労働安全衛生総合研究所

特別研究報告 SRR-No.24 の抄録

生産・施工システムの総合的安全制御技術の開発に関する研究(第3報)–大規模生産システムを対象とした安全制御技術の開発–

プログラマブルな電子制御装置を利用した安全制御システムの最適設計法に関する基礎的考察

SRR-No24-02
梅崎重夫,池田博康,齋藤剛,杉本旭
 プログラマブル・コントローラ(PLC)を用いた安全システムが,産業現場でも広く利用されるようになってきた。このようなシステムでは,プログラムのバグ,PLCの故障,ノイズの影響などがあると,災害発生のおそれがある。そこで,異種冗長化と自動監視技術を適用したPLCシステムが,安全性をどの程度まで改善できるかを定量的に検討した。
 その結果,センサー及びシグナル・プロセッサーを対称誤り特性を持つ要素(たとえば,プログラマブルな電子制御装置など)で構成したシステムでは,独立した異種三重系以上の冗長化と,所定のチェック間隔を持つ自動監視機構の採用によって,高リスクと判断される産業機械にも適用可能であることが推察できた。(図9,表2,参考文献7)

人体と立体的形状を持つ物体の識別を目的とした二次元ブランキングシステムの開発と評価

SRR-No24-03
梅崎重夫,清水尚憲,小林茂信,川戸真二,田上憲一,石坂文二,松井順二,鈴木常夫
 大規模生産システムでは,人体と物体が混在しながら作業を行う場所が数多く存在する。このような場所では,材料や製品などが存在するときは機械の運転を可能とするが,人体が存在するときは機械の運転を停止させる人体と物体の識別システムが必要である。
 そこで,このような装置の一実施事例として,光線式安全装置の光軸の一部が遮光された場合でも,所定の物体が進入しているときに限って機械の運転を許可するブランキングシステムを開発した。
 このシステムでは,異種冗長化と自動監視を備えた汎用安全コントローラを用いることにより,フェールセーフな教示機能を実現した。また,このシステムを用いて最小検出径の計測実験を行ったところ,最小検出径は,人体と物体の間に1~2mmの隙間を設けたときに最悪値となること,物体が丸棒,三角棒,突出部分付き角棒の場合は,一部死角となる部分ができるために,最小検出径は単純に連続遮光幅とはならないことなどが判明した。(図9,表4,写真2,参考文献3

人体と平面的形状を持つ物体の識別を目的としたフローティングシステムの開発と評価

SRR-No24-04
梅崎重夫,清水尚憲,小林茂信,鷲崎一郎
 産業現場で使用されるロール機の災害防止対策として,光線式安全装置の使用が検討されている。しかし,この装置は人体だけでなく製品にも感応してしまうために,当該装置の使用は不可能であった。そこで,製品によって遮光された光軸数があらかじめ設定された数以下のときに限ってロールの運転を許可するフローティングシステムを開発した。
 これは,異種冗長化と自動監視を備えた汎用安全コントローラを用いてフェールセーフ化を図ったものである。これによって,ロールの自動運転時だけでなく,シートの送給やロールの清掃も考慮した安全システムを構築できた。また,このコントローラを応用して,フェールセーフな回転速度監視装置や安全距離監視装置を実現した。(図8,表4,写真1,参考文献4)

広大領域内の安全確認を目的としたレーザー式安全装置の開発と評価

SRR-No24-05
梅崎重夫
 大規模な生産システムでは,起動時の安全確認は作業者が広大な作業領域内を直接目で見て行うのが一般的である。しかし,人の視認能力には限界があるために,作業者による広大領域内の安全確認は相当な困難を伴う。そこで,作業者に代わって広大領域内の安全確認を自動的に行う安全装置の開発を試みた。
 これは,検知領域内に存在する回帰反射板からの反射光を常時確認する回帰反射形であるために,検知領域を30m近くまで延長できた。また,安全確認領域の両端に,レーザー光が安全確認領域の全域を走査していることを確認する正常確認領域を設け,かつ安全確認領域と左右の正常確認領域に設けた回帰反射板が特定のパターンを持つために,投光器出力の増大,スキャンニング装置の故障,回帰反射板の汚れ等が生じた場合でも,確実に機械の運転許可信号を停止できた。(図7,表1,写真1,参考文献2)

