労働安全衛生総合研究所

特別研究報告 SRR-No.26 の抄録

生産・施工システムの総合的安全制御技術の開発に関する研究(第4報)–最終報告–

化学プラントを対象としたヒューマンエラーに起因する災害事例の抽出手法の研究
(第1報;ヒューマンエラーに起因する事例の抽出手法の開発)

SRR-No26-02
韓宇燮,大塚輝人,水谷高彰,藤本康弘
 災害データベースから得られる知見は,類似災害の再発防止資料として貴重な情報を提供する。しかし,膨大なデータベースからヒューマンエラー関連情報を調べるのは,多くの時間と努力が必要である。また,データベースの記録は複数の人が作成するので,その記述や表現が一定ではない。このため,化学プラントを対象としたヒューマンエラーによる危険性評価で,研究者の判断基準や能力によらずにヒューマンエラー関連災害を客観的に抽出できる検索手法を開発した。
 本手法では和英辞典から類語辞書を作り,そこからヒューマンエラー関連キーワードを抽出する。これより,ヒューマンエラー災害関連の事例をデータベースから効率的,かつ客観的に調べることを可能にしている。本手法を利用して実際の爆発・火災災害データベースに対して検索を行った結果,ヒューマンエラー関連事例を精度よく抽出できた。(図9,表1,参考文献9)

化学プラントを対象としたヒューマンエラーに起因する災害事例の抽出手法の研究(第2報:キーワード及び事例検索結果の数量化解析)

SRR-No26-03
藤本康弘,大塚輝人,水谷高彰,韓宇燮
 前報で検索に用いたヒューマンエラー検索キーに検討を加え,数量化の手法を用いてその分類を試みた。具体的には,正規表現化検索キーとヒューマンエラーキーワードとの対応表から3段階まで和和辞書でキーワードを展開して得られた拡張対応表を用いて,数量化三類による解析を行なった。
 その結果,それぞれの検索キーについて各軸上のスコアが最大値を取る軸を対応させる手法を用いることで,検索キーの分類に有効な軸の選びだしが可能になった。また,当所の災害事例データベースに対して,正規表現化検索キーを用いて検索を行ったところ,747語の正規表現化検索キーのうち,この検索で利用できた単語は87語であった。この災害事例に最大スコアを持つ各軸に対応させることで,事例を分類するための2種類の軸を見つけだすことができ,それぞれ事例の内容から"外部要因–軸","内部要因–軸"と名付けた。(図6,表4,参考文献7)

施工環境シミュレータによる風荷重に対する足場の危険性評価

SRR-No26-04
大幢勝利,日野泰道,ポンクムシン ソンポル
 建設工事で使用される足場は,風荷重に対する安定性が問題となっており,強風時に多くの倒壊災害が発生しており,大規模な足場の倒壊も報告されている。これらの倒壊災害について検討すると,構造物と足場の隙間に吹き込んだ風により,足場の背面に作用する風圧力が増大し倒壊したと思われる事例が多く見られる。しかし,このような足場の背面に作用する風荷重については特殊な例を除いて検討されていない。
 そこで,本研究では,施工環境シミュレータを用いて,足場の設置状況や風向の変化等を考慮した風洞実験を行い,足場に作用する風圧力を測定した。その結果を基に,足場の危険性を評価するために開発した手法を用いて信頼性解析を行い,足場の背面に作用する風荷重の影響について検討した。その結果,足場に風が直接当たらない場合でも,足場と建物の隙間から吹き込む風により足場背面に大きな風圧が生じ,倒壊に対する危険性が高くなることがわかった。(図9,参考文献11)

一次近似信頼性手法による周方向貫通き裂付き配管の確率論的弾塑性破壊評価

SRR-No26-05
佐々木哲也
 大規模構造システムを構成する配管の破壊に対する信頼性を定量的に評価可能にするために,周方向貫通き裂付き配管の曲げ荷重による弾塑性破壊を対象として確率論的な破壊評価を試みた。
 具体的には,R6法オプション1を用い,破壊評価線図上の代表的な領域をカバーするような評価点に対して,FORM(一次近似信頼性手法),原始的モンテカルロシミュレーション,重点サンプリング・モンテカルロシミュレーションによって破壊確率を評価した。
 その結果,破壊様式や破壊確率に関わらず,FORMによって実用上十分な精度で効率的に信頼性評価が可能であることが示された。また,材料の降伏応力と弾塑性破壊靭性の間の相関が破壊確率に及ぼす影響を調べたところ,これらの間に正の相関があると,弾塑性領域や塑性崩壊に近い領域で破壊確率が大きくなることが明らかになった。(図7,表2,参考文献15)

