労働安全衛生総合研究所

特別研究報告 SRR-No.27 の抄録

化学プロセスにおける爆発災害防止技術

化学プロセスにおける反応暴走危険性の評価手法について

SRR-No27-02
安藤隆之,藤本康弘,熊崎美枝子
 化学反応プロセスにおいて反応の暴走が生じるか否かは,化学反応熱による加熱と周囲への放熱による冷却とのバランスによって決まる。ここでは,両者のバランスに影響する因子を列挙し,それぞれの重要性について検討した。ついで,最も重要である化学反応自体の挙動を評価するための評価装置の例として示差走査熱量計(DSC),加速速度熱量計(ARC),反応熱量計(RC1),小型反応熱量計(SuperCRC)を挙げ,それぞれの特徴について比較した。最後に反応危険性評価装置を用いて最近の事故の要因解析調査を行った例を2つ示した。1つは過酸化水素と金属塩化物との反応危険性について検討したものであり,もう一つはヒドロキシルアミンと鉄イオンとの反応危険性に関するものである。(図6,表1,参考文献5)

反応パラメータの実時間非線形最適化と測定予測

SRR-No27-03
大塚輝人,水谷高彰,韓宇燮,藤本康弘
 災害を避けるためにもっとも必要なものは「正確な予測」である。現在に至るまで,その予測を行うためのデータ収集の試みが多々行われてきた。しかしながら,それらデータは限られた条件下で集められているため,実際のプラント等に適用するためには理論に基づいた外挿を行い,さらには大きな安全率を取ることが必要であった。
 本研究では、近年の計算機の発達を受けて、実際のプラントから得たデータをその場で解析しそこからプラントの状態を予測する手法を提案し、ベンチスケールのプラントに適用して実用できることを検証した。(図6,表1,参考文献9)

液・液不均一系のバッチ反応における撹はん速度と発熱速度の関係

SRR-No27-04
藤本康弘
 液–液不均一反応プロセスにおいて,機械的な撹はん操作に何等かの不備が生じたことによる暴走反応が多く発生している。したがって,いろいろな撹はん条件における発熱挙動を明らかにすることが,同種の災害の再発防止に有効である。
 本研究では,撹はん条件が不適切なために生じたと推定される,ある災害事例を取り上げ,いろいろな撹はん速度における液–液不均一反応の反応速度(発熱速度)の変化の様子を計算で予測する手法について検討し,バッチ反応系における液–液不均一反応の発熱速度の時間変化を示す実験式を,その撹はん速度を変数として表現できることを示した。今後,スケールアップした系での本実験式の適応性を明かにしていくことで,これまで取り扱いの困難であった不均一反応系の反応速度の制御に有用な指針となることが期待できる。(図6,参考文献5)

管路における粉じん爆発火災の伝ぱ挙動と機構

SRR-No27-05
韓宇燮,八島正明,松田東栄
 管路内の粉じん火炎伝ばの基礎的な知見を得る目的で,石松子粉を用い,粉じん雲中の火炎伝ぱや粒子の挙動を,シェリーレン光学系,高速度ビデオカメラ,PIVを使って,1.85m(高さ)x0.15m(一辺)の正方形断面の燃焼管を鉛直に設置した状態で主に上方に伝ばする火炎を対象に調べた。粉じん火炎の燃焼帯は不連続で,そこには数多くの個々の燃焼粒子と,いくつかの粒子を囲んで燃焼する球状火炎(独立火炎)が存在することを明らかにするとともに,火炎に対する粒子速度の変化と局所的な粉じん濃度の変化を詳細に調べた。その結果,予熱帯の未燃焼粒子の滞留時間や着火遅れ時間を見積り,火炎伝ばに及ぼす粒子挙動の影響を明らかにし,拡散火炎の石松子粉じん火炎が粒子の動きとともに伝ばすることを推察した。(図8,写真1,表1,参考文献28)

配管内を伝ぱする粉じん火災の抑止(水噴霧、消炎金網、不活性ガス隔離による消炎)

SRR-No27-06
八島正明
 配管内を伝ばする粉じん火災の消火・爆発抑制装置の開発に必要な消炎に関する基礎的な知見を得る目的で,石松子粉を用い,火災に水噴霧を行った際の消炎挙動,火災が伝ぼし始めてから流路に消炎素子(金網)を急速に挿入した場合の消炎距離,不活性ガス(Ar)を噴射することで伝ばする火炎の前方に不燃領域(隔離領域)を形成した場合の消炎挙動を調べた。実験の結果,水噴霧によって予混合火炎と同様に粉じん火炎を抑止することができた。ただし,粉じん火炎では希薄な粉じん雲濃度であっても先行する火炎の背後に二次火炎が形成することがあるため,噴霧時間を長くする必要がある。目開き0.46mmの金網について,複数重ね合わせることで消炎できたが,内容物飛散防止と圧力放散効果も期待できる。不活性ガスを噴射する場合,着火後,早く噴射しても火炎の伝ばとともにガスが同じ方向に流動するので長い配管でなければ隔離効果が小さい。(図6,表2,写真2,参考文献36)

