労働安全衛生総合研究所

特別研究報告 SRR-No.35 の抄録

情報化技術を援用した中小規模掘削工事の安全化に関する研究

序論

SRR-No35-01
豊澤康男
 土砂崩壊による労働災害の死亡者は,毎年20名前後で推移している。そのうち約半数が道路建設工事等における斜面の切取り工事などにおける斜面崩壊によるものである。
 こうした災害を減少させるためには,未解明な部分が多く残されている地盤崩壊メカニズム及び改修・補修など施工法の相違に起因する崩壊メカニズムの解明を行うと同時に,廉価で信頼性の高い計測技術による計測施工(計測に基づき危険性を予測しながら工事を進めること)を実施し,的確な判断基準によって崩壊の可能性を予知するなど,経費に余裕のない中小規模工事においても利用可能な計測施工に関する技術開発を行うとともに安全な施工法を採用することが不可欠である。本研究では,中小規模掘削工事の安全化に資するため,土砂崩壊災害を防止する包括的な対策を確立するため総合的な研究を実施した。(写真1,参考文献1)

切土掘削工事現場における斜面崩壊による労働災害の調査・分析

SRR-No35-02
伊藤和也,豊澤康男,堀井宣幸
 土砂崩壊による労働災害の死亡者は,毎年15・0名前後で推移している。そのうち約半数が道路建設工事等における斜面の切取り工事などにおける斜面崩壊によるものである。このような切土掘削工事現場における斜面崩壊による労働災害を防止するためには,過去に発生した同種の災害の実態把握が不可欠である。そこで本研究は,斜面崩壊による労働災害の実態把握および防止対策確立に関する基礎データーを得ることを目的として,斜面崩壊による死亡災害・重大災害(一度に3人以上が被災する災害)の事例調査・分析を行った。
ョ  その結果,約8割が地方公共団体発注の中小規模工事でのものが多く,その約7割は擁壁工施工時によるものであった。また,崩壊した地山の分析結果から,労働災害となる斜面崩壊は60度以上75度未満の勾配にて多く発生しており,崩壊土量は50m3未満が6割を占めており,小規模崩壊での被災が多いことが判明した。(図18,表2,参考文献22)

建設機械荷重作用下における掘削溝法面の安定性に関する研究

SRR-No35-03
豊澤康男,伊藤和也,楊俊傑
 建設機械を用いた掘削作業中に,法肩が崩壊したために建設機械が転倒し,運転者や周囲の作業員が挟まれたり,下敷きになって被災する災害が多発している。
 本研究では、建設機械を二つの帯状定荷重としてモデル化し,遠心場においてこの定荷重が掘削溝の直近の地盤に作用した場合の掘削実験を行った。
 その結果、定荷重の接地圧が地盤の強度に近い場合,斜面上の支持力問題として既往の研究結果に基づき解析が可能であり、定荷重の接地圧が地盤の強度より小さい場合は地盤重量と併せて定荷重の接地圧に起因する崩壊現象となることなどがわかった。
 本論により建設機械の載荷荷重の大きさと作用位置,地盤形状(斜面角度,掘削深さなど),地盤強度特性などの相対的な条件に基づき建設機械が掘削箇所に近づく場合の土砂崩壊に対する安全性が定量的に求められることが示された。これにより地盤強度に対応して、建設機械の重量制限、溝や斜面法肩からの接近距離などを求めることが出来る。(図16, 表3, 写真4, 参考文献22)

