労働安全衛生総合研究所

特別研究報告 SRR-No.31 の抄録

仮設構造物の耐風性に関するアセスメント手法の開発

序論

SRR-No31-01
大幢勝利
 建設工事は屋外作業が多いため天候の影響を受けやすく,強風による足場などの倒壊災害が多発しており,これらの中には多数の死傷者を出す重大災害に発展したものも多くあった。これらのことから,天候の中で特に風についての安全対策は重要視されてきた。事実,風による足場の倒壊災害の事例調査や風荷重の算定方法に関する研究がなされ,続いて,風荷重に対する鋼管足場等の安全技術指針が制定された。しかし,近年においても強風による足場等の倒壊災害は依然として発生しており,新聞紙上をにぎわすこともある。このため,建設工事中の風による重大災害について調査した結果,倒壊災害の約10%は風が原因とされているものであった。また,風による死亡災害について分析すると,約半数が墜落災害であった。そこで,これらの強風による足場等の仮設構造物の災害を防止するため,平成14年度から平成16年度にわたり,プロジェクト研究「仮設構造物の耐風性に関するアセスメント手法の開発」を実施した。(図1,表5,参考文献7)

足場に作用する風荷重の実測調査

SRR-No31-02
大幢勝利,高梨成次,日野泰道,齋藤耕一
 足場等の仮設構造物は,飛来・落下物災害等の防止を目的として,足場の外周部はメッシュシート等で囲まれていることが多い。このため,風荷重など水平荷重に対する足場の安定性が問題となっており,実際に強風時に多くの倒壊災害が発生している。これらの災害の発生原因としては,足場と建物を連係する壁つなぎ材の破壊による倒壊や,足場を設置する建物の開口部を通り抜けた風による倒壊などが挙げられる。しかし,これらの現象は現行の風荷重に対する足場の設計指針では考慮されていない。そこで,本研究では,当研究所内に足場を設置して実測調査を行い,壁つなぎ材に作用する荷重の実測値と現行の設計方法による計算値との比較を行った。その結果,実測値が計算値を上回っており,かつ非常にばらつきが大きいことがわかった。よって,強風時に壁つなぎ材に作用する荷重の設計時には,壁つなぎ材の設計耐力をある程度低減する,あるいは風荷重を大きく見積もる必要があると考えられる。(図8,写真5,参考文献4)

風洞実験による実測調査結果の推定誤差に関する検討

SRR-No31-03
日野泰道,佐藤昇,ポンクムシンソンポル,大幢勝利,高梨成次
 足場に作用する風荷重の特性を定量的に把握するためには、様々な状況を考慮した検討が必要となるため、縮小模型を用いた風洞実験が実施されることになる。しかしながら、縮小模型を用いた風洞実験は、あくまで模型実験であるから、実現象との誤差は必ず生じる。そこで模型実験の信頼性を明らかにしておく必要がある。本報では、実測調査用足場とその周辺環境を模型化して風洞実験を行い、実測調査結果との比較を通じて両者に生じる誤差について検討を行った。
 検討の結果、実測調査結果は、定性的には風洞実験結果により推定可能であり、また模型化が難しく局所的な影響を無視しえない場合(樹木等の影響が極めて大きい場合)でなければ、比較的精度良く推定可能であることを明らかにした。(図10,写真1,参考文献8) 

仮設足場に作用する風荷重の評価方法に関する検討

SRR-No31-04
日野泰道,ポンクムシンソンポル
 建設途上の建物には、外壁に仮設足場が設置されることが多い。ところが仮設足場には、強風時において大きな風圧力が作用するため、強風対策を施した足場を用いる必要がある。強風により足場が倒壊し、作業員のみならず、一般歩行者や公共交通機関にも多大な悪影響を及ぼすからである。
 しかし建設途上の建物には外壁に開口部を有する場合が多いのに対し、現状における足場の耐風設計基準では、これを考慮していない。
 そこで本研究では,建物の外壁部の開口部の存在による影響を中心として検討を行った。具体的には風洞実験を行い,外壁開口部の影響について、定量的な把握を行ったものである。
 検討の結果、足場に作用する正面側の圧力と背面側に作用する圧力の特性を明らかにすることができた。そこで既往の建物に対する耐風設計基準と、本研究で得られた知見を融合し、最終的に新しい足場の設計法を提案することができた。(図16,表3,参考文献12) 

