労働安全衛生総合研究所

特別研究報告 SRR-No.34 の抄録

産業リサイクル過程における爆発・火災災害防止に関する研究(最終報告)

混触危険性の評価手法について

SRR-No34-02
藤本康弘
 廃棄物処理産業では他の産業に比べ災害の発生頻度が高い。また,その中では液状廃棄化学薬品の混合による災害も目につく。しかし,廃棄物自体が持つ価値が低いため,危険性評価のためのコストは圧迫されている。このことは,特に小規模事業所において顕著である。そのような環境下では低コスト,簡易な操作へのニーズが高く,市販の反応熱量計は高性能であったとしても,コストと操作性の面で導入の負担が大きい。ここでは,簡易な混触試験手法として,温度差の測定による反応熱測定の手法を取り上げ,そのヒートバランスの定式化を紹介すると共に,その有効性の評価のひとつとして,不均一系における分散状態を市販の反応熱量計と比較した。そして,試作反応容器と市販の反応熱量計とで不均一系の分散状態をザウター径を表わす経験式で評価した場合,両者が不均一系の分散において,類似の反応容器として挙動していると考えうる結果が得られた。(図4,表2,写真2,参考文献3)

過酸化水素の反応における誘導期の検討

SRR-No34-03
熊崎美枝子
 化学産業の廃棄段階において,誘導期が存在する場合に危険性が高まる。本研究では誘導期について知見を得るために,近年誘導期を呈することにより爆発事故を引き起こした過酸化水素 H2O2 と塩化銅 CuCl2 の反応機構について検討を行った。
 本研究における実験では, Cu2- は酸化還元電位の高さとは逆に Fe3+ よりも H2O2 との反応速度が低いことが分かった。また,とくに CuCl2 による反応では反応速度について濃度および温度依存性が見られ,硫酸塩,硝酸塩では緩慢な発熱が見られる反応条件においても大きな発熱速度を示した。 Cl- の効果について検討したところ,他のアニオンとは異なり,強酸化性の化学種が生成することにより,反応速度を低下させる酸化銅沈殿の生成を抑制し, H2O2 の発熱反応を促進する効果があることが分かった。(図9,参考文献7)

廃棄過程における金属イオンによる反応への化学構造の影響

SRR-No34-04
熊崎美枝子
 化学産業の廃棄過程においては実験終了後の混合物や未使用の化学物質が,成分や混合による危険性を確認されることのないまま廃液タンクなどに集められる。その結果,多種類の化学物質が混合されることとなり,意図しない反応の危険性が生じる。そのような危険な混合状態を防ぐために,あらかじめ不安定物質と金属イオンの反応の起こりやすさについて予想して,適切な分解・爆発防止策を講じることができる手法を構築する必要がある。
 本研究では,金属イオンとの相互作用における不安定物質の構造効果を検討するために,配位子の異なる鉄(III)イオンとヒドロキシルアミンの混合における発熱挙動,およびメチル基を置換基として導入したヒドロキシルアミンとの混合における発熱挙動を調査した。その結果,鉄(III)イオンでは Fe3+ はヒドロキシルアミンとの接触と同時に大きな発熱を示したが,すぐに発熱速度は低下し,その後反応が継続した。一方 Fe(CN)63- では錯体中の鉄(III)イオンが鉄(II)イオンに還元されたのみであり急激な発熱は見られなかった。Fe(EDTA)- では沈殿の生成は起こらずに高い発熱速度を示した。(EDTA)4- が配位水を有しており,交換反応によってヒドロキシルアミン分子との相互作用が可能であるためと考えられる。また,置換基の位置によるヒドロキシルアミンの反応性を比較したところ,酸素原子が反応点であることが示唆された。(図6,表1,参考文献6)

数値計算による開放空間における爆燃の爆風の検証

SRR-No34-05
大塚輝人
 近年発達してきた水素利用において想定される漏洩爆発災害について,水素空気混合気の爆燃による爆風圧力を k-ε と Eddy-Break-Up モデルを用いた簡易で再現性の良い数値計算を用いて検証した。計算対象は非常に小規模ながら,着火時刻を遅らせることにより爆風の変化を検証することで,爆風に寄与するエネルギー量と,伝ぱ速度の関係を考察した。その結果,TNT当量に代表される爆発のエネルギーの換算の必要性は,その大部分が燃焼伝ぱ速度の違いによってエネルギーが圧力波先頭に集中しないことによっておきることが考察され,爆燃での災害におけるエネルギーの推定は,伝ぱ速度を考慮しない場合不確定にならざる得ないことが判明した。(図6,参考文献11)

RDF堆積層内の燃え拡がり

SRR-No34-06
八島正明
 本研究では,RDF堆積層内を上方に燃え拡がる特性を明らかにするために,堆積層内の温度変化,火炎の形成状況を調べた。さらに,燃え拡がり実験終了の際の消火作業で見られた様子について調べた。実験では,ホットプレート上に載せた断熱材円筒容器内(内径160 mm,高さ350 mm)に,RDFを300 mm高さで堆積させ,底面(熱面)で着火させた。実験の結果,(1)底面からの通気がない条件においては,上方への平均燃え拡がり速度が 0.24 から 1.8 mm/min であり,スモルダリングにおける範ちゅうの速度であること,(2)温度分布からは燃焼領域が広いこと,(3)燃え拡がりとともにRDFが燃えて堆積層が崩れると,それまでのRDF間の隙間が大きくなり層内への上方からの空気の流入が容易になり,火炎が形成しやすくなること,それが燃え拡がりを加速すること,(4)燃え拡がりが堆積層の上面に達する終盤では,突発的に大きな火炎が形成する場合があること,(5)RDFが多成分からなり,吸水性があり,熱容量が大きいことから,不完全な消火では,不完全燃焼のほか,副次的な反応も相まって可燃性の熱分解ガス,COを発生し,それが火災の再燃あるいはガス爆発の危険性につながること,などがわかった。(写真4,図5,参考文献27)

粉じんの爆発圧力放散設備に関する野外検証実験

SRR-No34-07
八島正明
 研究所では,技術指針「爆発圧力放散設備技術指針(改訂版)NIIS-TR-No.39(2005)」を平成17年6月刊行した。野外爆発実験は,技術指針の改訂内容に沿って爆発放散口を設けるべき装置・容器などについて,ガス爆発と粉じん爆発の爆発指数に対する放散面積の妥当性を検証し,爆発抑制の効果を調べるとともに,火炎の噴出状況など周囲への影響を調べ,周辺への防護対策を講じる際の有益な知見を得ることを目的とする。実験は,全般的な準備不足,実験期間,天候,マンパワー,予算などの制約のため,粉じん爆発についてのみとし,平成18年3月実施した。実験では,木粉を試料とし,0.2, 1, 6, 20 m³ の容器を使用した。6 と 20 m³ の容器を使った実験は国内では初めてである。測定では,容器内圧,容器内の火炎の伝ぱ速度,噴出した粉じんの速度,火炎の到達距離,音などを調べた。粉じん爆発に関する放散面積の算定式については,妥当であると判断された。しかし,技術指針で基礎データとなる P maxK St については,慎重に評価して用いるべきであることがわかった。(写真19,図8,表2,参考文献47)


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