広大領域内の安全確認を目的とした複数作業者用安全確認システムの開発と評価

SRR-No24-06
梅崎重夫
 特定領域内に進入または退出する人員を正確に数えるのは,技術的にはきわめて難しい課題とされている。また,実際の現場では,作業者だけでなく,第三者(指名作業者以外の作業者や通行人,見学者など)の進入も考慮する必要がある。このため,本研究では,指名作業者と一対一に対応するキーを設け,このキーの挙動をもって作業者の挙動を把握する安全確認システムを開発した。
 このシステムでは,大規模生産システムで発生する作業者の挙動を,正常,危険側誤り,安全側誤りの3種類に分けて,それぞれの場合に応じたシステムを構築した。また,指名された一般の作業者だけでなく,作業指揮者や第三者の挙動も考慮したシステムを構築した。さらに,異種冗長化と自動監視機能を備えた汎用安全コントローラを応用してフェールセーフな安全確認システムを実現した。(図1,参考文献2)

産業用ロボットへの適用を目的とした旋回角度監視装置の開発と評価

SRR-No24-07
梅崎重夫,小林茂信,濱田健次郎,藤原一志
 ロボットでは,マニピュレータが特定の旋回角度に到達したことを検出するために,リミットスイッチなどを使用してきた。しかし,この方式は,特定の旋回角度で初めてスイッチが作動するため,ロボットの正確な角度の検出は困難であった。
 そこで,ロボットの旋回と共に移動する磁石によってロボットの周囲に円形状に設けたパワーリードスイッチを順次オンとしていき,これによってロボットの旋回角度に応じたアナログ信号を発生できる方式を考案した。
 この装置では,旋回角度の監視に磁気を使ったパワーリードスイッチを使っているため,故障時にフェールセーフな特性を実現でき,かつ電磁ノイズ環境等の影響を受けにくい。また,旋回角度に比例した出力電圧が出てくるため,現在の旋回角度を容易に把握しやすい。さらに,正常時と故障時で出力電圧が異なり,かつ故障時は出力電圧の大きさで故障発生箇所を特定できる。(図5,表1,写真1,参考文献1)

産業用ロボットへの適用を目的としたホールド停止監視装置の開発と評価

SRR-No24-08
梅崎重夫,小林茂信,濱田健次郎,藤原一志
 ロボットなどの機械設備では,作業者がロボットをホールド停止状態としたまま,ロボットに近接してトラブル処理,保全等の作業を行うことがある。そこで,ホールド停止中のロボットが暴走を開始したときは,直ちにロボットを緊急停止させるホールド停止監視装置を開発中である。
 この装置では,ロボットの暴走監視に磁気を使ったパワーリードスイッチを使っているため,故障時にフェールセーフな特性を実現でき,電磁ノイズ等の影響も受けにくい。また,軸の結合/切り離し機構が不要なため,装置の軽量化とコンパクト化が図れる。さらに,汎用安全コントローラとの併用によって,駆動軸の旋回角度のフェールセーフな記憶が可能である。(図4,写真1,参考文献3)

安全性とライフサイクルコストの両面に配慮した物流機械用安全制御システムの開発と評価 –分散型安全バス制御の提案–

SRR-No24-09
梅崎重夫
 物流機械では,安全確認システムの設計,製造,改造等に要する時間とコストの増大が実務上重要な問題となっている。また,人間と機械が協調して作業を行う物流機械では,リスクレベルの高い機械にも適用できる高い安全性が要求される。そこで,本研究では,「分散形安全バス制御」の提案によって,これらの問題の包括的な解決を試みた。
 このシステムでは,従来のリレー制御に代わって汎用安全コントローラを用いた制御とし,安全制御に関するプログラム作成を容易化できた。また,コントローラは異種冗長化構成とし,バスラインに村して定期的な自動監視(セルフチェッキング)を行い,安全性を高めた。さらに,安全手段とコントローラの間に専用のバスラインを設け,電気配線の省線化を図るとともに,バスラインをオープンな仕様とし,安全手段を容易に増設できるようにした。(図3,表1,写真1,参考文献1)


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