仮設足場の新しい耐風補強手法に関する検討

SRR-No31-05
日野泰道,大幢勝利
 第3章および第4章の検討により、足場に作用する風荷重を増大させる原因は、足場と建物の隙間に風圧力が生じる点にあることを明らかにした。そしてこのことは、この隙間への風の流入を防止するようにシートで補強すれば、足場に作用する風荷重を大幅に低減できると考えられる。
 そこで本報(第5章)では、この知見に基づいて足場と建物の間に風圧力を生じさせないよう足場の補強を行い、風洞実験および実測調査を実施して、当該補強方法の有効性について検討を行った。
 検討の結果、足場と建物の隙間をすべてシートで覆うという新しい補強方法により、足場の背面圧を低減させることができ、結果として足場に作用する風圧力の総和を小さくすることが可能であることを風洞実験および実測調査実験から明らかにした。(図9,表1,参考文献17) 

施工誤差が補強材の力学的性質に及ぼす影響

SRR-No31-06
高梨成次,大幢勝利
 一般的に足場は、水平方向の安定性に乏しい。そのため、足場は補強材によって建物と連結されることによって安定している。補強材に要求される強度は8.82kN以上である。設計では、安全率が2以上であるため、許容強度は、4.41kNである。建設現場では、補強材の施工状態が悪いものが少なくない。そのような施工状況にある補強材に十分な性能があるのかを調べる実験を行った。主な実験のパラメータは次の通りである。1)補強材の設置角度,2)支点間距離,3)固定用ボルトの埋め込み深さ,これらをパラメータとした実験結果では、施工誤差が大きい程、補強材の耐力は低下した。又、補強材の強度が、許容強度を下回る条件もあったが、必要とされる強度に満たない条件はなかった。(図12、写真3、表0、参考文献3)

施工誤差が足場の力学的特性に及ぼす影響

SRR-No31-07
高梨成次,大幢勝利
 一般に、足場は、力学的な一体性に乏しい構造物であり、風加重のような水平力に抵抗することは困難である。そのため、補強材が水平力に抵抗している。足場が様々な条件の基で、強風を受けた時に、補強材に発生する応力を実験によって調べ、、計算で得られる結果と比較することが研究の目的である。補強材の周辺の床知己布枠を外すと、その補強材の軸力は小さくなり、その他の補強材に荷重が集中する。又、補強材に施工誤差がある場合にも、同様の結果が得られた。これら、実験により得られた補強材の応力と一般的に活用されている計算方法によって算出された補強材の軸力を比較すると、補強材の施工が理想的であった場合でも、実験結果は計算結果よりも12%大きくなった。さらに、補強材に施工誤差がある場合には、実験結果は計算結果の1.5倍となった。この施工誤差は、許容範囲内の施工誤差であるため、これらの評価結果は、危険側の評価となっていることが分かった。そのため、施工誤差が確認された場合には、施工誤差を除去する、又は補強材を密に配置する措置が必要になる。(図15、写真2、表1、参考文献2) 

足場の組立・解体時の風環境下での危険性に関する実験的研究

SRR-No31-08
大幢勝利,日野泰道,高梨成次,佐藤昇
 建設工事中の強風による死亡災害について分析を行った結果,墜落災害によるものが最も多くみられた。また,強風以外の原因を含めた墜落災害の内訳を調べると,足場からの墜落災害が最も多く発生していた。これらのことから,強風による足場の倒壊災害防止に加え,足場からの墜落災害の防止に関する研究を行い,強風に対する足場工事の総合的な安全対策について検討する必要があると考えられる。
 そこで,本研究では,強風に対する足場工事の総合的な安全対策を確立するための資料を得ることを目的として,足場の組立・解体時の風環境下での危険性を調べるための被験者実験を風洞装置内で行い,風速と作業の危険性との関係について検討した。
 その結果,労働安全衛生規則の作業限界風速(10分間平均風速10m/s)以下の場合においても,足場の組立解体作業は非常に危険であるということがわかった。本実験結果をまとめ,強風下における足場の組立・解体作業の危険限界風速を提案した。(図8,写真5,表1,参考文献5) 


刊行物・報告書等 研究成果一覧