地盤の透水性と降雨強度の関係に着目した斜面の表層崩壊に関する実験的考察

SRR-No35-04
玉手聡,伊藤直幸,遠藤明
 本研究では豪雨による斜面の表層崩壊に着目し,その発生条件を遠心場降雨実験により調査した。降雨強度(rp)30mm/hrと降雨量(Rp)300mmを実大豪雨の標準条件に設定し,50g場における実験を行った。本実験では水と粘性が水の50倍であるシリコンオイルの2種類を用いて降雨を再現し,粘性の違いが遠心場再現に与える影響についても考察を加えた。模型の降雨強度と降雨量の条件はダルシー則を仮定した相似則に基づいて決定した。さらに,雨滴の粒径は1/50となる微小なミストで再現し,過大な衝撃力が地盤に作用しないよう工夫した。透水性が異なる模型地盤を豊浦砂とシリカ100の2種類で作成した。rpに対する飽和透水係数(ksp)の比を降雨浸透指標(Ir)と定義し,Irの違いが崩壊に与える影響を調査した。
 その結果,Ir=1.78では斜面表層に飽和層が形成され,崩壊する現象が確認された。一方,Ir=50では,地盤に浸透した降雨が速やかに消散するため,表層に飽和度の増加が見られず,変形も小さいことがわかった。以上より,Irの値の減少に伴って降雨中における斜面表層の不安定性は増加することが明らかになった。(図31,表9,写真18,参考文献26)

法面保護工の維持補修時における斜面安定性に関する検討

SRR-No35-05
伊藤和也,鈴木将文,豊澤康男,末政直晃
 高度経済成長期に風化・浸食・落石防止の為に斜面に多く施工されたモルタルやコンクリート吹付け工は施工後40年以上経ち,老朽化による維持補修工事が必要な箇所が多く存在している。その際,既設法面の撤去が起因となり斜面崩壊が発生し,作業中の労働者が被災する事故が報告されている。そこで,本研究は法面保護工の維持補修工事中に発生した労働災害事例を詳細に調査・分析し災害原因について把握する。そして,それらの状況等から法面保護工の維持補修工事中の斜面崩壊メカニズムについて遠心模型実験と数値解析による検討を行った。その結果,老朽化モルタルの撤去作業を斜面下部から行う場合では大規模崩壊が,斜面上部から行う場合ではモルタル面の剥落が発生するように崩壊メカニズムが異なることが確認された。(図10,表5,写真12,参考文献14)

切土掘削工事中における斜面崩壊メカニズムに関する検討

SRR-No35-06
伊藤和也,豊澤康男,Tamrakar S. B.,Timpong S.,堀井宣幸
  道路拡張工事や急傾斜地対策工事では,重力式擁壁などの対策工を設置して最終的な安定性を向上させることが多い。しかし,これらの施工中には,法面勾配を従前より一時的に急勾配とする切土掘削作業や,床付けに伴う法尻部の掘削作業など,法面全体が不安定化する作業が行われており,労働災害となるケースが多く報告されている。斜面崩壊による労働災害を減少するためには,斜面工事中に設置可能な簡易で廉価な計測・崩壊警報システムや安全な対策工法の普及が必要となる。計測・崩壊警報システムを適用する場合には,第一に斜面の切取り工事での斜面崩壊の崩壊パターンを把握すること必要となる。
 そこで本研究は,高さ5mの試験盛土を築造し,切取り工事中の斜面崩壊を再現する実物大実験を行った。また,実物大実験をモデル化した遠心模型実験を行い,その再現性と各種パラメーターの違いによる影響を確認し,切土掘削工事中における斜面崩壊メカニズムの把握を行った。(図25,表2,写真10,参考文献18)