モニター用配線板を利用した実装配線板の絶縁評価

SRR-No27-07
本山建雄
 製鉄工場,化学工場など過酷な環境でも,狭ピッチの配線板が使用されつつあり,配線板の絶縁性低下の評価が課題になっている。
 本研究では櫛形パターンのモニター用配線板を使用し,実装配線板が置かれている環境を評価し,間接的に絶縁低下を診断する方法について検討した。
 ここでは,櫛形パターンのプリント配線板の,配線間の並列の等価キャパシタンス分Cpと直列のキャパシタンス分Csの比Cs/Cpが1または2となる周波数の大きさによって,モニター用配線板の絶縁低下を判断し,実装された配線板の絶縁評価する方法である。実験の結果,周波数は配線間の絶縁性に対応することが明らかになった。(図16,参考文献12)

非対称誤り特性を有するガス検知システムの基礎的要件と構成法

SRR-No27-08
齋藤剛,池田博康,杉本旭
 自動化された検知動作の過程で,ガス検知に先んじて検知機能の正常性確認を実行することにより,非対称誤り特性を機能的に実現するガス検知システムの構成法を提案し,一例として,熱伝導度センサを検知器とするガスクロマトグラフと異種多重化論理に基づく三重化プログラマブルコントローラを用いたガス検知システムを構築した。動作確認実験の結果,本システムが所要の動作特性を満足しており,緊急時にガス供給を遮断するインターロックシステムとして利用できることを示した。提案した構成論理に基づけば,適用するシステムのリスクレベルに応じて要求される危険検知部の安全性能仕様の決定が容易となり,例えば,高頻度に危険検知と正常性確認を実行すれば,本システムを高リスク対応とすることが可能である。(図17,写真1,表2,参考文献21)

コンピュータを用いるプラント設備の安全制御設計手法と安全性評価

SRR-No27-09
池田博康,齋藤剛,杉本旭
 プロセス制御の安全計装システムにプログラマブル機器を利用する場合,特別な安全への配慮が必要になる。そこで,インターロックを基本とする安全制御の役割をシステムの独立防護階層の考え方に基づいて明確にし,機能的な制御器と安全制御器を階層的に組み合わせた制御システムを提案する。そして,プログラマブル機器のための機能安全規格を参考にして,安全制御器に要求される安全性能について検討を加えた。また,温水と冷水を混合循環させる簡単な熱交換器モデルを製作して,階層的な安全制御システムを構成した。配水の温度と流量を調整する基本プロセス制御に加えて,独立した温水遮断のインターロック制御系を設けて,この安全制御系の安全機能について検証した。(図7,写真1,表4,参考文献10)

化学プロセス災害情報データベースの構築

SRR-No27-10
板垣晴彦
 化学プロセスにおける爆発・火災危険性の明確化や事故後の原因調査の支援などを目的とする爆発災害防止支援システムの一部として,「化学プロセス災害情報データベース」を構築した。本データベースでは,当所で運用している爆発火災災害データベースの中から化学プロセス関連業種を抽出した上,化学プロセスを対象として収録項目を見直し,さらにその内容をコード化した。本報では,収録項目とその分類,及び,収録事例を整理・分析した資料として,化学プロセスにおける爆発・火災災害の発生状況や災害の型,各項目の集計結果を示した。(図3,表9,参考文献2,付図12)

化学プロセスにおける爆発災害防止支援システムの開発

SRR-No27-11
板垣晴彦
 化学プロセスにおける爆発・火災災害の防止のためには,過去の類似災害の情報を分析し有効な防止対策を講じることがきわめて重要である。そこで,化学プロセス爆発災害防止対策データベースを構築し,化学プロセス災害情報データベースと連携してデータを自在に引き出すシステムを開発した。このシステムでは,検索条件を自由に設定して過去の災害事例を瞬時に検索し,可能性の高い着火源や原因などの要因と防止対策を表示する。安全分野の専門家に代わることはできないが,過去の事故事例を背景に有力な爆発災害防止対策を数字の面から示すことができ,現場の実務者や安全担当者の良き助言者となることが期待される。(図6,表3,参考文献3)


刊行物・報告書等 研究成果一覧