労働安全衛生総合研究所

特別研究報告 SRR-No.23 の抄録

バーチャルリアリティによる掘削機械作業の安全化に関する研究

序論

SRR-No23-02
深谷潔,梅崎重夫
 序論では,災害統計・災害事例により掘削機による災害の位置付けと概要の説明を行い,対策のアプローチを理論的に分析し,研究の位置付けを行った。
 建設機械等による災害は,建設業において第1位の墜落災害に次いで多く,中でも掘削機による災害はその半数以上を占める。その災害は概ね「挟まれ」「転倒」「飛来落下」「その他」の4つの型に分けられ,「挟まれ」が約半数を占める。そのため,掘削機の挟まれ災害の対策について研究した。
 「挟まれ」災害の防止には,掘削機側の対策と被害者側の対策がある。掘削機側の対策は,停止の原則に基づき人間がいるときには停止を行うことであるが,掘削機の運転は人間の手に委ねられているので,運転者に対する対策が必要となる。そのため,掘削機のシミュレータを開発して,運転者の挙動を調べる研究行った。さらに,運転者を補助するために,画像認識により人間の接近を検知する手法について研究した。
 また,被害者側の対策として,人間を近付けない対策について研究した。(図7,表3,参考文献4)

掘削機シミュレーターの開発

SRR-No23-02
深谷潔,梅崎重夫,呂健,中村隆宏,江川義之
 掘削機作業と掘削機災害の特長を述べ,その対策を研究する上で必要な要件について検討した。その要件を満たす人間工学実験用シミュレータを開発した。
 掘削機作業は前進のみならず後退・旋回が不可避であり全周囲に注意を払う必要がある。また,掘削の操作においては,地面とバケットの接触の反力が重要である。
 これらのことから,「事故となる状況を模擬できる」,「全周囲(360°)の環境を模擬できる」,「運転席の動揺を模擬できる」,「視点の計測ができる」等のことが必要となる。
 シミュレートのための技術として,HMDや大画面プロジェクションがあるが,HMDでは視点測定のためのアイマークカメラが使用できない。
 以上のような検討から,大画面映像と運転席を持つ掘削機シミュレータを設計製作した。大画面映像は,8画面の120インチスクリーンで正面のみ上下2面とする7角形を構成し360°の映像を得ている。運転席は,画像と連動して,掘削時や旋回時に動揺する。(図8,表2,参考文献2)

掘削機操作における眼球運動と有効視野

SRR-No23-03
中村隆宏,深谷潔,呂健,輿水ヒカル
 掘削機のオペレータは,操作中に何を見ているのだろうか?これは極めて単純な疑問であるが,災害発生の背景要因を探る上での重要性は高い。オペレータが周辺の危険対象を的確に認識し回避することで,周辺作業者が巻き込まれる災害を低減することが可能であるからである。しかし,こうした疑問に答える研究はこれまでに行われていない。
 こうしたことから,開発された掘削機シミュレータを利用したオペレータの眼球運動測定実験を行い,掘削機を操作する際の視覚的情報の獲得行動に関する基礎的なデータを収集した。その結果,オペレータは作業を行うために重要な情報となる対象を注視し,特にバケットに対する注視割合が高いことが確認された。
 さらに,ターゲット検出課題を組み合わせた有効視野の測定実験を通じて,オペレータの反応時間及びターゲット検出率に影響を及ぼす要因について検討した。(図26,参考文献16)

画像認識・計測を用いた危険領域への進入検出方法の検討

SRR-No23-04
呂健,深谷潔
 本報告は掘削機用侵入検出装置に使われる検出方法について論じるものである。周辺作業員の侵入を対象としたものは,人体の放射赤外線センサ方式,超音波センサ方式及びレーザセンサ方式が研究・開発されているが,いずれも未解決の問題が多数あり,画像認識・解析方法を用いた新型視覚センサーに対する期待が高い。
 本報告の前半部分では,周辺作業員を対象とする侵入検出について報告する。画像認識を用いた侵入検出方法の実用性について,実験を行い,検討した。具体的には,作業帽(ヘルメット)の色を認識する方法での侵入検出を検討した。
 本報告の後半部分では,周辺作業員以外の者を対象とする侵入検出について報告する。この場合,特定の標識を着用するのが実用的ではないので,立体視による三次元(3D)計測を用いた一般侵入体検出方法を提案した。(図8,表3,参考文献8)

掘削機への接近防止対策

SRR-No23-05
深谷潔
 隔離の原則に基づく安全対策の1つとして,人間を掘削機の作業領域のような危険領域に近付けないための柵があるが,これについて検討した。
 工場においては危険領域の防護は,背が高い柵を用い出入り口の監視を行っている。建設現場のように流動的な作業現場では,固定的な背の高い柵は現実的ではない。そのため,コーンを元にした簡易な柵に境界全域の監視機能を持たせる方式の提案を行い,柵部分の試作を行った。これによって進入防止効果の向上が期待できる。
 横棒一本の柵ではまたいだり,くぐったりされるおそれがある。またいだりくぐったりされない柵の高さについて実験的に検討を行った。その高さの範囲は狭く,身長に依存する。そのため,誰が来ても通過を防止するためには,少なくともまたぐのを防止する上の棒とくぐるのを防止する下の棒の2つの高さの棒が必要となる。(図8,表3,参考文献8)


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