労働安全衛生総合研究所

特別研究報告 SRR-No.15 の抄録

天井クレーンの経年損傷による倒壊防止に関する研究

総括

SRR-No15-07
橘内良雄
  1. ランウェイガータの損傷部は上フランジとウェブの接合部,リブ端部のウェブ,ガセットプレート近傍,上フランジとスティフナ接合部近傍等に発生しやすい。メインガータの損傷箇所もランウェイのそれと類似している。メインガータでは構造部分の他に巻き上げ,走行・横行装置のトラブルも多い。
  2. 損傷が発見されるまでの使用年数を見ると,調査したクレーンの約半数に損傷が発見され,15年経つと70%程度のクレーンに何らかの損傷が生じている。
  3. 定格荷重と損傷件数との関係を見ると,定格荷重の大きいクレーン程損傷件数が多く,しかも比較的早い時期から損傷が生じる傾向が見られることから,大型のクレーン程設計裕度が低く押さえられているようである。
  4. 天井クレーンの部材に作用する応力は,荷の巻き上げや走行時よりも,巻き下げの急停止時に大きな応力振幅が発生する。また,横行時に荷がスパンの中央付近に位置するときに,部材に比較的大きな応力振幅が生じる。しかし,それらの公称応力範囲は30MPa程度であって比較的小さい。
  5. 溶接残留応力を有する部材が変動荷重を受けて,欠陥から疲労き裂が進展する際の挙動を破壊力学を用いて評価するための方法について検討するために,溶接試験片に1ブロックが2段(2ステップ)からなる変動荷重を負荷して疲労試験を行った。その結果,き裂の進展速度を支配するき裂開口応力拡大係数K opは1ブロック中ではほぼ一定であつて,1ブロック中の最大荷重によって支配されていた。
  6. 残留応力を有する3種のタイプの溶接試験片の壊労き裂進展速度は,残留応力を考慮した各ステップの最大応力拡大係数からき裂開口応力拡大係数を減じてステップ毎の応力拡大係数を算出し,この応力拡大係数を単位ブロック中でm乗重み平均した有効応力拡大係数ΔK Rem評価することができる。
  7. 実験に用いたガセット溶接試験片の応力集中係数Kt を赤外線応力画像解析システムを用いて測定した結果,Kt は2.4程度の値をとる場合が多い。また,クレーンが受ける変動荷重を模擬したプログラム荷重下で調べた本ガセット溶接継手の200万回疲労強度は,90MPa程度である。
  8. クレーンが受ける変動荷重を模擬したプログラム荷重を受けるガセット溶接試験片の疲労き裂進展速度は,有効応力拡大係数△K Remとよい相関が認められる。
  9. K Remを用いてガセット溶接試験片の疲労き裂進展寿命を比較的高精度で予測することができる。
  10. ガセット止端近傍のき裂を板の両表面から補修溶接した場合には,補修時の余盛による断面増加,補修溶接熱によるSR(応力除去焼鈍)効果による初期残留応力の解放,および初期止端形状の変化に伴う応力集中係数の改善等の理由により,疲労強度が新製のガセット溶接試験片のそれよりも向上する。
  11. 長さが部材断面の半分に達するようなき裂を一方の表面側だけから補修溶接しても,補修箇所の板厚方向にき裂が残るため,補修効果は期待できない。
     しかし,き裂を両表面から補修溶接によつて完全に埋めた場合には,かなり疲労強度が改善される。
  12. 完全に破断した部材に片側からカバープレートを隅肉溶接したときには,部材間(き裂面間)にできる隙間近傍の補修溶接金属ののど部から,かなり低い応力でき裂が発生する。したがって,このような方法は補修には適さない。
  13. 文献や本実験データを基にクレーン部材の補修方法について検討した結果,き裂を機械加工あるいはガウジングによって除去後開先加工を行い,両面溶接する。溶接後グラインダ等により表面加工を行い,応力集中の軽減を図る。以上の処理によりある程度の補修効果が期待できると思われる。


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