検討を行った。その結果,現状のJISB2809-1996に参考として記載されているU字型ワイヤグリップの使用基準では,直径16mmを越えるワイヤロープに対しては効率80%を達成できず,グリップ個数の追加や締付けトルクの増加が必要なことが明らかになった。また,錆の発生などワイヤグリップの経年化によって,グリップ止めの効率が低下することも明らかになった。
(図11,写真3,表6,参考文献5)

つり足場の保有耐力に及ぼす施工精度の影響

SRR-No37-06
日野泰道
  橋梁工事などで利用されるつり足場は,大規模な耐震補強工事が近年数多く行われるようになったことをうけ,1トン近くに達する重量金物の搬入・取付のために利用されるようになってきた。そのため,従来ではあまり問題とされてこなかった“つり足場全体としての保有耐力”をより正確に知る必要性が生じている。本報は,その主要な構成要素である“つりチェーン”を複数本同時に使用した場合の基本性能を明らかにするとともに,施工精度の違いを考慮した“つりクランプ”の最大強度について検討を行った。
 検討の結果,設計用の許容荷重付近の性能に着目すると,複数のチェーンを使用した場合,使用した本数に比例した荷重増分が見込めない場合が多いことが分かった。また,つりクランプの最大水平強度は,適切な取付けをしたとしても小さな値であり,締付トルクが不十分である場合や取付角度が大きい場合は,その値が更に小さいものとなることが分かった。
(図4、写真4、参考文献4)


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