高精度傾斜計による斜面崩壊の事前予測・崩壊システムの開発

SRR-No35-07
豊澤康男,伊藤和也,Tamrakar S. B.,有木高明,国見敬,西條敦志,大久保智美
  道路拡張工事や急傾斜地対策工事における重力壁などの設置工事中は,法面が急勾配となり,さらに法尻を掘削する施工が行われているため,斜面が崩壊し労働災害となる場合が多い。開削工事では土留めを設置することがほぼ常識である。斜面掘削時にも土留めの設置,計測による監視などの措置が必要である。特に斜面が長大である場合などでは,土留めの設置とともに計測施工(計測に基づき危険性を予測しながら工事を進めること)を取入れて安全な施工法とすることが必要であろう。そのためには,地盤の変位等を計測し的確な判断基準によって崩壊の可能性を予知することや,現在の計測器よりも廉価で経費に余裕のない中小規模工事でも利用可能な計測施工に関する技術開発が不可欠である。
 そこで,低コストで高精度を有する動態観測システムとして半導体型加速度センサーを利用した高精度傾斜計を斜面崩壊の動態観測・崩壊予知システムに適用するシステム開発およびその適用可能性について室内模型実験および実物大実験により検討を行った。その結果,労働災害が発生しやすい突発的で急激な小規模崩壊についても精度良い計測が可能で,崩壊直前の前兆現象を捉えることが出来ることを確認した。(図17,表3,写真8,参考文献7)

斜面工事における簡易な安全監視のためのスクリュー貫入型表層ひずみ計の開発とその適用性に関する実験的研究

SRR-No35-08
玉手聡,遠藤明
  本研究では土砂崩壊による労働者の被災防止を目的に,簡易な斜面崩壊の検知装置を開発した。この装置は「スクリュー貫入型表層ひずみ計」(SPS)であり,全長1m,直径15mm,質量500g程度の小型で軽量な計測装置である。下端に備わるスクリューが本体を地中に貫入させるため,容易な設置が可能である。SPSの検知性能を現場実大実験と遠心模型実験で調査した。これらの実験では斜面を法先から段階的に切土して,崩壊が再現された。法肩近傍の斜面に設置したSPSは切土にともなう明確な応答を示した。この応答は同時に計測した天端沈下量と比較して同等以上の感度を示すことがわかった。
 従って,SPSは簡易に斜面の不安定化を検知することが可能であるとともに,既往の計測装置に比べて劣らない性能を有するがわかった。SPSは斜面が「止まっている」のか「動いている」のか,あるいは「その動きが速くなっている」のかを検出することが可能であり,斜面工事の安全監視に利用可能な装置であることがわかった。(図28,表8,写真14,参考文献24)

レーザー光と光センサーによる斜面崩壊の事前予測・崩壊システムの開発

SRR-No35-09
伊藤和也,豊澤康男,武山峰典,佐野哲也
  建設工事中の斜面崩壊による労働災害は,請負金額・工期・作業人数がいずれも小さな中小規模工事での被災がほとんどを占めている。これらの背景には,中小規模工事に対応した労働災害防止技術の開発の立ち遅れや,経費に余裕のない中小規模工事においても利用可能な簡易で廉価な対策工・警報装置が十分に整備されていないこと考えられる。本研究は,現状の計測器よりも廉価で経費に余裕のない中小規模工事にも利用可能な計測施工に関するシステムの開発を目的として,レーザーと光センサーを利用した変位計測システムの開発および試作を行った。
 本報告では,システムの概要と光センサーの性能確認試験結果,重力場模型実験による斜面崩壊実験や強制変位実験での計測事例を通して,土砂崩壊検知システムを試作し,その適用性について検討を行った。(図27,表2,参考文献21)

切土掘削工事現場における斜面崩壊による労働災害の防止対策について

SRR-No35-10
豊澤康男,伊藤和也
  第10次労働災害防止計画(平成15年度から5ヶ年計画)において「切土等の作業における斜面崩壊に対する効果的な対策を検討する。」とされており,本プロジェクトの一連の研究は,それに呼応するものである。斜面崩壊による労働災害を防止するには,計画の段階から設計・施工まで全体を通して包括的な見直しを行い,計画から施工までの全工程を通して安全な状態にしておくことが必要である。
 そのためには,(1)切取り斜面下で行う各種作業の必要性の見直し,(2)施工途上の斜面安定性の検討,(3)安全な施工方法の開発・普及及び(4)計測施工方法の開発・普及などが不可欠である。
 本報告では,掘削勾配に関する各種基準を示すとともに切土掘削工事における施工上の問題点とその対策の方法等について述べた。(写真1,図4,表3,参考文献12))


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