建設用ロボットのリスク低減プロセスと安全設計手法の検討

SRR-No26-06
池田博康,清水尚憲,齋藤剛,呂健,大西政紀
 移動可能な建設用ロボットは,人間との共同作業環境下で移動したり,接触を伴った作業を行う場合もある。この新しい形態のロボットに対して人間の安全を確保しつつロボットの機能を発揮させるには,隔離と停止を原則とする従来の産業用ロボットに対する安全対策はそのまま適用できない。そこで,新しいロボットの安全設計を行うに当たり,改めて移動ロボットに関する安全要件を作成し,体系化した設計手順を示した。また,危険源の同定から始まるリスクアセスメントに対して,安全防護性能の緩和を考慮したリスク低減方法を提案した。さらに,リスク低減活動に従った階層防護設計の概念を導入して,防護層設計の手順と各階層の安全防護の安全性能について検討を行った。
 このような安全設計手法に基づいて,双腕マニピュレータを搭載する無軌道移動型の施工作業用ロボットの安全機能を行った。特に,人間がロボットによって衝突される,あるいは挟まれる危険源に対して,また,ロボットが転倒して人間が押しつぶされるという危険源に対して,各種リスク低減手段を適切に階層配置して,これらの手段の有効性を確認した。(図13,写真2,表5,参考文献23)

建設ロボットにおけるナビゲーション用ビジョンシステムの開発

SRR-No26-07
呂健,池田博康,安田克己
 労働災害比率の高い建設業における安全手段として,人間・機械協調作業環境下での早期危険回避と自律誘導機能を有する新型ロボットの開発が必要である。そこで,新型ロボットを実現するための要素技術として,従来の磁気タグ式やレーン追跡式に代わる新たなナビゲーションシステムの開発を行った。
 開発したシステムは3次元立体視を用いた目標抽出部と,伝統的な2次元処理を行う標識識別部から構成されるハイブリッドビジョンシステムである。目標抽出部は走行前方の広範囲に対し,対象とする物体の抽出及び粗い認識が行える。標識認識部は目標抽出部からの情報に基づき,重要目標に対しカメラのズーム・パン・チルト機能により重要目標に対する注視及び詳細な認識が行える。本研究では,このハイブリッド式ビジョンシステムの概要,目標抽出部と標識認識部の実現手法をそれぞれ説明し,設計仕様が達成できることを検証した。(図19,表7,参考文献18)

建設用ロボットを対象とした電磁環境に即した伝導性ノイズイミュニティシステムの開発

SRR-No26-08
冨田一,植木利之
 生産現場の電磁ノイズに起因した建設用ロボットなどの誤動作防止を目的として,生産現場の伝導性ノイズを模擬可能なシステムを汎用ソフトウェアを用いて開発した。
 イミニュティシステムの伝達特性の導出には、再現する電磁ノイズ波形と類似した波形を人力信号としてその応答波形を求め、これらのデータを用いて汎用ソフトによってイミニュティシステム固有の伝達関数を算出し、システム内の伝搬特性を考慮した入力信号が求められることが確認できた。
 また,現行のノイズイミュニティ試験に使用されている試験信号印加装置を用いて,試験回路及び制御装置について任意の電磁ノイズ波形印加への適用性を実験的に検討したところ,CDN,カレントインジェクションプローブ及び容量性結合クランプによって三角波状電圧波形,サージ波形の再現がほぼ可能であることが確認できた。(図16,参考文献2))

稼働率に配慮した安全制御システムの構築法に関する基礎的考察

SRR-No26-09
梅崎重夫,清水尚憲
 産業安全の分野では,稼動率に配慮した安全制御システムの構築が強く要望されている。しかし,これまでは安全性と稼動率の関係を両者のバランスを取るトレードオフモデルとして捉えていたために,安全性が向上すると稼動率が低下する事態を招いていた。そこで,システムの運用開始前までに徹底した安全方策を実施して災害の発生を確実に防止した後に,スパイラル的に生産性を向上させて行く自己発展モデルの構築を試みた。
 このモデルでは,安全方策の実施によって発生する機械停止の原因を設計者側が技術的に追求して抜本的な設備対策を図ることで,稼動率を顕著に改善できる。以上の議論を踏まえた上で最近信頼性・安全性の分野で話題となっているデイベンダビリティの産業安全分野への拡張可能性について検討したところ,この概念は非確定的なリスク低減策のうち設計段階で許容可能なレベルまで残存リスクを低減できないものに限って拡張可能性があることが判明した。(図10,表4,参考文献13)

マンマシンシステムの最適設計を目的とした安全設計支援システムの開発に関する研究

SRR-No26-10
清水尚憲,梅崎重夫
 国際規格などに含まれる安全技術情報は膨大であり,各現場への適用に当たっては相当の経験と勘が必要になる。そこで,これらの安全技術情報を設備の設計段階からシステマテイクに支援するためのツールとして,「安全技術情報データベース」,「労働災害データベース」,「3Dシミュレータ」,「実地検証システム」などから構成される安全設計支援システムを提案した。
 このシステムは,特定された作業に対する危険源の事前疑似体験,安全方策の適用や有効性の実証を行なうことで,設備稼働後における危険性や改善作業におけるコスト等を最小限におさえることができる。また,現在問題となっている産業現場における技術伝承の空洞化を防ぐ対策としても期待できる。(図5,写真4,参考文献5)


刊行物・報告書等 研究成果一覧