労働安全衛生総合研究所

特別研究報告 SRR-No.32 の抄録

建設労働災害の発生原因としてのヒューマンエラー防止に関する研究(最終報告)

建設作業における不安全行動の発現とその防止対策に関する職位による意識の相違

SRR-No32-01
庄司卓郎,江川義之,高木元也
 建設作業現場で働く元請けスタッフ(所長,現場職員)と協力会社スタッフ(職長,作業員)を対象として,事故・不安全行動の発生やその対策に関するアンケート調査を行った。その結果,職位(所長・現場職員・職長・作業員)により回答パターンの違いが観察され,特に所長と作業員の間で大きな差がみられた。所長は,多くの要因が事故や災害を誘発すると考え,元請け会社で出来る安全対策や,協力会社の安全意識の低下防止に気を配っていた。一方作業員は,意識や作業管理上の問題を所長よりも問題視せず,対策に関しては具体的な安全対策の必要性を感じ,巡視や罰則などを低く評価していた。元請けの所長・職員と協力会社の職長・作業員の,作業や安全に関する意識の相違を理解し,それを解消し,安全への共通した認識を共有することが優れた安全文化の構築につながりひいては作業現場の安全に結びつくものと考える。(図4,表4,参考文献9)

建設作業現場における安全情報の伝達に関する研究

SRR-No32-02
江川義之,高木元也,中村隆宏
 建築現場の情報伝達経路は,元請と下請という「縦型」,協力会社間での「横型」がある。また多くの作業者に伝達可能な「一方向型」,相互間で質問がしやすい「双方向型」がある。現場調査の結果,朝礼と新規入場者教育は縦・一方向型で伝達を行い,KYミーティング・作業調整会議などは,縦・双方向型と横・双方向型を組み合わせて伝達を行っていることがわかった。さらに新規入場者教育の質問紙調査を行った。その結果,教育担当者は新規入場者が初めての現場で危険予知がしにくい,あるいは作業指示が伝わりにくいため災害に遭いやすいと考えていた。また効果的安全教育方法として,入場者を職種で各グループに分けて,作業現場で安全教育する方法を考えていた。本報告ではこれらの結果を踏まえて,新規入場者の教育内容を2つに分類して実施する新たな教育方法を提案した。(図7,表4,参考文献11)

掘削機の小型危険体験シミュレータの開発

SRR-No32-03
深谷潔,中村隆宏
 大型の研究用の掘削機シミュレータを開発し,その運転者の挙動の研究を行ったが,これをもとに小型化・費用削減が可能なようにPCベースの小型の危険体験シミュレータを開発した。投影方式や動揺装置等について大型機との比較でその性能を評価した。映像が主体であるため動揺については,自由度を削減できた。
 また,スクリーン形状や配置の工夫で視野についても遜色ない。また,同種のものの導入に関して,システム構成の縮小の可能性について検討し,プロジェクタの8台から3台への削減が可能と判断した。可搬性については,分解して運ぶことは困難であるが,小型化できたので,全体を車載することは可能と思われる。(図14,参考文献7) 

安全教育における疑似的な危険体験の効果と課題

SRR-No32-04
中村隆宏
 労働安全教育の現場には、シミュレータの他にも「危険体感教育」「安全体感教育」「危険再認識教育」等、様々な形で疑似的な体験を取り入れた教育手法が展開されている。しかし、労働安全教育に疑似体験を取り入れる際の理論的背景について十分な検討がなされないまま、「体験すること」のみが重視された結果、労働者の実質的な安全態度の向上につながらないどころか、むしろ労働者の不安全行動を助長する事態が生じることも懸念される。
 本研究では、労働安全教育における疑似的な体験の意義と位置づけ、疑似体験から学科教育へ展開する際の諸課題について検討した。教育効果の向上のためには、単に体験するに留まることなく、実際場面で遭遇する危険事象、ならびにその対処方法について具体的なイメージを形成し、日常的な経験と結び付けて展開を図ることが重要である。また、体験型教育が労働者のスキル向上を目的として実施される場合には、教育による危険補償行動に対して適切な対応を図らなければむしろ災害発生率を高める可能性があり、新たな教育手法の普及・展開においては、十分に考慮する必要がある。(図4,表1,参考文献9)


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